カテゴリー「レース回顧」の183件の記事

2009.11.30

ジャパンカップ回顧 ”ウオッカ”というドラマの大団円

復活の勝利を望みつつも、勝つまでは難しいかもしれない。レース前、多くのファンの偽らざる心情でなかったか。それが現れていたのは微妙なオッズの揺れ。単勝はウオッカが1番人気でも、3連単のアタマはコンデュイットから売れていた。秋2戦、カンパニーに完敗していたウオッカ。最大の敵は折り合いと衰えゆく闘争心であるとされ、距離が延長されるジャパンカップでは条件はさらに厳しくなると見られていた。レースは武豊・リーチザクラウンが先手を奪い、アサクサキングス、エイシンデピュティが追いかける展開。ウオッカはその直後につけ、四位・レッドディザイヤは中団、内田博・オウケンブルースリは後方待機。道中も約12秒フラットの淀みないラップが続き、1000メートル通過は59秒0。前後半に差のないミドルペースが生まれた。エ女王杯、マイルCSと2週続けて逃げ馬に楽をさせてしまったことが、ジャパンカップでは騎手の心理として逆作用したのかもしれない。この流れ、ウオッカ陣営から「5、6番手の好位」を命じられていたルメールには願ってもないものだった。直線では一瞬の切れ味で後続を突き放すと、オウケンブルースリの追撃をわずか2センチだけ凌ぎきってゴールした。

ジャパンカップ、天皇賞秋と、これほどの大舞台で2センチ差の勝利を2度もモノにする馬はお目にかかれまい。ウオッカは”持っている”サラブレッドなのだろう。ルメールはレース後も勝利の確信が持てず、ウイニングランはおろか、引き上げてきた馬道でも関係者に「2着」のジェスチャーを送ったほど。ゴールを過ぎてからは、完全にオウケンの勢いが勝っていた。騎乗法にベストなセオリーがあり、それがゴール板ぴったりにスピードもスタミナもお釣りなく使い切ることであるならば、今回の手綱さばきは神業と表されるものなのかもしれない。ほかの乗り方で1着を取るシーンは思い浮かばない。ウオッカは騎手にとって難しい馬だ。掛かることを怖れれば、ハナに行くか、後方で抑えるしかない。昨秋の天皇賞のようなハイペースで先団追走が理想的な競馬だが、いかんせん展開は時の運。陣営が求めたのは、岩田が”独断先行”した去年の安田記念の競馬であっただろう。だからこそ、武豊を降ろし、「掛かるイメージを持たない」ルメールを配した。トップジョッキーの面子を潰す交代劇は勇気の要る決断だ。だが、不完全燃焼の秋2戦は陣営にマグマをたぎらせ、大きな賭けに出ることを後押しした。

レース後、ウオッカは鼻出血を発症していたことが明らかになった。症状は軽いが、日本牝馬初のJC優勝を果たしたことで、役目は終えたのだと訴えているよう。これ以上、ウオッカを走らせるべきではない。振り返れば4年、ウオッカの闘いは圧倒的な能力を誇示する過去の名馬たちとは一線を画すものだった。ライバルに逆転された桜花賞。それでもダービーを選び、勝利した64年ぶりの偉業。精彩を欠いた宝塚記念からの7連敗。その間には凱旋門賞断念もあった。安田記念での復活劇。ダイワスカーレットとの歴史的名勝負となった盾。海外遠征での挫折。そして、この秋…。これほどファンに喜び、怒り、哀しみ、楽しみを与え、見事な大団円を迎えた馬がいただろうか。オグリキャップか、トウカイテイオーか。ウオッカは彼らと同じく、数字だけでは語りえない”記憶”を競馬界に刻んだ。そうしたドラマを演出し続けたのが、谷水オーナーであり、角居師である。社交辞令ではない。リスクに過剰な恐れを抱くことなく、繊細に馬の状態を見極め、未踏の領野へ歩みを進めた。彼らの存在がなければ、ウオッカは一介のオークス馬に名を留めていた可能性もあった。一ファンとして、深く御礼申し上げたい。

同タイム2分22秒4、オウケンブルースリ。4角でコスモバルクの外を回すロスが、2センチの差となって響いた。しかし、これは結果論。先行勢総崩れのなかで、あれほどウオッカが脚を残しているとは計算できない。普通のレースなら楽勝だった。今回はライバルの能力も、手綱さばきも普通ではなかった。音無師は有馬記念出走には懐疑的のようだが、じっくり休養して春の盾には万全の状態で臨んでほしい。来年の古馬戦線はオウケンにかかっている。3着はレッドディザイヤ。この馬の好走で3歳牝馬のレベルの高さが改めて証明された。同等以上のポテンシャルのあるブエナビスタの古馬との対決も楽しみになった。4着にマイネルが連れてきたコンデュイット。押せ押せのローテで疲労が蓄積していたなかでの健闘、大いに評価されるべきだ。武豊のリーチザクラウンは9着。形としてはウオッカのラビットを務めることになってしまったが、今後も折り合いをつけられるかが課題になる。もしかしたら武豊はウオッカ陣営とは別の意味で泣きたい気持ちになったかもしれないが、こんなことで意気消沈するジョッキーではない。師走競馬は気持ちを沸騰させて、リーディング争い、ウチパク逆転へ猛スパートをかけてくる気がする。

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2009.11.17

エ女王杯回顧 直線を向いて気づく絶望的距離差

向こう正面で後続を大きく引き離したクイーンスプマンテテイエムプリキュア。この時点で波乱を覚悟していたからか、直線は半分は逃げきっちまえという野次馬的根性、半分は当たると思っていたメイショウベルーガ絡みの馬券が屑になったなという遣る瀬無さに覆われて、鬼脚で空しく追い込むブエナビスタを眺めていた。古今東西、荒れるレースの立役者は逃げ馬と決まっていても、レース前には忘れている。忘れているから荒れるのだ。競輪と競馬の違いは「追走義務違反」の有無である。前者は選手が責任を負い、後者は観客が愚者となる。私はおぼろげな記憶を手繰り寄せ、G1でこんな展開はいつ以来かと思い浮かべてみた。同じ淀の外回りなら、天皇賞春で7馬身差をつけたイングランディーレ。だけど、あの時は単騎だったし、スタミナの権化のような勝ち馬の脚は最後まで上がっていなかった。メジロパーマーの有馬記念? ダイタクヘリオスが口を割りながら競っていった。その年の天皇賞秋で殺人的なペースを刻んで、レッツゴーターキンの追い込みを呼んだ狂気の2頭。トウカイテイオーは後ろにいたし、誰も追いかけようとしなかった。ハナ差に迫ったレーガシーワールドとパーマーの上がり3ハロンの差は2秒5。2頭で行ったが故にペースを錯覚させた。

それでも、今年のエリザベス女王杯、クイーンスプマンテの上がりは36秒8。ブエナビスタは32秒9だから、およそ4秒の差がある。やはり尋常ではない。スローペースになったのは、もちろん複合的な要因があろう。単騎逃げでなかったこと、京都大賞典で逃げバテたペアだったこと、圧倒的人気のブエナビスタもペースの指標たる武豊の馬も後方待機タイプだったこと。それに3番手で馬群にフタをしてしまったスミヨンもキーパーソン。生来の欧州のペース感覚が名手を狂わせたか、ラビットはバテるものだと無意識の判断があったか。よもや、契約を打ち切られたアガ・カーン殿下のシャラナヤを封じるための奇策だったわけでもあるまい。ともあれ、福永が嫌といった「死に役」を、遅まきながら横山典・カワカミプリンセスが買って出て進出を開始。連れて安藤勝・ブエナビスタも一気にまくったものの、直線を向いて初めて絶望的な距離差に気づいたというのだから、まったく競馬は恐ろしい。着外に沈む普段と同じラップでゴールした格下馬を、凱旋門をめざした女傑は捕まえられなかった。騎手は俯瞰してレースをしているわけではないという当たり前の事実を認識するとともに、勝ち馬と2着馬の主戦だった荻野琢真はどんな思いで福島のモニターを見入っていたのかと、脳裏を過ぎるだけだった。

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2009.11.03

天皇賞秋回顧 ”馬齢を重ねる”アドバンテージが結実

「8歳馬、旧年齢なら9歳ではないか」という先入観。あるいは「4着固定の馬券ならG1でも買いたい」といった口さがない意見に同調するところが私自身あったかもしれない。しかし、横山典カンパニーをスッと内々の中団につけると、直線でも32秒9の脚を引き出して完勝させてしまった。レースの前半は59秒8と、想定以上のスローペース。後半は必然的に上がり勝負となるだけに、取りたいポジションに自在につけられる競馬の巧さが明暗を分けたのは当然だろう。騎手と気持ちを通じ合わせる術を身につけていった34戦の経験こそが、展開や枠順も味方に引き込み、盾で結実したと言ってよい。つい最近まで、追い込み一辺倒で多頭数を捌ききれない不器用なイメージを持っていたファンも多かったのではないか。ひとつのターニングポイントになったのは去年の中山記念。乗り替わった横山典があっと言わせる番手の競馬で勝利に導いたレースだ。この時、「目の前の勝ちを取りに行くだけの乗り方」と批難する向きもあった。しかし、振り返れば、イマイチくんから脱皮する新たな一歩だった気がしてならない。調教技術の進歩で息長い活躍もできるようになった現在、”馬齢を重ねる”のは無為な日々では決してなく、事を成すための大きなアドバンテージだ。

連覇が期待されたウオッカ。毎日王冠で逃げて差された武豊にとって、馬群で折り合いをつけ、好位から中団で競馬をすることが至上命題だったはず。スタートして控えることには成功したものの、他馬に寄られたこともあって、必要以上に位置取りは後方になってしまった。ある程度、速い馬が揃っていたにも関わらず、スローペースで淡々と進んだことも誤算だっただろう。直線では前がつまるも、そこから立て直して加速。安田記念の再現かと頭を過ぎったが、存分に脚を伸ばしていたカンパニーに並ぶことはできなかった。先に抜けていたスクリーンヒーローもクビ差、捕らえられなかったのは闘争心の減退を感じさせるところではあるが、ウオッカとて上がりは32秒9。不利な条件が重なっていく中、恥ずかしくないレースはしている。武豊は「完敗」と肩を落とし、角居師は「負け続けさせるのはかわいそう」と引退を示唆。ファンとしてはジャパンカップでもう1戦だけ、希代の名牝の走りを見せてもらいたいと願うが、馬よりも陣営にファイティングポーズをとる覇気が戻るか。

7番人気で連対、プチ波乱を呼んだスクリーンヒーロー。もう少し距離が必要かと思っていたが、この馬こそ府中替わりを待っていたクチ。父グラスワンダーもそうだったが、注目の下がったところで復活するのは血のなせる技か。ウオッカとは3馬身離れた4着にオウケンブルースリ。前が開かず、脚を余した印象。距離伸びるジャパンカップは条件は好転するが、人気も集めるだろう。2番人気の上がり馬、シンゲンが5着。ホワイトマズル産駒で、上がりの競馬は向かなかった。信玄は天下を獲れないものなのか。ドリームジャーニーは追い込みの競馬で6着。懸念されていた左回りで、スムーズに上がってくことができず、ペースもあわなかった。ところで、カンパニーの父、ミラクルアドマイヤ。トニービン直仔で、兄弟にフサイチコンコルド、アンライバルドがいる良血馬だが、種牡馬を引退後、ノーザンホースパークに移動。今は消息知れずという。カンパニーの活躍で一時は年171頭の牝馬も集めたが、他の産駒は鳴かず飛ばずだった。何処かで余生を過ごしているといいが、あまり詮索するのも無粋というものか。

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2009.10.27

菊花賞回顧 来年の飛躍を期待させる各馬の成長力

終わってみれば、菊に圧倒的な良績のあるダンスインザダーク産駒のワンツー。競馬は血の力であると再認識させられる結末だった。かたや、マンハタンカフェのBOX馬券など買っていた私は涙目であるが。レースは予想通り武豊リーチザクラウンがハナを切り、後続を離しての逃げ。最初の1000メートルは59秒9、次の1000メートルは63秒2。淀の3000メートルを逃げ切るには前半速く、中盤はゆっくり、後半は速く、というのが定石だが、馬の能力と絶妙なペース配分が伴わなければ、先頭でゴールを駆け抜けるのは不可能だ。リーチザクラウンは1番人気。スタートでアントニオバローズに競りかけられたり、リードを保っておきたい3角過ぎに後続が一気に差を詰めてくる展開では、脚が上がるのもやむを得まい。武豊はベストの騎乗で、能力を最大限に引き出したと思う。リーチザクラウンのポテンシャルを改めて感じさせ、父もそうだったように古馬になってからの成長に期待を持たせる5着だった。

勝ったのは浜中スリーロールス。4、5番手の内をロスなく追走し、直線も抜群の手応えでしっかりと伸びた。2着のフォゲッタブルとはハナ差だが、物見して外へ寄れた後、馬体を併せてから再び脚を繰り出しており、内容は完勝と言えるのではないか。私自身はノーマークに近かった馬で、レース後に前走の1000万特別を見直す体たらくだったが、長く鋭い脚を使う強い勝ち方に菊の好走も納得させられた。戦前、「武豊のG1逃げ切り勝ちがなし」なるデータが囁かれ、サイレンススズカの天皇賞秋がそうなるはずだったのにと思いを巡らせていたのだが、リーチザクラウンをねじ伏せたスリーロールスの馬主がスズカの永井啓弐氏とは不思議な因縁だろうか。フォゲッタブルは母エアグルーヴの超良血馬。去年のPOGで1位指名したので春のレースは注意して見てきたが、ひと夏越して別馬のように変わっていた。完成するのはまだ先だろうし、ジリ脚は解消されないだろうが、どこかでG1を獲れると嬉しい。

3着はセイウンワンダー。2歳チャンプということで、早熟馬とする向きも多かったが、一連のクラシックの健闘で疑念を払拭した。この馬も父と同じく、高い成長力を秘めているのかもしれない。菊は距離適性を遥かに超えていたのは明らかで、中距離戦線に戻れば一層の活躍が見込めるはず。4着に神戸新聞杯を制したイコピコ。最速で上がってきたものの、脚を余しての敗戦だった。終始16番手に控えたのは後ろすぎた。パドックでは落ち着きもあり、馬体もひと際良く見せていただけに、もう少し積極的な競馬をしてほしかったと思うのは結果論か。だが、来年は楽しみだ。6着にヤマニンウイスカー。これも結果論だが、この馬は逆に前々を追いかけすぎた。前走の準オープン大敗はまったく実力を反映していなかったわけだが、いずれ重賞に手が届く素質馬だということは確信させられた。アドマイヤメジャー、ナカヤマフェスタは距離不向き。アンライバルドも同じ。アントニオバローズは咽鳴りでレースにならなかった。休養と手術が必要だろう。

ところで、アンライバルドが勝ち、リーチザクラウンが2着、ブエナビスタが3着だった所謂「伝説の新馬戦」の4着馬が、スリーロールスであったことが話題になっている。去年の菊花賞当日に行われたこのレース、ざっと出走馬11頭の戦績を見直してみると、3秒差で殿負けしたファーエンドシュア以外、 10頭の馬が勝ちあがっている。各陣営、自信があるから、クラシックを意識する馬が集まる高レベルのところに参戦させてくるということなのだろう。今年、菊花賞同日の芝1800メートル新馬戦を制したのはローズキングダム。父はキングカメハメハ。母はローズバド。オークス、秋華賞、エ女王杯で2着した薔薇一族の名牝だ。2着はヴィクトワールピザ。こちらも兄にスィフトカレントらがいる良血。今回の敗戦は不利があってのもので、次走は確勝の気配。この2頭、やはりクラシック候補としてしばらく目を離さずにおいたほうが良さそうだ。

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2009.10.19

秋華賞回顧 レッドディザイアと松永幹師の勝利

勝負の流れというのは、ひとたび狂うと、思いもよらぬ方向へ連鎖していくから恐ろしい。春はディープインパクト再来と言われ、凱旋門賞制覇の夢まで託されたブエナビスタ。しかし、負けて強しだった札幌記念で渡仏をあきらめると、蟻洞を発症するトラブルに見舞われて調整が遅れた。そして、秋華賞。猛然と追い込んでレッドディザイアを捕らえたかに見えたものの、ハナ差だけ届かず。しかも、4角で藤田ブロードストリートらに不利を与えたとして3着降着の憂き目に。京都の内回り、ごちゃつく多頭数の競馬で内枠を引いたところから、運気は下降していたのかもしれない。鞍上の安藤勝も、それほど大きな進路変更はしたつもりはなかったようだが、直後にいたのが鬼脚を伸ばして3位入線したブロードだったのは不運だった。断然の本命馬ゆえ、道中は外へ出させてもらえるはずもなく、4角でも易々と進路が開く可能性は低かった。どうすれば良かったのかと、安藤勝が憤懣やるかたない気持ちになるのも理解できる。

勝ったレッドディザイアはローズSの負けを糧にして、攻めの姿勢を貫いたことが結果につながった。今回は猛稽古で究極の仕上げ。馬体はマイナス14キロと研ぎ澄まされた。レースでは内回りの不利を蒙らないよう、かかるリスクを恐れずに前々で競馬をした。桜花賞、オークスで後塵を拝したブエナビスタとの差を逆転しようと、真っ向から挑み続けた松永幹師のチョイスは非常にオープン且つ明快であり、レッドディザイアから馬券を買ったファンは勝っても負けても胸に落ちた臨戦過程ではなかったろうか。もちろん、レースで手綱を操ったのは四位ではあるが、中継に映し出された松永幹師の爽やかな喜びようも含めて、主役は馬と調教師だった気がしてならない。それとも、イソノルーブルから現役時代の印象を重ねるオールドファンの郷愁に過ぎないだろうか。松永幹師は次走についてブエナが走るレースを選ぶと答えている。もし、この2頭がジャパンカップでウオッカと対決することになったら、秋の楽しみがまた増えるのだが。

繰り上がり2着のブロードストリート。「スムーズなら突き抜けていた」と藤田。同馬はスタートでアオり、道中は馬群後方でブエナを虎視眈々とマークしていた。藤田はどのような思いで直線に向かおうとしていたのだろう。ポジションは内のブエナを見る斜め後ろ。4角では進路はなかった。前を行くレッドについていくつもりだったか、ブエナに並びかけて蓋をするつもりだったか。藤田ほどの騎手ならブエナが外へ寄ってくる可能性も予見していただろう。いずれにせよ、出遅れた藤田もまた、リスクを負った騎乗で勝ちを欲していたということであって、ギリギリの状況下で不利を受けて勝利を逃し、安藤勝はルールに従って処分を下されたということだ。今年1月、JRAは「『進路の取り方』に対する制裁基準」を見直し、ファンが理解しやすいようルール改定を行った。今回、G1連対馬を降着にするには裁決委員の葛藤もあったはずで、それは審議時間17分という長さに現れている。しかし、基準をオープンにしたことが”疑惑のオークス”とは違って、自らを律して背中を押すことになったのかとも感じた。

参考:
>>オークス疑惑の裁決? 騎乗停止も降着処分はなし(08/5/27)
>>”疑惑の裁決”が産んだ大改革 満たされぬ正しさ求めよ(09/6/19)

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2009.10.12

毎日王冠回顧 まるで去年のVTRを視るかの敗戦

天皇賞秋の前哨戦、毎日王冠。女王・ウオッカが出走して人気を集め、去年と同じVTRを視るようなレースをして敗れた。戦前はナムラクレセントやアドマイヤフジあたりが先導して、ウオッカはその後ろで折り合えるのではないかとの楽観論が強かった。それが単勝1.3倍という異常なまでの支持率を集めた原因でもある。今年もスピードの違いから抑えきれず、単騎逃げの形になってしまったが、ラップは去年よりコンマ7秒遅い60秒ジャスト。もちろん余力はあったのだろうが、それよりも全馬瞬発力勝負となると、ハナを切っている1番人気馬は圧倒的に不利だ。カンパニー横山典は少頭数を利して内に潜り込み、目標のウオッカを差すタイミングだけを狙っていた。従前の対戦からも明らかなように、直線の脚はウオッカと遜色ないものを持つカンパニー。4角での2馬身差は計算通りか。まな板の上の鯉と化したウオッカを1馬身千切り捨てた。展開と騎手の腕の勝利だ。

期待されていた新興勢力は古豪の前に敗戦の雁首を揃えた。ヤマニンキングリーはレース前に入れ込んでいたようだし、ナムラクレセント、スマイルジャックは力が足りなかった。唯一、見せ場のあったのは8歳馬ハイアーゲーム。長いトンネルからの復調が見えた。それでも本番で連対圏内に入るまでではないか。さて、去年の天皇賞秋ではダイワスカーレットと同厩・トーセンキャプテンが演出したハイペースで、理想的なレース運びができたウオッカ。盾連覇は上手く好位、中団で折り合いをつけられるかにかかっている。スタートして手綱を持っていかれる可能性のある外枠より、馬を前における内枠のほうが良いかもしれない。その場合は包まれるリスクもあるわけだが。いずれにしろ、ウオッカは対ライバルより、対自分が課題になろう。2年続けてトーセンキャプテンをラビットにすることもできまい。

京都大賞典は59キロを物ともせず、オウケンブルースリが菊花賞以来の美酒。春は阪神大賞典の敗戦で調子を崩して盾をあきらめざるを得なかったが、休養を挟んで馬に覇気が戻っていた。レースは東とは対照的に、テイエムプリキュアが予想通りの大逃げを打ち、オウケンブルースリは4角では後方2番手。直線では力強い伸び脚で差しきった。ジャパンカップの最有力候補と言えるのではないか。2着スマートギアも最後方一気。父マーベラスサンデーを彷彿とさせる。1番人気ジャガーメイルは4着。左回りなら巻き返せるのかもしれないが、賞金を加算できなかったのは痛い。翌日、12日(月)は盛岡で南部杯が行われ、エスポワールシチーが逃げ切り勝ち。2番手追走のサクセスブロッケンを直線で逆に突き放した。JCD再戦が楽しみだ。ブルーコンコルドは力の衰え隠せず5着。G1レース8勝の壁は非常に厚い。

*先週、不在の管理人はネコに予想コーナーを乗っ取られた上、 いきなり560倍の馬券を的中させられてしまいました。今後、予想の主筆はネコパンチ番長に禅譲することに致します。本人はネコゆえ、失礼な物言いをすることも多く、一日20時間睡眠とあって定期的に更新されるかも不安ですが、優しく見守ってやってください。

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2009.06.12

安田記念回顧 ウオッカを勝利に導いた武豊の経験深さ

気の抜けたコーラのようになってしまうが、ごく簡単に安田記念の回顧を。最大の見せ場は、内で進路を失ったウオッカのラスト1ハロンであったのは間違いない。その瞬発力の高さには頭を垂れるしかなく、府中で観戦していた私も度肝を抜かれた。武豊は「自身の騎乗は誉められたものではない」「ウオッカが強いからこそ勝てた」と殊勝な態度だ。スーパーホーネットあたりが脚があれば、ウオッカは脚を余して惨敗という、ドバイ前哨戦を思わせる結果もありえた。しかし、そうならなかったのは陣営の運の強さもあるだろうが、慌てることなく進路が開くのをギリギリまで待っていた鞍上の経験の深さ故というのは忘れてはならない。それにしても、谷水オーナー、角居師、武豊という良識あるトリオが栄冠を掴む姿は、心から賛辞を送りたくなるものだ。本命にしたカンパニーは4着。外を回した横山典の騎乗は文句のないものだったが、ディープスカイファリダットも完璧な騎乗をした分、馬券圏内に入ることはできなかった。二強以外で本命馬を探した予想としては、ハズレても納得の行く結果だった。

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2009.06.03

日本ダービー回顧 天恵はノリとロジユニヴァースに降る

昼過ぎに家を出て、新宿から京王線で府中競馬場正門前駅をめざす。電車を降りるとひどい雨。傘を持って来なかった私は屋根のあるところまで、ホームを駆けねばならなかった。週半ばから降り続けた雨で重さを増した府中の馬場だが、日曜の午前には多少は良くなり、差し馬も届き始めていた。ところが、この直前の土砂降りでひどい状態に逆戻り。不良となった9レースの準オープン・むらさき賞は、前へつけた1番から3番の内枠の人気薄馬が上位を占めて、3連単58万円の波乱となった。そして迎えた日本ダービー。雨はあがったが、ファンも関係者も騎手さえも、この馬場がどんな結末を導くことになるのか、予測できなかったのではなかろうか。それ故、戦前に予想された戦法を急遽、変更する陣営は現れなかった。ハナを切ったのはジョーカプチーノ。逃げ宣言の武豊・リーチザクラウンより先に行くのなら、中途半端なポジションは許されない。藤岡康は馬の気のまま後続を引き離す。このドロドロ馬場で1000メートル1分を切る狂気の沙汰としか思えぬハイペース。離れたリーチザクラウンは実質的な単騎逃げの形に持ち込めたとはいえ、2番手の同馬にとっても決して楽な流れではない。

4角、すでに力尽きたジョーカプチーノが後退。先頭に立ったリーチザクラン、さらに内から3番手につけていた横山典・ロジユニヴァースが伸びてくる。中団から馬場の良い外へ出したのはアプレザンレーヴ。ところが、内田博幸のムチ空しく、脚が上がってしまっている。通常なら差し馬が脚を伸ばしてくる直線半ば、後続の有力馬は馬群でもがき続けていた。ある馬は直線に至る以前にスタミナが空になり、ある馬は彼方を走る先行勢に戦意を喪失し、ある馬は脚を取られながら詰まらぬ差を詰めようとした。だが、最内を通ったロジユニヴァースには迫れない。4馬身差の2着にリーチザクラウン。極端なスタミナ勝負になり、ポジションとコース取りの差が明暗を分けた。「もっとも運の良い馬が勝つ」と言われるダービー。天恵は横山典とロジユニヴァースに降り注いだ。さりとて、運の良さだけで片付けられない皐月賞1、2番人気のワンツー。前走、ロジユニヴァースが大きく調子を崩していた原因は分からないが、減らしてた馬体はしっかり追いきってプラス16キロと、勝負できるだけの体調には回復していた。おそらく管理する萩原師は皐月賞の責任を感じていたろうし、ダービー前も状態を疑問視する声もあった。黙して結果を残したのだから立派なものだ。

勝ちタイムはキングカメハメハより10秒以上遅い2分33秒7。レースの上がりは39秒7、ロジユニヴァース自身は39秒2。瞬発力に長ける馬たちにとっては、本当に厳しい競馬だった。1番人気の岩田・アンライバルドは12着。大外枠でポジション取りは上手くいかず、馬場も気にしていたようだ。母系の血統から重は鬼ではないかと思っていたが、これほど悪くなった馬場には対応できなかった。唯一、後方から脚を伸ばして掲示板を確保したのが蛯名・ナカヤマフェスタ。馬場適性、コース適性は高かったのだろうが、調子を取り戻せばこれだけ走れるという実力を証明した。アントニオバローズ、アプレザンレーヴも秋に期待を持たせる内容ではなかったか。レース後、引き上げてきた横山典はヘルメットを脱ぎ、馬上から一礼。初めてのダービー制覇をファンは大声援で出迎えた。1番人気・メジロライアンで2着に敗れ、批判に晒された若者が涙したダービーから19年。あの後、生まれた息子は騎手の卵に成長し、この日、父親と抱き合って喜びを分かち合ったそうだ。私も同じ歳月、競馬を共有させてもらったのか。「19年は長いけど、あっという間だったよな。おめでとう、ノリ」 そう思えただけで、雨中のダービー観戦は充分に価値のあるものだった。

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2009.05.26

オークス回顧 ”日本のザルカヴァ”誕生への期待感

「女ディープ」の呼称に、少々違和感を感じていたレース前。しかし、先行、内枠有利、それを加速する雨上がりの馬場という、明らかに本命馬は前に行くべき条件が揃った中、またしても殿一気の競馬に腹を据えた安藤勝とブエナビスタには、”英雄”の姿を重ねても良いかもしれない。ヴィーヴァヴォドカがハナ、デリキットピースが離れた番手。それをディアジーナが引っ張る馬群が追走する、この間も見たことがあるような展開が現前された。6ハロンは1分13秒5の前傾ラップだが、ディアジーナ以下はやや緩めのミドルペースではなかったか。ブエナビスタは後方3番手。折り合いに専念して、脚を溜めていた。理想的なポジションを取ったのはレッドディザイア。インコースを通り、直線も最高のタイミングでスパートを賭けた。一方、ブエナビスタは4角で内か外か判断を迷い、仕掛けが遅れるロス。それでも1頭だけ33秒台の上がりを繰り出す猛追で、レッドディザイアをハナ差しきった。これがハナ差で負けていたら安藤勝、一生の不覚となったかもしれないが、届いてしまったところにブエナビスタが生まれ持った運の強さがあるのだろう。勝ったからこそ語り継がれる歴史になる。レッドディザイアも例年なら二冠を取っていておかしくない実力馬と評価すべき。

上位2頭、ともに父はサンデー直仔であり、母の父はカーリアンである。さらにブエナビスタの祖母(アグサン)と、レッドの父の母(サトルチェンジ)は姉妹だ。実に似通った血の持ち主が、牝馬クラシックで覇を競ったことになる。サンデー産駒でも、スペシャルウィーク、マンハッタンカフェのステイヤータイプというのも興味深い。ディアジーナは5着。この馬らしい競馬はできた。距離は2000メートル前後が良いか。ダノンベルベールは9着。本来のデキになかった。ワイドサファイアの放馬は何とも。鞍上の岩田はダービーで恥辱を晴らせるか。優勝したブエナビスタは、凱旋門賞へ直行することが明らかになった。去年、ザルカヴァの凄まじい差し脚に現地で衝撃を受けた者としては、同じく後方一気の破壊力が武器の3歳牝馬に期待を寄せないわけにはいかない。凱旋門賞は斤量的に3歳馬が圧倒的に優遇されており、このタイミングが遠征にはベスト。スタートの悪さも欧州では標準だろうし、ディープのように不本意に前に行かされるリスクは少ないほうが良い。春二冠の牡馬が菊を捨てるの反発もあるだろうが、牝馬だったことは幸い。ロンシャンでは女ディープではなく、日本のザルカヴァとなってほしい。それだけのポテンシャルを示す、気分を高揚させられたオークスだった。

>>凱旋賞リポート 最強牝馬が誕生したロンシャンの一日(08.10)

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2009.05.20

ヴィクトリアマイル回顧 やはり内枠、先行勢で決まる

やはりウオッカの実力はダイワスカーレットという希代の名馬を除けば、同時代の牝馬たちとの差は歴然としている。そう改めて噛み締めさせられたのがヴィクトリアマイルでなかったか。逃げたわけでもなく、マイルG1で7馬身差は圧倒的だ。好枠を利した武豊の騎乗も非の打ちようがなかった。これで武豊が勝ってないG1はマイルCSと朝日杯のふたつ。時折、体調を心配する声も聞くが、しっかりケアをしてまだまだ現役であり続けてほしい。2着以下は展開と馬場に大きく左右された。戦前の予想通り、スローの流れ、内枠有利。NHKマイルCもそうだったが、分かっていても術中に嵌ってしまうのが競馬の怖いところ。終わってみれば、何のことはない内枠の先行勢が2、3着で3連単は800倍。そのつもりでウオッカ1着固定で買ったフォーメーションだったが、ブラボーデイジーは3着欄にしかマークなし。福島牝馬Sで単を取らせてもらった恩を忘れたのか。下手に点数を絞ると馬鹿を見る典型である。ところで京王杯SCをスズカゴーズウェイで制した後藤。勝利インタビューで「帰ってカプチーノを飲みたいです」と一言。こういう細かな期待に応える彼の所為は好きだ。

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