有名馬主の後援者が取組前の支度部屋に入り込み、禁煙にもかかわらず紫煙をくゆらせるなど、緊張感も緩んでいる。もはや終戦ムードと言っていい。(日経)
これは横綱・朝青龍が千代大海に敗れた先場所、支度部屋の様子を報じたものだ。有力馬主が誰かは書かれていないが、朝青龍の後援者と言えば、あの人しか思い浮かばない。アドマイヤ軍団の総帥、近藤利一。ちなみに同日のスポニチにも、朝青龍が「支度部屋では馬主の近藤利一氏と談笑」していたと掲載されている。解体業から伸し上がり、相撲界でも競馬界でも絶大な影響力を持ち、押しも押されぬ実力者となった近藤。地頭も黙る阪神馬主協会会長である。今シーズンもアドマイヤジュピタで天皇賞を制し、ダービーにもアドマイヤコマンドという有力候補を送り込み、我が世の春を謳歌している模様。平家の世ではないが、「アドマイヤにあらずんば人にあらず」というのが今の競馬界だ。
近藤と言えば、去年、武豊の騎乗に不満をぶちまけ、アドマイヤオーラから降板させたエピソードは有名だ。以降、近藤は武豊と絶縁。自身や妻名義の馬に乗せることはなくなった。天下の武豊を降板させた馬主など前代未聞。ある意味、近藤は社台すら超越した存在と言えるかもしれない。 4頭の所有馬を出走させたを今春の天皇賞では、レース前に厩舎を越えて騎手や調教師を集めて決起集会を開くなど、これまでの常識を覆すことを多々やってきた。穿った見方をすれば、成金の傍若無人な振る舞い。一方で、傷害事件やナリタトップロードを落馬させた失格処分で、引退も考えていた後藤を励まし、アドマイヤコジーンで安田記念を勝たせるなど人情家の面もある。大阪市役所に福祉に役立ててほしいと300万円を寄付したこともニュースになった。良くも悪くも、漫画に出てくるようなベタベタのタニマチなのだろう。
この栄華を極める近藤利一に、真っ向から盾突いた命知らずの猛者がいたらしい。何と新人ジョッキー、三浦皇成(18)だ。「競馬学校の思い出はコンドームを買いに抜け出して見つかったこと」と堂々と発言し、デビュー前から臆するところのないニューフェイス。実力も10年に一度の逸材との評判に違わない。わずか2ヵ月あまりで22勝をあげて、先週の土日は全24レースに騎乗する記録を打ち立てた。この若武者が「もう、あの人の馬には跨りません」と近藤に果たし状を叩きつけたのには訳がある。詳細は評論家・清水成駿のメールマガジンに述べられていた。
「人はええ。馬はどないなったんじゃい」携帯に届いた落馬報告に、そうまくし立てた馬主。人とはジョッキー。それも昨日初めて手綱をとったばかりのアンちゃん騎手。問題はそれで終らなかった。今度は所属厩舎と馬主が、生産ファームの担当者をはさんでこじれた。結局は同じ冠がつけられた所有馬のすべてが転厩。最悪の形で幕がおろされた。唇を噛み、うつむくアンちゃん。が、まさに「親」であり、管理馬という財産をなげうち、体を張って自分を擁護してくれた調教師への恩は金輪際忘れまい。「もう、あの人の馬には跨りません」顔をあげ、キッとまなじり決したアンちゃん。思わず調教師に熱いものがこみ上げる。これで東西2人目の騎乗拒否宣言となった。(SUPER SELECTION メールマガジン「清水成駿の競馬春秋」)
3月2日の1000万条件、デビュー2日目の三浦が操るアドマイヤベッカムは、4コーナーで他馬と関係なく故障を発生。馬は転倒して予後不良。三浦も前のめりに地面に投げ出され、顔面頭部打撲のケガ。重賞初騎乗となるはずだった中山記念は乗り替わりとなった。三浦は「関係者のみなさんに申し訳ないです」と頭を垂れた。この一件がきっかけで、同馬を管理し、三浦が所属する河野通文師が近藤の怒りを買ったという。
実際、河野厩舎にいたアドマイヤキック、タイトル、フライトらが続々と転厩しており、メルマガの話も、根も葉もない噂ではないようだ。競馬界の平清盛に睨まれて、生き抜いていくのは並大抵のことではない。だが、奢る平家は久しからず。数年後、平成の牛若丸は義経となってアドマイヤ軍団をバッサリと倒す日は来るのか。屋島は天皇賞か、壇ノ浦は宝塚か。最後に天下を獲る頼朝は最初に反旗を翻したあのジョッキーか? 競馬は談合や運動会では面白くない。ひさしぶりの大型新人の暴れっぷりに期待して、勝手に源平合戦になぞらえ、耳なし芳一の気分で語り継いでいこう。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕す…。三浦皇成、東国にて挙兵のときを待つ。
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