「逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ」先週半ば、追い切りで賑わう第4新栗東市のトレセンを調教師のハシグチ・コウジはぶつくさ呟きながら歩いていた。コウジは東西メインレースに汎用馬型決戦兵器を出撃させることになっていた。とりわけ、気にかけていたのは、きさらぎ賞に参戦するリーチザクラウンだ。未勝利戦を大差勝ち、続く千両賞も楽勝して世代ナンバーワンの呼び声を早くも獲得した。しかし、前走のラジオNIKKEI杯で同馬は思わぬ敗戦を喫してしまった。スピードの違いでハナを切ったものの、勝ち馬にマークされて差しきられてしまったのだ。この馬でどうしてもダービーを勝ちたいと願っていたコウジにはショックなレースだった。
数々の大レースを制してきたコウジも、ダービーだけは縁がない。ダンスインザダーク、ハーツクライといった有力馬も、あと一歩のところで勝利を逃してきた。各陣営とも究極の仕上げで臨む2400メートル戦。リーチザクラウンの能力があるとはいえ、ライバルたちの目標にされながら逃げ切るのは並大抵のことではない。中間、コウジは前に馬を置いて走るトレーニングを課して、好位からでも競馬ができるようリーチザクラウンに教え込むことにした。気性の強さは諸刃の剣。ムキになって暴走するリスクを背負いつつ、上手くコントロールできるのか。コウジは取り囲む報道陣にコメントを発した。「この一戦、いかに抑えられるかどうかに尽きる」と。
決戦当日。東のダイヤモンドSが先にスタート。コウジの指揮するフローテーションは1番人気、乗り込むのはルメールだ。 3400メートルの長距離戦は、大方の予想に反して速いラップが刻まれる。1マイルは1分37秒4、明らかなハイペースだ。ところが、フローテーションは抑えきれずハナへ立つ。「まさか…暴走!?」、コウジは思わず声をあげた。だが、止められない。「制御不能です」。かくして直線、フローテーションは完全に沈黙した。コウジは空を見上げた。「こんな時、どういう顔をすればいいのかわからないよ」。「ワラエバイイトオモウヨ」東から答えが聞こえた気がした。
きさらぎ賞は大丈夫だろうか。再びコウジは呟いた。「逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ」。ゲートが開く。リーチザクラウンとタケ・ユタカは周囲の出方を伺う。誰もハナを切ろうとはしない。もとより、「実戦は生き物ですからどうなるかわかりません」と控える競馬に懐疑的だったパイロット。主導権を握れとばかりにハナへ立つ。「逃げちゃ駄目だ。ダービーが、ダービーがぁー」。 1000メートル通過は61秒7のスローペース。第4コーナー、後続が一気に差をつめにかかる。「リクエストソング接近中、リクエストソング接近中」。タケがムチを入れる。リーチザクラウンはあっという間に3馬身半も突き放して圧勝した。どこか釈然としないコウジのもとに、次々と関係者が祝福を述べにやってきた。
一同「ワァー! ブラボーッ!」
ゴトウ「おめでとう」
マツパク「めでたいなぁ」
リイチ「おめでとさん!」
ダンス「ブヒブヒ、ブヒッヒーン!」
ワダ「シャーッ!」
C「ウルセーヨ、オイ!」
「ありがとう…」。引き上げてきた人馬を出迎えたコウジに、突然、タケが質問を投げかけた。「逃げちゃ駄目ですか?」。予想外の言葉にたじろぐコウジ。しかし、次の瞬間、コウジは腹にためていたものを爆発させた。「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、……逃げちゃ駄目だ!! ……やります。ダービーは僕が乗ります!!」「ええええ!!」「僕はリーチザクランのパイロット、ハシグチ・コウジです!」 ♪fly me to the moon... (完)
>>きさらぎ賞 勝利ジョッキーインタビュー(youtube)
>>新世紀エヴァンゲリオン 逃げちゃ駄目だTシャツ
※このエントリーは実在の人物・団体とは一切関係のない戯言です。
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