カテゴリー「レース回顧」の247件の記事

2016.12.28

有馬記念回顧 死力を尽くした3頭が新たな伝説をつくる

2016年の有馬記念は長く歴史に刻まれるだろう名勝負になった。終わってみれば上位人気3頭による堅い決着。しかしレース前、私にとって予想は難解だった。天皇賞春を制し、秋は京都大賞典、ジャパンカップを連勝していたキタサンブラック。その粘り強い先行脚質は中山でこそと考えていただけに、府中の2400をまんまと逃げ切ってしまったのには驚かされた。ならば有馬記念は鉄板のはずだが、前走で究極まで仕上げられていたことと、今回は逃げ宣言をする馬が現れたことをどう捉えるか迷うところとなった。さらに、ノーザングループがどこまで包囲網を敷くのかも状況を不透明にしていた。菊花賞で初めてタイトルを手にしたサトノダイヤモンドはこれからG1を席巻し、ディープインパクトの後継種牡馬としてスタッドインさせねばならない馬。3歳で古馬チャンピオンを倒し、有馬記念を勲章に加えたならば前途は大きく開ける。何が何でも勝たせたいところ。吉田勝己名義のムスカテール、シルク所属のサムソンズプライドはアシストを命じられたのではなかろうかと。キタサンブラックか、サトノダイヤモンドか、あるいは間隙を突くゴールドアクターか。どうにも結論を導けないまま、3歳馬の若さを買ってサトノダイヤモンドを上位に据えることにした。

中山2500はコーナーを6つも回らなくてはならない特殊なコースだ。漫然と外を回っては勝機はない。早めに内にポジショニングを取り、ペースを見極め、スパートするタイミングを図らばならない。枠順と騎手の駆け引きが勝負を決める。スタートして飛び出していったのは逃げ宣言のマルターズアポジー。これは予想通り。だが、2番手を取るつもりだったサムソンズプライドはダッシュがつかない。ムスカテールも出遅れた。すんなりと武豊キタサンブラックが2番手、吉田隼人ゴールドアクターが3番手に収まる。マルターズアポジーの武士沢は今年、北島三郎の馬でオープン勝ちをしているようにオーナーには恩義がある。ハナを叩かねばならない心境は複雑だっただろう。武士沢はキタサンブラックの5馬身ほど先を行き、1000メートル通過60秒8とラップはグッと落とした。これならばキタサンブラックはペースを乱されることなく、実質的にスローの単騎で逃げているのと同じになる。一方、中団の外目を追走していたサトノダイヤモンド。このままではジャパンカップの再現になると感じたはずだ。鞍上のルメールが動いたのは1コーナーすぎ。最もラップが緩んだところをフランスの魔術師は見逃さなかった。馬群に合わせて減速させることなく、サトノダイヤモンドを3番手まで進出させる。余計な負担をかけることなく、位置取りをあげることに成功。ライバルを射程圏に捕えた。

駆け引きが激しくなったのは向こう正面。外から同じ緑の勝負服があがっていく。シュミノーのサトノノブレスだった。僚馬の進路を塞がないよう、シュミノーは慎重に後方を振り返る。そして、キタサンブラックを後ろから突つき、プレッシャーを与え始めた。このため、武豊は想定より少し早めにスパートを開始せざるを得なくなった。さらに4コーナー手前、シュミノーは手応えのなくなった馬を外へ向け、サトノダイヤモンドのヴィクトリーロードを確保。完璧なアシストをして役目を終えた。ここから先は三強の死力を尽くした闘いだった。直線、早々にキタサンブラックが先頭に立つ。勝負を挑むゴールドアクター。逃げるキタサンブラックは二の脚を繰り出して突き放す。王者と呼ぶに相応しい凄みだった。だが、ルメールは逆転の一撃を放つ瞬間を待っていた。キタサンブラックがゴールドアクターを退けたときを見計らって、ギヤをトップスピードに入れたのだ。一気に加速したサトノダイヤモンドはゴール直前、外からキタサンブラックを差し切っていた。競って強いキタサンブラックの底力を封じるため、馬体を離したのも計算づく。どちらが勝っても不思議なかったが、戦略の手札に富んだ陣営がクビ差、先着する栄誉を掴み取った。

昨春、弥生賞を勝ったマカヒキを降り、クラシックでサトノダイヤモンドを選んだルメール。日本ダービーではマカヒキにハナ差負けして悔しい思いをした。しかし、菊花賞、有馬記念と連覇したことで、その選択が間違いではなかったことを証明することができた。キタサンブラックを徹底マークする形に持ち込んだ道中の決断は、超一流の技術と経験、勇気があればこそ。これほどのジョッキーが本国の免許を返上し、日本へ移籍してくれたことに感謝したい。惜敗したキタサンブラックも大いに称賛されるべき内容だった。調子自体はジャパンカップから下降線を辿っていたはず。それでも直線でゴールドアクターを突き放し、ゴールまで衰えなかった脚は空恐ろさを感じさせた。菊花賞、天皇賞春、ジャパンカップとビッグタイトルを手にしつつも、「負かした相手が弱いのでは」との意地悪い声も聞かれていたが、もはや誰もキタサンブラックの強さを疑う者はいない。そうした意味ではキタサンブラックは敗れて王者の真価を認めさせたと言えるかもしれない。積極的に勝負を仕掛けたゴールドアクターも価値あるレースを演出してくれた。有馬記念で上位人気3頭が人気順で入線したのは1977年、テンポイント、トウショウボーイ、グリーングラス以来の2度目だという。あのレースが今でもファンに語り継がれるように、2016年の有馬記念も伝説に昇華されるだろう。

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2016.06.28

宝塚記念回顧 2度目の“試練”がドゥラメンテを襲う

ドバイ帰りで疲労の不安もあったが、1.9倍の1番人気に支持されたドゥラメンテ。 4コーナーでも馬群に揉まれ、仕掛けが遅れるなかで良く2着まで追い込んできた。 しかし、ゴール後、減速してバランスを崩した際、 左前脚を痛めてしまった。デムーロはすぐに下馬をしたが、 脚を地面につけると痛がる素振りを見せて馬運車に載せられた。公式発表は「左前脚跛行」。 その後、後肢が左前肢に乗りかかり球節や靭帯を傷つけたと堀宣行師が明らかにした。 これで凱旋門賞挑戦は撤回、復帰のスケジュールは不透明なままだ。 荒れた馬場や苦しいポジショニングも敗因ではあるが、 何より昨春の唸るようなデキにはなかったことが差し切れなかった理由だ。 ドバイでの疲れは癒えていなかったし、凱旋門賞をめざすなら早々に渡欧すべきだった。 だが、ハナから国内の賞金を捨てるわけにはいかないのが、 クラブ馬としての難しいところ。結果論ではあるが、ドバイ、宝塚記念、凱旋門賞の3連戦は 些か欲張り過ぎのローテーションだったのではないか。 社台グループの歴史を体現した血統背景を持つドゥラメンテは、無事に種牡馬入りすることが 絶対的なミッションである。今後、順調に回復するにしても、ダービ後に続く2度目の“試練”に陣営は 慎重な判断を迫られるだろう。

スイープトウショウ以来、11年ぶりとなる牝馬の優勝を果たしたマリアライト。 中団外目を追走すると3コーナーから徐々に進出し、持ち前のナタの斬れ味を発揮して 逃げ粘るキタサンブラックを一完歩ずつ追い詰めていった。 目黒記念を叩いて状態はあがっていたし、時計のかかる馬場でハイペースになったのも幸いした。 母の父エルコンドルパサーの影響か、牝馬ながら力のいる馬場は全く苦にしない。 この馬の適性を熟知した蛯名正義の見事な騎乗だった。 瞬発力勝負は分が悪いだけに天皇賞秋などは向かないだろうが、 エリザベス女王杯、有馬記念と後半戦もG1奪取のチャンスはある。 3着にキタサンブラック。1000メートルは59秒1と、後続に競りかけられながらハイラップで先頭を守った。 先行馬が壊滅した展開を考えれば最短コースを通ったとはいえ、最も強い競馬をしたと言えるかもしれない。 今回はワンアンドオンリーやトーホウジャッカルに突かれたが、 多少でも息の入る流れになれば距離不問で押しきれる力が備わっている。 4着に昨年の覇者、ラブリーデイ。じっくり休んで立て直してほしい。 5着ステファノス、6着サトノクラウンは秋に楽しみがつながった。 フェイムゲームはシンガリ負け。シュヴァルグラン、ワンアンドオンリー、カレンミロティックともどもハーツクライ産駒には 不向きな馬場だった。

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2016.06.07

安田記念回顧 独り旅!ロゴタイプが波乱の大金星

「万全でなくても勝ててしまう モーリス断然!!」 これは当日版の東スポで派手に打たれていた見出しだ。 東スポ本紙は「100%の体調でなくてもGI通用の能力を発揮する真のA級馬」だとして、 モーリスに本命にあげていた。最終的な単勝オッズは1.7倍。 各紙、同じような見立てだったのではなかろうか。 だが、歴史的名馬でも脚元をすくわれるのが競馬の怖さだ。 マイルG1を4連勝して臨んだ安田記念。好スタートを切ったモーリスは口を割って折り合いを欠いた。 香港から府中に入って1頭だけの着地検疫は精神面をかき乱す結果になったようだ。 一方、ドバイで好走した2番人気リアルスティールも同様に掛かってしまう。 人気の両馬がなだめられるのに必死のなか、悠々とハナを切ったのが田辺のロゴタイプだった。 3ハロンは35秒0、4ハロンは47秒0とG1とは思えないスローペース。 まるで追い切りのようだ。しかし、2番手のモーリスらがフタになり、後続は動くことができない。 エネルギーを十分に抱え込んだロゴタイプは、4コーナーを過ぎて内ラチ沿いに加速。 11秒3、10秒9と刻み、最後は11秒7かかったが、ライバルはロゴタイプの独り旅を見送るしか術はなかった。 いつも波乱を起こすのは逃げ馬、そんな格言を思い起こす鮮やかな逃走劇だった。

ロゴタイプは皐月賞以来の1着が大金星となった。斬れる脚がなく善戦止まりを繰り返していたが、 今回は完璧な田辺の騎乗が快勝に導いた。状態の良さはあるが、有力馬が抑えて前半スローに落とせたこと、 自分のタイミングでスパートできたこと、乾きつつある馬場で内が不利にならないと読みきったことが勝因だ。 安田記念の逃げ切りは1988年のニッポーテイオー以来というから、いかに稀有なことだったかと驚かされる。 2歳で朝日杯を制してから6歳まで、トップレベルで戦える能力を維持してきたことも素晴らしい。 馬群に沈んでも不思議ないモーリスだったが2着を死守。改めて恐ろしい馬だと感じた。 この3戦、モレイラ、ムーアという世界の名手が跨ってきたが、 まだ若いT・ベリーに同じ手綱を期待するのは酷だった。 前に壁をつくることもできなかったし、展開といい、今回ばかりは少頭数がモーリスにマイナスに作用したように思う。 一息入れて、テンションを下げてほしい。3着に外を差してきたフィエロ。 4着には京王杯SCを勝って臨んだサトノアラジンが入った。 瞬発力勝負は望むところだったが直線で進路が開かず、追い出すまでに時間がかかった。 トビの大きい馬だけに、多少のロスがあっても外に持ち出したかったが運もなかった。 この勝負服がG1を勝てるのは何処になるのか。

以下、早めに仕掛けたイスラボニータが5着。 闘争心が足りない。ダノンシャークが6着。このスローで良く追い込んだ。 橋口勢のクラレント8着、レッドアリオン10着。 両頭が前に行かなかったことはロゴタイプに有利に働いた。 リアルスティールは11着。折り合いを欠いたにしても負けすぎだろう。 目には見えなくとも、ドバイでの疲労が蓄積した結果としか思えない。 香港のコンテントメントがシンガリ負け12着。前走から21キロ減と、気の毒なほど走れる状態にはなかった。

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2016.05.31

日本ダービー回顧 運も引き寄せた川田の勇敢な騎乗

世代の頂点を決める日本ダービー。最高峰ゆえに極限まで仕上げられた馬たちの激しい戦いになり、 わずかな位置取りや追い出しのタイミングの違いが勝敗を大きく左右する。 今年、8センチの差を制して栄冠を手にしたマカヒキ。 3番枠を利してロスなく内々を走れたことが勝利につながった。 鞍上の川田は好スタートを切ると先頭から7、8頭目という、いつもより前目のポジションを取った。 サトノダイヤモンドを先に見る理想的な形になった。 1000メートル通過は平均と言える60秒フラット。 だが、直後に12秒9、13秒1とラップが落ちて、上がりの求められる競馬になった。 マカヒキにとっては望んだ展開だった。直線、馬群の中ほどに持ちだした川田の前にはエアスピネル、 外にはサトノダイヤモンドがいてスペースはなかった。このままなら強引な手綱が必要だったかもしれない。 しかし、残り200メートル手前、追い出したサトノダイヤモンドが少し外に寄れて進路が生まれた。 脚を溜めていたマカヒキは瞬時に加速すると、エアスピネルを交わして先頭に躍り出る。 川田は膝を立ち気味にして必死にムチを入れた。そこに態勢を立て直したサトノダイヤモンドが 脚を伸ばす。鬼気迫る追い比べ。2頭が並んだところがゴールだった。 どちらが勝ってもおかしくはなかったが、川田の勇敢な騎乗が運も引き寄せて8センチ, マカヒキを先着させた。

サトノダイヤモンドのルメールもまた、文句のつけようがない手綱さばきだった。 八分の仕上げだった皐月賞とは打って変わって、馬体は研ぎ澄まされていた。 直線で外に寄れたのは誤算だった。影響のほどは分からないが、向こう正面で落鉄までしていた。 ノーザンファームとしては里見治オーナーにクラシックを プレゼントしたかっただろうが、金子真オーナーの強運には敵わなかった。 3着には皐月賞馬、ディーマジェスティが入った。単勝1番人気に推されたのは蛯名正義に ダービジョッキーになってほしいというファンの願望だった。 その証拠に複勝は3番人気、連もマカヒキから売れていた。 ディーマジェスティはダービーで圧倒的に良績ある白い帽子を被ったが、 1コーナーではマカヒキより外に出して最内のアドバンテージを早々に放棄した。 包まれるのが嫌だったのだろう。だが、外を回したことで直線では寄れたサトノダイヤモンドに 邪魔される格好になり、理想的なコースを通ったマカヒキに追いすがることができなかった。 だからといって内にいれば逆転できたというものでは決してないが、 安全策を選び、負けたというのも事実である。中間、時計を出せない日があるなど皐月賞勝ちの疲労が心配されたが、 調子は取り戻せていた。エアスピネルは正攻法の競馬で4着。将来、2000メートル以下ならG1を勝てるかもしれない。

私が期待したリオンディーズは5着。返し馬からうるさく、デムーロは折り合いをつけるため 後方から競馬をせざるを得なかった。それでもスタート後は口を割るなど、コントロールできる状態ではなかった。 上がりは最速の33秒2と能力の片鱗を見せたものの、この日の展開と切れるライバルたちが 好位で競馬をしていたことを考えれば、勝てる要素は一つもなかった。 個人的に反省するのは、各馬の情報に対して客観的な洞察力が欠落していたことだ。 ダービーというのはデビュー前から周到な準備をして臨むもの。 直前、操縦性を高めるために「舌を縛る」といった工夫を買い材料だと捉えていた。 しかし、本番の幕があがろうかという段になって、そうした策を講じなければならないのはマイナス材料でしかなかった。 東京2400メートルが得意な父母で埋められた血統表への過信、 デムーロなら先団で折り合いをつけられるはずだという思い込み、 4番人気まで急落したオッズの皮算用…。逆にマカヒキにはスタミナが足りないのではないか、 ディーマジェスティは皐月賞の反動があるのではないかなど、根拠の薄い情報をネガティブに受け取っていた。 まったく考え至らず、都合の良い情報を切り貼りしていただけだと肩を落とした次第である。 来年こそは納得行く予想で的中させたい。

ダービーは皐月賞1着から5着がそのまま掲示板を占めたが、グレード制導入後は初めてのことだという。 以下、着外に敗れた馬にも簡単に触れたい。 6着は京都新聞杯勝ちのスマートオーディン。思い通りの展開にならないなか、 大いに健闘している。7着はマウントロブソン。出遅れての巻き返し、能力は高い。 9着にレッドエルディスト。良く追い込んできた。 10着にブロディガルサン。青葉賞より内容は大きく進展した。 一息入れて秋へのステップにしてほしい。 13着に青葉賞を快勝したヴァンキッシュラン。 実質4連勝中で前走がピークだったよう。お釣りがなかった。 殿18着はブレイブスマッシュ。最初から最後までレースに参加せず。 とてもG1に出走できる状態ではなかった。 横山典弘が無理をさせなかったのが幸いだった。

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2016.05.24

オークス回顧 池添の“覚悟”に応えたシンハライト戴冠

牝馬3強と謳われたなかで唯一、オークスに駒を進めたシンハライトが樫の女王の座を勝ち取った。桜花賞、NHKマイル、オークスと春はそれぞれG1タイトルをひとつ獲得する美しい形になった。シンハライトは桜でジュエラーにハナ差負け。この春、主戦の池添は天皇賞、NHKマイルでも2着、ヴィクトリアマイルで3着と惜敗を繰り返していただけに、1番人気を背負ったオークスは勝たねばならなかった。その気迫ははっきりと騎乗に現れた。後方から内を回り、馬群の中に進路をとった直線。ペプチドサプルの後ろに入ったシンハライトは行き場を失いかける。ここで仕掛けが遅れてはチャンスはない。池添は意を決して外から伸びかかっていたデンコウアンジュに馬体をぶつけ、弾き飛ばして進路を確保。そこから脚を伸ばし、チェッキーノの追撃をクビ差凌いでゴールした。実に冷静な判断だった。現在のルールでは極めて限定されたケースでしか降着にはならないから、池添は騎乗停止処分と引き換えにラフプレーに打って出るのは致し方なかった。もし躊躇して勝ちを落としていれば、大馬主から見放されて騎手人生は終わっていたかもしれない。新制度が始まって3年半、意図的な妨害行為だと処分を受けても、強引な競馬をしないほうがリスクが大きくなった。これは現在のルールでは必然的に起こり得ることで、池添の騎乗は非難されるべきものではない。

レースは前半速く、中盤で緩み、後半で再び加速した。オークスは差し馬が有利なレースであるが、例年にまして先行勢は壊滅する結果になった。2着チェッキーノは勝ち馬とほぼ同じポジショニングだったが、戸崎が外から蓋をしてプレッシャーを与え続けた。フローラSのレコードは本物。戦前はトライアル血統と評価を下げる声も聞かれたが、藤沢厩舎が距離選定など慎重に扱ってきた成果が出たように思う。誤解を恐れず言えば、コディーノの轍を踏まなかった。早めにスパートしたビッシュが3着。フローラSで1番人気に推されていた。減っていた馬体が回復し、本来の能力を発揮することができた。これまでノーザンファーム産のディープインパクト産駒は6頭出走してすべて複勝圏内に入っていたが、今年も1、3着を占めることになった。ほかのノーザン産ディープ産駒、レッドアヴァンセは7着、アウェイクは12着に敗れてしまったが、これからも激走は続くだろう。4着ジェラシーは最後方からの決め打ちが嵌った。5着ペプチドサルは中1週ながら最高のパフォーマンス。不利があったデンコウアンジュは9着。馬体は減っていたが、スムーズなら4着はあったはず。3番人気エンジェルフェイスは10着。2番手から良く踏ん張った。桜花賞3着のアットザシーサイドは12着。血統通り、距離が持たなかった。穴人気、ロッテンマイヤーは外枠が響いて13着。忘れな草賞組は忘れられた頃に買うのが良い。桜花賞5着のアドマイヤリードは15着。小柄な馬に強い追い切りをかけ、輸送で馬体を減らす不可思議な調整だった。

シンハライトはキャロットクラブの所属馬。シーザリオ、トールポピーに続くオークス3勝目となる。2008年、トールポピーも池添が鞍上だったが、このときは複数の馬に被害を及ぼす大斜行で「降着なしも騎乗停止」の処分を受けている。これが”疑惑の裁決”だと批判する声が強くあがり、翌年からJRAが降着ルールなど改革を始めるきっかけとなった。つまり、新ルールを導入する端緒を池添がつくったと言えるわけで、今年、処分覚悟でラフプレーを余儀なくされたのは自らフラグを回収したのだと解釈することもできる。ちなみに前回も今回も、処分は騎乗停止2日間であった。シンハライトの母シンハリーズはシーザリオの勝ったアメリカンオークスで3着し、日本でアダムスピーク(ラジオNIKKEI杯)、アダムスブリッジ(若駒S)、リラヴァティ(福島記念2着)を産んだ。いずれもキャロットクラブで募集されている。私はリラヴァティに出資しているが、シンハライトは4400万円と高額だったこと、400キロそこそこの体重だったことから申し込みを見送った。しかし、ライバルを跳ね飛ばし、ひるまずに伸びてきたシーンを思い浮かべると、自分の選定眼のなさを恥じるばかりである。シンハリーズの繁殖牝馬としての能力は本当に素晴らしい。1歳の末弟はオルフェーブルとの仔だが、いくらで募集されるだろうか。もう手の届かないクラスになりそうだ。

>>オークス疑惑の裁決? 騎乗停止も降着処分はなし(2008/5)
>>”疑惑の裁決”が産んだ大改革 満たされぬ正しさ求めよ(2009/6)

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2016.05.18

ヴィクトリアマイル回顧 7年連続更新! 不思議なジンクス

ヴィクトリアマイルは7歳馬、ストレイトガールが連覇。 前走の敗戦と加齢が嫌われて7番人気に甘んじていたが、 スプリンターズSも制したスピード能力は衰えていなかった。 1分31秒5の高速決着で前後半イーヴンの平均ペースをあっさり 抜けだしたのだから、文句のひとつもつけようがない。 父はフジキセキ。7歳、8歳で高松宮記念を連覇したキンシャサノキセキを彷彿とさせるベテランの活躍だ。 2着ミッキークイーン、3着ショウナンパンドラはマイルではエンジンのかかりが遅い。 それでも実力差で捻じ伏せられると思ったが、生粋のスピードホースの速さには敵わなかった。 ところで、今回のストレイトガールの優勝で、ある不思議なジンクスが7年連続で更新されることになった。 レース前、JRAの公式サイトに示されていたもので、 「過去6年のヴィクトリアマイルでは2走前までに、大外枠または大外から2番目の枠に入っていた馬が6連勝中」というデータだ。 6頭の該当レースは直近から、高松宮記念1番人気13着(ストレイトガール)、 東京新聞杯9番人気11着(ヴィルシーナ)、大阪杯4番人気6着(ヴィルシーナ)、 中山牝馬S2番人気5着(ホエールキャプチャ)、マイラーズC4番人気4着(アパパネ)、 京都記念1番人気1着(ブエナビスタ)。 今年の有資格はストレイトガールのほか、ルージュバック、シャルール、シュンボルドン。 ストレイトガールは前走の阪神牝馬Sで3番人気9着に敗れていた。 こうしたジンクスは話題されたら消えるものだが、果たして来年はどうだろうか。

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2016.05.11

NHKマイルC回顧 メジャーエンブレムが気迫の逃げ切り

1番人気が逃げることは、すべての馬の目標にされることと同義だ。そのリスクを引き受けて優勝したのだから、NHKマイルカップを制したメジャーエンブレムには大いに価値がある。桜花賞で中途半端に控えて人気を裏切ったルメールは、陣営から積極的な競馬を求められていた。オークスから2週早いマイルG1に照準を変更。追い切りは多少動きが重くみえ、100%のデキにはなかったように思える。しかし、背水の陣で臨んだ今回、競られるのを覚悟の上でメジャーエンブレムは先手を奪いにいった。気迫に押されたのか、同型のシゲルノコギリザメは番手で折り合い、スピードに秀でたシュウジは岩田ががっつり抑えこんだ。前半800メートルは46秒0で通過。決して楽なペースではなかったが、ハイラップで飛ばして後続馬の脚をなし崩しにする本来の形に持ち込めた。これで差されれば仕方がないと腹をくくっていたはずだ。直線、持ったまま加速するメジャーエンブレムが後続を突き放す。追いかけていた先行勢は脱落。ゴール前、外から差し馬が押し寄せてくるが、ラチ沿いを走るメジャーエンブレムを交わすまではいかなかった。勝ちタイムは1分32秒8、後半800メートルは46秒8。同馬にとっては理想的といえる平均ラップだったのではないか。とは言え、先行勢は壊滅に近い状態だから、数字以上にタフなレースだったと推察される。父ダイワメジャーを彷彿とさせる高い持続力があってこそ可能な芸当だ。桜花賞の不名誉な敗退を払拭する競馬になった。これからも肉を切らせて骨を断つレースをしていくだろう。

2着に外から追い込んだロードクエスト。池添は桜花賞、天皇賞春に続くG1惜敗である。だが、今回は運ではなく馬の実力差が敗因だった。ゴチャついた内を避けて、外へ持ちだしたのは大正解。府中のような広々とした馬場と左回りが合っている。3着にNZTでは思うような競馬ができなかったレインボーライン。アニメイトバイオの半弟になるが、このステイゴールド産駒も府中向きである。私が期待したトウショウドラフタは5着。後方、内を回って直線に賭けたが、進路を見つけるのに手間取った。何より鞍上の田辺が「ここまでムキになっていたのは初めて」「リラックスして走っていた馬が気負っていた」とコメントしているように、メンタル面で穏やかさが欠けていた。少し追いきりで攻めすぎてしまったのが原因かもしれない。決してマイルが長かったというわけではない。G1勝ちのない厩舎にも気負いがあった故だろうか。予想でも書いたが、トウショウドラフタは去年、廃業が決まったトウショウ牧場の冠を背負う最後の世代。どこかで大きなタイトルを取ってもらいたい。それだけの器だと思う。ストーミーシーは9着。平均ペースでは出番がなかった。3番人気のイモータルは11着。先団を追走できたが、まったく伸びず馬群に沈んだ。皐月賞馬・ディーマジェスティが勝った共同通信杯で2着した実績が買われて人気を集めたが、そのレースレベルを疑わせかねない惨敗だった。この辺り、ダービーでのオッズに微妙に反映されるかもしれない。4番人気のティソーナは出遅れて17着。騎乗明けのデムーロに調子が戻っていない。

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2016.05.03

天皇賞春回顧 武豊、淀を知り尽くした男の独演会

「ユタカ劇場」と言うのだろうか。武豊に尽きる春の盾だった。 2番人気キタサンブラックは1番枠から好スタートを切ると、 すんなりとハナを奪ってマイペースに持ち込んだ。 12秒台のハロンラップを刻みながら1000メートルを1分1秒8、 その後もレース前半の1600メートルを1分38秒3で通過する。 ドスローというわけではないが、力のある逃げ馬にとっては息を入れながら 自分のリズムで走れる流れ。後続の有力馬は武豊にレースを支配されていることは理解しつつ、 脚をなくすことを恐れて無理に動くことができない。 向こう正面で2番手のヤマニンボワラクテがキタサンブラックを交わして先へ出る ようなことがあれば逃げ馬のリズムは乱されたのだろうが、 それだけの余力はヤマニンにはなかった。最短コースを回った武豊は、 残り4ハロンに差し掛かるとペースをあげていく。 直線、キタサンブラックの直後につけていたカレンミロティックが並んで先に出るが、 武豊は「わずかな一伸び」分のスタミナを温存していた。 最後に差し返したところが決勝線。その差は4センチだから、魔術のような手綱さばきだ。 3200メートルを走って4センチの差で勝たせるのである。すべて計算づくで。 天皇賞春7勝目、淀を知り尽くした男の独演会だった。

戦前、キタサンブラックはハナには行かないだろうと私は思っていた。 目標になった人気馬が逃げきれるほど、春の天皇賞は簡単なレースではない。 だが、1番人気ゴールドアクターが下見から入れ込む状況や、 積極的に先手を取りにいく馬がいないのを見て、自らペースを主導するのが 最も勝利に近いと瞬時に判断したのだろう。菊花賞も有馬記念もジョッキーの好騎乗に 助けられた面が大きいのだが、裏を返せば、自在な競馬ができる長所こそが キタサンブラックの強みなのだ。2着カレンミロティックは13番人気。 池添は3番手の内を回る完璧な競馬をしたが、桜花賞に続いて少しだけ運が足りなかった。 3着は3番人気のシュヴァルグラン。折り合いはつき、初めての58キロを物ともせずに差し脚を伸ばした。 勝ちきるには何処かでレースを壊しに行くギャンブルが必要だったが、 慎重な福永でなくともリスクを取ることはできなかったのではないか。 G1を勝てるだけの実力があることは示せた。4着にタンタアレグリア。 ステイヤーの血が開花し始めた印象だ。蛯名は5年連続、掲示板を確保したことになる。 このジョッキーも武豊ほどの勝数はなくとも、平成の盾男と呼んで差し支えない。 5着にトーホウジャッカル。一瞬、勝ったかと思わせる場面もあり、復調の気配を感じさせてくれた。

私が期待したフェイムゲームは4番人気と、意外に支持を集めたものの8着。 スタートでアドマイヤデウスに寄られてポジションを下げたのが痛かった。 道中も内で動けず、4角は絶望的に大外を回すしかなかった。 世界的名手であるボウマンにしても、淀の3200メートルは独特のコースであって 乗り難かっただろう。アドマイヤデウスは申し分ないレースだったが、伸びを欠いて9着。 本質的に距離が長かった。レーヴミストラルは後方一気にかけて10着。 決め打ちだから展開が向かなければ大敗するのは当たり前で、 次走で評価を下げる必要もない。 ゴールドアクターは12着。道中もハミを噛んでいて、とても長距離を乗りきれる内容ではなかった。 外枠の不利はあったが、これだけ入れ込んでいては勝負にならない。 1番人気は10連敗だから、相当な強い馬でないと呪いは解けまい。 サウンズオブアースは15着。さすがに負けすぎで、立て直しには時間がかかるかもしれない。 武豊は今年の優勝で中央G1は通算70勝目になるが、 逃げ切り勝ちは初めてだという。デビュー30年目にして新境地を拓く トップジョッキーに改めて恐れ入る。

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2016.04.19

皐月賞回顧 ディーマジェスティに秘められた血のドラマ

14日夜に発生してから、激しい揺れの収まらない熊本地震。 その最中に今年の皐月賞は行われることになった。 当日、競馬場を襲ったのは地震ではなく、風速30メートルを超える強風だった。 風の音は空気を切り裂き、ファンは顔を覆って身をかがめた。 そして、強風はレースの行方すら決することになった。 3強と目されたうち、好スタートから最も積極的な競馬に打って出たのはリオンディーズだった。 逃げ馬の後ろ、2番手にポジションを取る。 ディープインパクト産駒のライバルと差し脚比べは分が悪い。 それに2レース前、同条件の1000万特別は先に行った2頭が ワンツーを決めていた。「後ろからでは伸びない馬場だ」と判断したデムーロは、 折り合いを欠くリスクを恐れずに先行策を選んだのだった。 しかし、叩きつけるような強風が騎手の体内時計を狂わせる。 リオンディーズは10秒台、11秒台の速いラップを追走し、馬群は縦長に伸びていく。 向こう正面は逆風で、馬場は雨を含んで力の要る状態。 1000メートル58秒4という無謀なペースで通過した逃げ馬は失速し、 リオンディーズは早々と先頭に立たされた。2歳王者には過酷なレースになった。

一方、1番人気サトノダイヤモンドは中団。3番人気マカヒキは追い込みに賭けていた。 4コーナーを回って直線、逃げ込みを図るリオンディーズに後続が押し寄せる。 坂を駆け上がって外から一気に伸びてきたのは伏兵、18番枠ディーマジェスティ。 内で争うリオンディーズ、サトノダイヤモンド、エアスピネルを交わすと、 遅れて追撃してきたマカヒキを封じ、堂々と先頭でゴールした。 勝ちタイムは1分57秒9の皐月賞レコード。鞍上の蛯名はリオンディーズが前に行ったのを見て、 スローにはならないと確信して後方待機を決心したという。 結果的には最高の位置取りになったわけだが、前後にいた3強に完勝したのだから漁夫の利ではない。 ホープフルSを取り消したり、強い勝ち方をした共同通信杯のレベルが正当に評価されなかったことで 人気を落としていたが、3強と同レベルの力を持っていたということだろう。 つまり、皐月賞は4強だったのだ。2着マカヒキは最速の上がりを使ったものの、脚を余したかにも見て取れた。 だが、3強では最先着なのだからジョッキーを責めるのは筋違い。 3着にサトノダイヤモンド。思ったほど弾けなかったのは、ダービーを見据えた八分の仕上げだったからだろう。 次はグッと良くなる。4位入線リオンディーズ。強引なレースをしながら、最後まで抵抗を続けた。 ゴール前で寄れて降着になったが、能力は相当なものだ。ダービーは距離との闘いになる。 5位入線、エアスピネルが繰り上がり4着。素晴らしい内容だと思うが、馬体はマイラー。路線変更を勧めたい。

ディープインパクト産駒で初めての皐月賞馬となったディーマジェスティ。 蛯名と二ノ宮敬厩舎のコンビと言えば、エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタを想起せずにはいられない。 この馬も凱旋門賞に挑んでくれるのではと楽しみになる。 エルコンドルパサーには血の物語があったが、ディーマジェスティの血統表にも数奇なドラマが秘められている。 祖母シンコウエルメスはヨーロッパを代表する名牝系のひとつに属する。 兄に英ダービー馬のジェネラス、妹に英オークス馬を持つサドラーズウェルズ産駒。 当時、シンコウラブリイなどを所有して飛ぶ鳥を落とす勢いだった安田修氏が、 わざわざ藤沢師とともに渡欧して購入してきた馬だ。だが、 デビュー戦後、調教中に骨折して瀕死の状態に陥ってしまう。 安楽死しかないと宣告されたが、血をつなげたいと 藤沢師は一縷の望みを託して手術に踏み切った。 麻酔時間の限界といわれる4時間を目いっぱい使い、 脚にボルトを埋め込んだ。術後もショック状態で高熱が続いたが、奇跡的に快復した。 そして、シンコウエルメスは2頭の牝馬を産んだ。 1頭はエ女王杯3着など藤沢厩舎で活躍したエルノヴァで、 もう1頭がディーマジェスティの母となるエルメスティアラだった。 今年の皐月賞は藤沢師の英断が歴史を変えた瞬間でもあったわけだ。 その後、シンコウエルメスはサンデーの仔を宿して海を渡り、さらに12頭の仔を誕生させた。 いま、奇跡の血は欧米豪と世界に広がっている。

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2016.04.12

桜花賞回顧 超天才的 ”決め打ち”でジュエラー戴冠

いつものロケットダッシュが決まらなかったことが敗因ではない。ゲートは互角でもメジャーエンブレムとルメールには容易に先手を奪う機会があった。好スタートで前に出たアッサラルーテは吉田勝己がオーナー。鞍上の和田はメジャーエンブレムの動向を気遣い、ハナに行くなら行ってくれと進路を確保していたが、はっきりとルメールは手綱を抑えた。和田にとっても予想外の判断だったかもしれない。その後、アッサラルーテの外からカトルラポールやメイショウバーズが追っ付けながらハナを争い、メジャーエンブレムはラチ沿い、7番手の苦しいポジションに押し込められることになった。なぜルメールは消極的な選択をしたのか。この日、1度も人気より上に着順を持って来れていなかった騎乗からは”乗れていない”のは明らかだったが、その原因が過度なプレッシャーによるものかは分からない。いずれにせよ、判断は誤りだった。メジャーエンブレムはハイラップを刻んで後続を捻じ伏せるタイプである。スローに落とせば瞬発力ある馬に差されるのはアルテミスSで経験済みだった。だから、世界の名手が同じ轍を踏むとはファンは思っていなかったのだ。また、桜花賞は進路をなくしやすい内枠が不利なのも知られた話。身動きできないまま4角を回り、直線入り口では外からラヴェンダーヴァレイに被せられてしまった。最後は複勝圏からも脱落する4着。自分の競馬ができない不完全燃焼だった。

2番人気のシンハライトはスタートから押して中団のポジショニング。普段より前に行ったのはメジャーエンブレムを意識してのことだろう。だが、結果的には同じような位置取りになり、内を進むメジャーエンブレムを見ながら優位にレースを進めることができた。前半4ハロンは47秒1、後半は46秒3と上がり勝負になったのも、切れ味を身上とするシンハライトには好条件だった。直線、鞍上の池添は満を持して追い出し、メジャーエンブレムを置き去りにする。末脚は鈍ることなくゴールへと向かった。非の打ち所がない競馬である。ところが、このシンハライトに2センチだけ先んじる馬がいた。ミルコ・デムーロによる、追い込み一気の逆転劇だ。チューリップ賞でシンハライトに接戦の末、ハナだけ敗れたジュエラー。今回、私は血統的にスタミナあるジュエラーが中団を取り、早めの競馬をするのではないかと期待していた。しかし、それを実行したのはシンハライトで、再び追い込みに徹して決め打ちしたのがジュエラーだった。折り合いを欠くリスクを嫌ったこともあるだろうが、デムーロはルメールがハイペースを演出することはないと見切っていたようにも思える。そのセンスは論理だけでは説明できない超天才的なものだ。ジュエラーは直線で大外に出されると、獲物を捉えるように一完歩ずつシンハライトを追い詰めた。

騎乗内容ということなら、池添が満点。デムーロは取りこぼす可能性も多々あったわけだが、大一番で結果を出してしまうのだから、”神憑り的”ということだろう。点数はつけられない。デムーロは父ヴィクトワールピサ、祖父ネオユニヴァースに騎乗していて、3代に渡ってG1を制したことになる。初年度産駒からクラシックホースを出すことができたことは、ヴィクトワールピサにとって大きな成果だ。去年、50万円下って250万円だった種付け料も上昇に転じそうだ。次走はオークスになるが、距離に不安あるシンハライトやメジャーエンブレムより人気を集めるだろう。3着には6番人気のアットザシーサイドが入った。良く伸びたが上位2頭との差は大きい。5着アドマイヤリードには驚かされた。後方一気が合っている。4番人気レッドアヴァンセは7着。しっかり追い切られていたが、エルフィンSのように切れなかったのは体調が完全ではなかったからか。アルテミスS勝ち馬のデンコウアンジュは10着。追い込みにかけたが、直線で最初は内を突いて開かずに大外へ持ち出すロスがあった。府中に替わるオークスでは面白い存在になるかもしれない。

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