カテゴリー「事前見解」の93件の記事

2016.04.06

桜花賞展望 メジャーエンブレム1強は絶対か?

2016年の春クラシックが開幕する。今週は桜花賞。中心は2歳女王、メジャーエンブレム。阪神JFを完勝、年明けのクイーンCを5馬身差の大楽勝で、底知れぬ強さを見せつけた。果たして桜はメジャーエンブレムの一強なのか。G1勝ちのみならず、同馬が絶対視される決め手となったのがクイーンCの勝ち時計だろう。3歳になったばかりの牝馬が1分32秒5を叩き出したのだから驚くばかり。この時期、例年より1秒以上、速い時計が出る馬場だったことは事実だが、自ら逃げてハイラップを刻んだものであり、競るライバルがいれば勝ち時計はもっと詰められたことは明らか。数字を額面通りは受け取らないにせよ、レース内容は大いに讃えられなければならない。父ダイワメジャーから先行力と持続力を、母父オペラハウスから高い心肺能力を受け継いだ同馬。緩みないラップで走り続けても失速することはなく、むしろ追いかける馬たちの末脚をなくさせる競馬が強力な武器だ。彼女の特長をよく分かっているルメールは本番でもスローに落とすことはないはずだ。

メジャーエンブレムに死角はないか。過去のデータを眺めて、真っ先に目につくのが臨戦過程だろう。グレード制導入後、クイーンCを勝って桜花賞に直行したのは18頭。だが、1番人気に推されたシャイニンルビー(3着)、ホエールキャプチャー(2着)とも敗れている。他の連対馬にはイブキパーシヴ、ヴィルシーナと2頭がいるが、優勝馬はゼロだ。東京と阪神では同じマイル戦でも求められる質が違うということだ。では、陣営はなぜクイーンCをステップに選んだのか。同馬はサンデーレーシングの一口馬。ノーザンファーム系の他馬との使い分けから、オーナーサイドが決断した可能性もある。また、阪神JFを勝って輸送もコースも経験できたのだから、本番前に関西へ運んでトライアルを使いたくないという思惑もあったかもしれない。いずれにせよ、阪神JFからクイーンCへ向かったのは狙いすました考えあってのことであり、多くのケースのように賞金を上積みするために使ったわけではない。この点は阪神JFで2着していたホエールキャプチャーと境遇は似ていて、同馬が桜ではコース取りの差で惜敗したことを思うと、ステップを理由に”消す”ことは乱暴に思われる。

阪神コースへの適性はどうか。 2007年から外回りに変わった桜花賞は差し、追い込み馬が脚質的に有利だ。去年、超スローペースで逃げ切ったレッツゴードンキは例外で、軽快な先行力だけで直線の急坂を凌ぐことはできない。この舞台を得意とするのは毎年、必ず連対馬を出してきたディープインパクト産駒。同じサンデー直仔でも切れ味より持続力が武器のダイワメジャーの産駒は連対できていない。メジャーエンブレムにとっては好ましからざるデータだが、それらのマイナス要素を捻じ伏せるだけの能力を同馬に認めるか否かで印の重さは変わってくる。ライバルのシンハライト、ジュエラーはチューリップ賞で上がり33秒フラットの鋭脚を繰り出した。先に抜け出すはずのメジャーエンブレムが両馬の追撃をゴール板まで凌げるか。多くのファンが想像し、頭を悩ますことになる。過去10年、1番枠から5番枠の連対がないように内枠は進路をなくして苦戦するケースも目立ち、枠順が明暗を分けることになるやもしれない。仮にメジャーエンブレムが中から外枠に入るようなら、さらに牝馬一冠目を獲得する確率はあがるだろうが、さて。

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2014.12.24

有馬記念で集大成? キャロットクラブがリーディング1位へ

今週は2014年を締めくくる有馬記念。 このレースがラストランとなるジェンティルドンナ、ジャスタウェイをはじめ、 グランプリ3勝のゴールドシップ、ジャパンカップを圧勝したエピファネイア、 ダービー馬・ワンアンドオンリーなど豪華な顔ぶれが揃い、 多いに暮れの一番を盛り上げてくれている。 そうした陰で、激変する競馬界を象徴する歴史的な記録も成し遂げられようとしている。 馬主の収得賞金額で競われるオーナーリーディング、 大衆向けクラブ法人の「キャロットクラブ」が27億円を超え、初めて1位を獲得する可能性が高まっているのである。 キャロットクラブはノーザンファーム傘下にあり、 1頭400口で募集を行っている。所有頭数はおよそ240頭で、4年前からはサンデーレーシング、社台レースホースに続く3位の定位置を確保してきた。 2010年にはサンデーRとの収得賞金差は15億円ほどあったが、 去年は6億円まで差は縮まっていた。今年はエピファネイア、ハープスター、 トゥザワールド、バウンスシャッセなどがG1戦線で活躍し、 先週もディアデラマドレが愛知杯を制して賞金を加算し、トップを走っている。

有馬記念は1着賞金2億円、2着8000万円のボーナスレース。 先週時点、3億7千万円差のリーディング2位で キャロットクラブを追う社台RHは出走馬がいない。 3位サンデーRはジェンティルドンナ、フェノーメノの2頭を参戦させるが、 4億6千万円と大きく差が開いている。逆転はほぼ不可能だ。 キャロットクラブ躍進の原動力は、エピファネイア、ハープスターだろう。 ノーザンファーム系で”本家”は40口募集のサンデーRであり、 キャロットクラブは格下の分家。だから、クラシックを狙えるような素質馬で 募集にかけられるのは牝馬に限られるとも言われてきた。 過去、オークス馬にはシーザリオ、トールポピーがいる。 桜花賞馬・ハープスターも、世代の目玉としてラインナップされた。 一方、初めて牡馬クラシックを制したのが菊花賞馬・エピファネイア。 素質は募集時から一級品だったが、母シーザリオが所属馬だったことから割り振られた。 いわゆるキャロット血統だが、優秀な牝馬は続々と繁殖入りしており、 エピファネイアと同様のケースは今後、増えていくと期待される。

だが、去年の1.5倍にも迫ろうとする収得賞金は、特別な2頭だけが稼ぎだしたものではない。先週時点で勝利数は113と、 すでに去年を16勝も上回っている。5年前は86勝、10年前は41勝に留まっていたのだから、 所属馬全体のレベルアップが著しいと言えよう。 こうしたクラブの底上げは一朝一夕に成功するものではなく、この10年、ノーザンファームがキャロットクラブに注力してきた結果である。 振り返れば1990年代まではサクラ、ナリタ、マチカネ、キョウエイなど、 個人馬主がトップ10に名を連ねていたが、2000年代にサンデーR旋風が吹き荒れ、 2010年代にはクラブ法人が上位を占めるようになっていく。 今年、ランキング8位までを眺めると、個人馬主はメイショウの松本好雄と ドバイ首長のシェイク・モハメドしかいない。 残りの6つのうち3つはノーザンファーム系の キャロットクラブ、サンデーR、シルクホースクラブだ (他は社台RH、マイネルのラフィアン、レッドの東京ホースレーシング)。

社台グループにとってクラブ法人は、 個人馬主ほど景気に左右されずに馬を売ることができ、 さらには出資後も生産馬を自由に扱える、使い勝手のいい仕組みである。 かつては個人馬主への遠慮から、クラブ馬は大レースを勝てないと言われたこともあったが、 そうした時代はとうに過ぎ去った。 いま、キャロットクラブという分家が、一時的にせよ本家を凌ぐというのも 時代の変化を示すものかもしれない。 ノーザンファーム傘下に入ってから勝ち鞍を倍増させたシルクHCと合算すれば、 次の10年は分家連合が経営の支柱になる可能性が高い。 もっとも、依然として本家に素質馬が集まる状況には変わりはないだろうが、 今後、その濃淡は薄まっていくのか、あるいは揺り戻しがあるのか、 ノーザンファームの戦略を見つめるのも楽しみである。 今週、エピファネイアが優勝すれば、 キャロットクラブとしては初の年度代表馬を送り出すことになろう。 果たして有馬記念を2014年の集大成とすることができるか、注目したい。

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2013.05.24

2013 乗り替わり事情に見る日本ダービー展望

騎手が乗り替わって日本ダービーを制したのは1985年まで遡らねばならない。 加藤和宏が手綱をとったシリウスシンボリだ。 同馬を管理した二本柳俊夫師は、頑ななまでに徒弟制度を守ろうとした人物だった。 騎乗ミスに激高したオーナーサイドは皐月賞を前にして 岡部幸雄への乗り替わりを要求する。 しかし、二本柳師が自厩舎に所属する加藤を守ったため、 一度は畠山重則厩舎へ移籍してしまう。ところが、有力馬の転厩は労働組合を巻き込んだ大騒動になり、調教師会の裁定でシリウスシンボリは二本柳厩舎へと戻る。その直後の若葉賞は岡部が騎乗したものの、皐月賞をパスして 臨んだダービーは再び加藤が跨ることになったのだ。騎手にフリーという概念がなく、ましてエージェントなど考えられない時代。 最近のファンから見れば、旧弊に囚われた大昔の出来事に感じられるかもしれない。 だが、この稀有なケースを最後にして、 競馬の神様は”乗り替わり”でダービーの栄冠を掴むことを許していない。

今年の皐月賞馬、ロゴタイプも乗り替わりでダービーへと駒を進めてきた。 この馬もまた、通常とは毛色の違う乗り替わりである。 朝日杯、皐月賞のパートナーはミルコ・デムーロ。 周知の通り日本だけでG1を9勝し、2003年にはネオユニヴァースで日本ダービーを手にしている名ジョッキーだ。ロゴタイプに大きな勲章をプレゼントした朝日杯、皐月賞とも、 ロスのない競馬で能力をフルに発揮させた非の打ち所がないレースだった。 ミルコがダービーに乗らない理由はライセンスの問題からだ。 JRAの短期免許は年3ヶ月で、1ヶ月ごとに申請しなくてはならない。 皐月賞前、ミルコはダービーを想定していなかった。 迷いはあったろうが、最終的には免許を新たに申請することはせず、スプリングSで代打を務めた弟のクリスチャン・デムーロにバトンタッチすることを決めた。クリスチャンは弱冠二十歳。 府中の芝では十数回しか騎乗経験のない外国人ジョッキーが勝利すれば、 ”国際化”された競馬界を象徴するダービーになるはずだ。

もう1頭、外国人騎手への乗り替わりで注目を集めるのがコディーノだ。昨夏のデビューから6戦すべてに騎乗してきた横山典弘を降板させ、オーストラリアのベテラン、クレイグ・ウィリアムズへスイッチ。 名伯楽、藤沢和雄の大胆すぎる選択である。コディーノは乗り方の難しい馬だ。 燃えやすい気性から皐月賞は他馬と接触して折り合いを欠き、 スタミナを消耗してしまった。東スポ杯を勝ったときは 「ダービーはこの馬で決まり」と言われたものの、 昨今の下馬評は「府中2400メートルは長すぎる」というものに変わっている。 藤沢師はゼンノロブロイ、シンボリクリスエスでダービー2着、 3年前も2番人気ペルーサで苦杯をなめた。 今回の乗り替わりはオーナーサイドから出たものではなく、 藤沢師の申し出によることが明らかになっている。 当然、面子を潰された横山典弘との関係は壊れ、年齢的なことを考えると藤沢-ノリの黄金タッグは修復不能かもしれない。かつて、若駒の成長を優先してダービーに目標を置かなかった藤沢師。スタンスを転換して12年目の今年、 なりふり構わぬ執念が実るのだろうか。

これら2頭とは対照的にデビュー以来、 主戦が信頼関係を築きながらダービーまで辿り着いたのがエピファネイアだ。 母シーザリオの主戦でもあった福永祐一は、騎乗停止中だった弥生賞を除いて5戦中4戦の手綱をとってきた。 2年前にはJRAリーディングにも輝きながら、 未だに天皇賞、牡馬クラシックには縁のない競馬界のプリンス。 去年もワールドエースという逸材に恵まれ、 ダービーは1番人気に推されたものの4着に敗れている。勝負弱さを指摘する外野の声も聞こえる。福永が決してミスをしたわけではない。だが、いつも他人がつくる流れに卒なく乗ろうとし、自らリスクを引き受けてレースを支配することを避けてきたように私には思えるのだ。エピファネイアは近2走の弥生賞、皐月賞で掛かり癖を見せている。 もし今回も同じ場面があれば、2ハロンの距離延長はこなせないだろう。 思い切って行かせるのか、馬群の中で折り合いをつけるのか。 いずれにせよ、腹を決めて挑むことでしか大一番は勝ち切れない。 先般、婚約を発表した福永にとって、今春は人生を左右するシーズンになるのかもしれない。

最後にキズナ。4強にあって唯一の「非社台」生産馬、 鞍上は外国人騎手や地方出身者にその座を奪われた武豊である。 オーナーのノースヒルズマネジメントは有力馬の手綱を ほとんど日本人ジョッキーに任せてきた。 ビートブラックの石橋脩、トランセンドの藤田伸二、アーネストリーの佐藤哲三、 ヘヴンリーロマンスの松永幹夫…。キズナもデビュー2戦は佐藤哲が騎乗し、彼が落馬負傷してからは武豊が跨ることになった。ノースヒルズの前田幸治代表は 「日本の生産馬は日本人ジョッキーにこだわっている。 社台グループ一色とならぬように頑張らなければなりません」(スポニチ)と述べている。 社台に袖にされた武豊、そこに手を差し伸べたノースヒルズ。 何としても最高の栄誉を勝ち取り、恩義に報いたいと往年の天才は胸に期しているはずだ。最内枠を引いたキズナは追い込みに賭けることになるだろう。この馬が勝つことは、ライバルたちとは異なる意義を持つことになる。どこでゴーサインを出すのか、馬群をこじ開けることはできるのか、武豊の鬼気迫る騎乗を観てみたい。

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2013.04.03

桜花賞展望2013 空前の乱桜を制する牝馬は!?

過去10年、1、2番人気が揃って連を外した桜花賞は 2008年だけ。この年は12番人気レジネッタが勝ち、15番人気エフティマイアが2着して馬連でも19万円の高配当が飛び出す大波乱になった。今年の桜花賞も大混戦とみる向きが強い。有力馬が次々と前哨戦で敗れ、核となる女傑が存在していないからだ。 そうした中でも最有力と目されるのがクロフネサプライズ。 ハイペースの阪神JFを2番手追走して2着、 まんまとマイペースに持ち込んだチューリップ賞では後続に3馬身半つけて完勝した。前走は展開に恵まれたのは否定しないが、それでも勝ち時計は優秀で評価は下がらない。 本番で1番人気に推されたチューリップ賞勝ち馬はブエナビスタ、 ウオッカ、アドマイヤキッスといずれも連対している。 クロフネ×トニービンの配合はカレンチャンと同じ。 ハナに拘るタイプでもなく、最も死角がない候補と言えるだろう。

クロフネサプライズに次ぐ人気を集めるのはトーセンソレイユか。ディープインパクトの半妹という超良血のネオユニヴァース産駒だ。 キャリア2戦目に選んだエルフィンSは1ハロンの距離短縮も影響してか、番手で先行した初戦と違って後方4番手からの競馬。 スローペースで勝負圏外かと思われた。 ところが、直線では馬群をさばき末脚を伸ばして一気の差し切り。 池江師をして「化け物」と言わしめた。不安はキャリアの浅さより、420キロしかない小柄な馬体の細化。 エルフィンSの後、馬体を維持するためトライアルをパスせざるを得なかった。 もともと陣営はオークスに照準を合わせている節もあり、 十分のデキには仕上げて来ないかもしれない。それでも兄のように抜きでた実力があれば桜も”飛ぶ”可能性は多分にあるのだが。 ちなみにキャリア3戦での桜花賞制覇となれば、1980年のハギノトップレディ以来、33年ぶり3頭目の快挙になる。

チューリップ賞上位組では2着ウインプリメーラ、 3着アユサンとも印が薄そうなだけに食指が伸びる。 ウインプリメーラは3週連続重賞勝ち馬を送り出しているステイゴールドの産駒。 どんなレースでも大崩れせず、 先行馬が残る流れなら複勝圏の一角に食い込むシーンもあるか。 アユサンは出負けした阪神JFを除いては【1110】の成績。 近年は栗東留学の選択肢ができたためか、桜花賞で美浦所属の活躍も目立つ。 関東馬ではアネモネSまで無敗の3連勝中のクラウンロゼが血統的な話題(ロサード×ヒアシアケボノ)もあって注目されているが、 魅力はアユサンのほうに感じる。 フィリーズレビュー組は過去10年でラインクラフト、レジネッタの2頭しか連対馬を出していない。 今年の勝ち馬はメイショウマンボ。 スズカマンボの仔ということで距離延長を歓迎する評価もあるが、 前走の差し脚は”切れすぎ”の面もあった。 京都マイルで勝ち鞍はあるとはいえ、 最も能力を発揮できるのは1400メートルのようにみえる。

去年、2歳戦が行われていた時期には牝馬クラシックを独占すると言われていた須貝厩舎。今年の乱桜の原因はその有力馬の予想外の不振にある。 2歳女王ローブティサージュはチューリップ賞で9着と惨敗。 アルテミスSを勝ち、阪神JF1番人気だったコレクターアイテムもクイーンCで見せ場なく敗退した。だが、どちらも前走は不完全燃焼。 とりわけローブティサージュは調教も軽く、あくまで一叩きの感が強かった。 ここぞというところで仕上げてくるのが須貝流だけに、巻き返してほしい願望はある(同馬の一口出資者としても)。 阪神JFのように内で脚を溜めて持続力勝負になるのが理想だが、 コースの内は荒れ気味。かといって、大きく外に振られるようなレースも厳しい。 秋山も悩むはずだ。おそらくオークスのほうが競馬はしやすい。 同じくチューリップ賞を人気で負けたレッドオーヴァルはデビュー戦と比べて20キロ減。馬体の回復が鍵だが、道悪の紅梅賞でメイショウマンボを3馬身ちぎっており、週間予報通りに雨に降られるようなら一気に浮上してくる。 もう1頭、大穴としてプリンセスジャックにも注意しておきたい。

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2012.05.25

日本ダービー直前 反転し始めた池江厩舎の運気

日本ダービーの枠順が発表された。皐月賞馬ゴールドシップは6番、毎日杯を勝って臨むヒストリカルは2番枠に入った。そして、多いに注目を集めるワールドエースは中ほど8番枠を引き当てた。皐月賞はスタートで落馬寸前のアクシデントがあり、4コーナーでは大外を回らされて2着。ゴールドシップが内田博幸のマジックのような手綱捌きでロスない競馬ができたのとは対照的に、ワールドエースは不利に泣かされたレースだった。勝負事には目に見えない流れがある。今春、所属する池江泰寿厩舎の流れは最悪だ。去年、三冠を達成したオルフェーヴルは阪神大賞典は逸走、天皇賞は思わぬ惨敗。NHKマイルで2番人気を集めたマウントシャスタは失格処分。ドン底と言っていい。

だが、運気というものは常に高いところに留まることはできない。上がったり下がったりする波のようなもの。頂きが高ければ、当然、谷は深くなる。そんなときはじっと耐え忍ぶしかない。天皇賞のレース後、茫然自失とした姿を広く伝えられた池江師だったが、恐らくあそこが谷底だった。今週、スポーツ紙にはTIMを従えて『命』のポーズを決める晴れやかな池江師の写真が掲載された。後ろ向きにならず、ダービーを盛り上げようと明るく取材に応じる姿勢は素晴らしい。反転し始めた運気を示すように、ダービーの枠順は従前から望んでいた通り。サンデーレーシングの勝負服に似合う、後入れの偶数枠だった。ここなら無理なく中団を取れるはずだ。

鞍上の福永祐一にとっても、今年のダービーは勝負がかかる。リーディングは獲得したものの、牡馬で大きなレースは一つも勝てていない。キングヘイローを御しきれなかったダービーから14年、誰もが認めるトップジョッキーとなるために獲得しなければならない勲章だ。余談だが、ダービーのプレゼンターはAKB48のメンバー、篠田麻里子、高橋みなみ、高城亜樹だという。ならば、サイン馬券は4枠8番と考えるのが自然。ワールドエースが勝てば福永、池江、サンデーレーシングの『FIS48がトップ当選!』などという見出しが踊るかもしれない。

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2012.04.13

皐月賞展望 ワールドエースは社台対決を制するか?

牡馬クラシックの第一冠、皐月賞の枠順が発表された。人気を分けるのは2頭。スプリングSを制して世代最初の重賞2勝馬となったグランデッツァと、若葉Sを勝って4戦3勝としたワールドエースである。ともに社台グループのクラブホースだが、グランデッツァは本家社台産、ワールドエースはノーザンファーム産。日本競馬が「社台の運動会」と揶揄されて久しいが、いまや社台ファームとノーザンファームの兄弟同士しか切磋琢磨できる相手はいなくなってしまった。昨年はオルフェーヴルやブエナビスタを擁するノーザンファームが、マルセリーナやカレンチャンらを生産した社台ファームを賞金額で上回って、3年ぶりに生産者リーディングを獲得した。その一方、勝ち鞍では社台ファームがトップを保った。ノーザンファーム代表の吉田勝己は社台ファームこそがライバルだと言って憚らない。

「社台ファームの存在が、頑張れる要素になっていますね。このように全体としては社台ファームと競争し、牧場の中では厩舎がほかの厩舎と競争するなど、私以外の全員が常に競争しています(笑)」 「今後はクオンティティ(量)よりクオリティを高めていこうかな、と。ですが、繁殖牝馬の購入は一生つづけていきます。兄貴(吉田照哉)とぶつかり合いながら買うこともよくありますよ」 (優駿 2012/4)


ワールドエースはノーザンファームの至宝、ディープインパクトの仔として生まれた。「生まれたときから品があった。見かけもいいし、走っても美しい。こんな見事な馬、なかなかいない」(同)と吉田勝己は最高の賛辞を送る。実際、兄弟馬が走っているわけでもないのにサンデーレーシングで世代最高の1億円で募集したのだから、よほど馬体に確信を持てたのだろう。一方、グランデッツァは半姉マルセリーナが桜花賞馬となった後、吉田照哉をして「アグネスタキオンの最高傑作」(週刊Gallop) と言わしめた逸材。アグネスタキオンは社台ファームの生産馬だから、皐月賞は両牧場の威信をかけた一戦と捉えられなくもない。 枠順はワールドエースが5枠9番、グランデッツァが8枠18番を引いた。スプリングS馬が本番で好成績を残していることから人気はグランデッツァに軍配が上がると思っていたが、大外枠が嫌われてワールドエースのほうが支持を集めるかもしれない。ただ皐月賞は中山競馬場で施行された近9年、勝ち馬は不思議と4枠から6枠以外から出ており、8枠は連対数でトップを誇る。枠順で評価を下げるのは賢明ではない。

臨戦過程や脚質など死角が見出しにくいグランデッツァとは対照的に、ワールドエースには懸念材料が少なくない。最も大きいのはローテーション。12月の新馬戦を勝った後、2戦目に選んだ若駒S。追い込みの効かない重馬場でゼロスに逃げ切られて痛恨の敗戦を喫した。競馬を教えた福永を騎乗ミスと責めるわけにはいかないが、悔しさに任せて中1週できさらぎ賞に向かった陣営の判断は疑問符がつく。確かにきさらぎ賞の勝ち方、時計は非常に中身の濃いもので、ワールドエースのポテンシャルの高さを証明することになった。2着ヒストリカルは毎日杯を、3着ベールドインパクトはすみれSを、4着ジャスタウェイはアーリントンCを、それぞれ次走で制している。いかにハイレベルだったか分かろう。しかし、その分、疲労も蓄積することになった。 間隔を開けた若葉Sはマイナス8キロ。輸送のない関西圏でのトライアルを選択したのに馬体を減らしたのは誤算だった。皐月賞は初めての長距離輸送が待つ。当初の青写真通り、弥生賞をステップにできていれば要らぬ不安でなかったか。

さらに4つのコーナーを回る中山2000メートルでは、出遅れ癖は致命傷になりかねない。 若葉Sは先行勢が有利な馬場状態にも関わらず外から力でねじ伏せてしまったが、皐月賞はライバルが断然強くなる。ディープインパクト譲りの末脚とも評されるが、父が格下のアドマイヤジャパンにクビ差まで迫られたのは同じコースだった。鞍上も十全の信頼が置けるとは言いがたい。福永は根岸Sから高松宮記念、桜花賞まで1番人気で跨った重賞は8連敗中だ。それでも、吉田勝己が過剰とも思えるほど福永を重用しているのは、競馬界を背負わねばならないプリンスに勲章を与えたいという意図を含むはず。 去年、初の全国リーディングに立ったとはいえ、牡馬クラシック、天皇賞、有馬記念などは未だ勝利なし。大舞台を人気馬で勝ち切ってこそ、ジョッキーは一流である。何よりワールドエースがこれまで見せてきた実力は世代トップのもの。第一関門さえクリアすれば、2年連続三冠馬の可能性は大きく開けてくる。今年の皐月賞はデータ的にはグランデッツァ有利と認めつつ、心情はワールドエースに寄せてしまう。馬券は悩みどころだ。


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2012.04.06

桜花賞展望 関東馬旋風は本番も吹き上がるか?

史上初めて関東馬が3つのトライアルをすべてを制した桜戦線。関東馬による旋風は本番でも吹き上がるのか。最終的な結論を下す前に、各ステップレースを振り返っておきたい。 最重要トライアルのチューリップ賞はハナズゴールが外から鮮やかな差し切り勝ちを収めたが、この日は内が伸びない馬場。チューリップ賞は1000メートル60秒2、逃げ馬から離れた後続集団にとっては、かなり遅い流れになった。好位から競馬を進めたジョワドヴィーヴルは窮屈なレースを強いられて伸びを欠いた。最内枠のジェンティルドンナも同様だ。例年、チューリップ賞はスローになることが多いが、桜花賞は追い込み馬の台頭する速い流れになりやすい。必然、求められる能力は違ってくる。となれば、一叩きされて体調上向きのジョワドヴィーヴルの巻き返しは自然と予想される。また、前走は熱発で完調さを欠いていたジェンティルドンナもしっかり追いきられており、 これ以上、馬体が減っていなければ浮上してくるだろう。勝ち馬ハナズゴールが追い切り後、洗い場で 右後肢の蹄球を負傷するアクシデントで回避したのは残念だ。

チューリップ賞とは対照的にハイペースになったのがフィリーズレビュー。直線、早め先頭から押し切ったアイムユアーズは着差以上に強い競馬だった。だが、桜を距離不安でスキップしたビウイッチアスが2着したように、レースはスプリンター向きの流れ。アイムユアーズは阪神JF2着の実績を持つが、本質的にはスタミナよりスピードを活かすタイプであり、底力が問われる内容になると決め手を発揮できないかもしれない。このレース1着は鬼門になっているのも気がかりだ。むしろ、この組からは3着プレノタート、4着イチオクノホシといった無欲の追い込み馬による複勝崩しが面白い。不良馬場のアネモネSはパララサルーが3連勝で1番人気に応えた。外から一気に交わし去った脚は際立っていたし、菜の花賞も荒れ馬場を苦にせずに差してきた。時計がかかるようなら軽視はできない。桜と相性の良いフラワーCも関東馬のオメガハートランドが勝ったが、レースレベルには疑問符がつく。 それならば相手関係は弱くても、紅梅Sを楽勝したサウンドオブハートの余力に期待したい。関東馬ならこの馬という気がする。 クイーンCから直行するヴィルシーナはオークス狙いだろう。

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2011.06.25

宝塚記念データ 人気馬も穴馬も欠かせない重賞実績

 上半期の総決算、宝塚記念。09年ドリームジャーニー、08年エイシンデュピティ、02年ダンツフレームのように天皇賞やクラシックでは一歩足りなかった馬が、宝塚記念で古馬G1を初めて制するといったケースも多い。古くはマヤノトップガン、マーベラスサンデーもそういうタイプだった。ネオユニヴァースやウオッカなど3歳有力馬の挑戦もあるが、連対したことはない。
【コース適性】
 阪神2200メートルは内回りコースを使って行われる。ゲートが設けられるのは4コーナー奥のポケット。1コーナーまで500メートル以上の直線を走るため、スタートからペースが早くなることが多く、仕掛けも内回りを意識して早めになる。瞬発力を生かして追い込んでくる馬よりは、持続的に脚を使える先行馬、差し馬が有利。安田記念をステップに連対した05年スイープトウショウ、02年ダンツフレームはすでに2000メートル以上のG1でも連対経験があった。純粋なマイラーには酷なコースだ。
【人気馬の成績】
 1番人気は【3313】、2番人気は【2116】、3番人気は【1234】。上位3番人気が 連対できなかったのはヒシミラクルが勝った03年だけ。軸は3番人気以内から選ぶのが妥当だろう 。着外からの巻き返しは困難で、前走はG2以上で3着以内であることが条件になる。
【好走馬のデータ】
 10年こそオープン特別とヴィクトリアマイルを使った2頭がワンツーだったが、それ以前は天皇賞春、安田記念、金鯱賞の3レースをステップにした馬しか連対していなかった(海外遠征馬を除く)。優勝馬は主要3レースで3着以内馬ばかり。2着馬もG1連対経験か2勝以上の重賞勝ちと いうハイレベルのキャリアがあった。ナカヤマフェスタも例外ではなかった。この傾向はしばらく変わらないだろう。
【穴馬のデータ】
 人気馬がほぼ連対している一方で、5番人気以下も7頭が2着以内に突っ込んできている。人気馬を軸に穴馬に流す、あるいは穴馬を軸に人気馬に流すのが的中への近道だ。ただ、これら7頭のうちナカヤマフェスタを除く6頭は、いずれも前2走でG1かG2で連対していた。06年ナリタセンチュリー、04年シルクフェイマスは前々走で京都記念を制していた。人気馬も穴馬も好走するには実績が必要だ。

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2011.02.11

共同通信杯展望 2011年の牡馬クラシックを占う一戦

まだまだ混戦の続いている牡馬クラシック戦線だが、今週の共同通信杯は春を占う重要な指標となるレースのように思う。年明けの京成杯ではホープフルSの3、5着馬がそれぞれ1、3着に入り、レースレベルの高さを示した。その京成杯を制したフェイトフルウォーはホープフルSでハナ差の接戦を演じたペルシャザールナカヤマナイトに3馬身差をつけられて完敗している。キングカメハメハ産駒のペルシャザールがホープフルSに挑んだのは皐月賞を想定してのこと。陣営の思惑通り、2番手先行から後続を交わさせない粘りの競馬で1着。ごちゃつきやすい皐月賞を勝つ、お手本のような乗り方だった。松田国師と言えば、クロフネ、キングカメハメハ、ダノンシャンティなど皐月賞をパスするローテを好むイメージが強いが、ペルシャザールにクラシック2冠を託す本気度が高いのかもしれない。ナカヤマナイトは逃げ、先行、差しと自由自在な脚質が武器で、追って長く使える脚は東京向き。いずれにしても、この2頭のワンツーで決まるようなら本番までライバルを引っ張っていく存在になろう。

一方、王道であるラジオNIKKEI杯を制したダノンバラード。ディープンパクト産駒として初のステークスウイナーとなり、しかも父と同じ池江郎厩舎、武豊のチーム。池江郎師は今月で定年退職するとあって、ダノンバラードの共同通信杯制覇を花道にするのではとの見方は強い。ラジオNIKKEI杯はホープフルSとは対照的に、勝ち馬とコンマ1秒差だった3着コティリオン、4着ウインバリアシオンが期待を裏切る内容で先週のきさらぎ賞で敗れており、今回が改めて実力を測る試金石になる。ダノンバラードは血統構成が非常に去年のNHKマイルC馬のダノンシャンティに似通っているが、後方から切れ味を生かす競馬が最も力を発揮できるところも共通しているのかもしれない。これに続くのが2戦2勝のサトノオー。前走は大きな不利を受けて繰り上がり1着。進路を妨害して降着になったレッドデイヴィスはすぐにシンザン記念を勝ったが、フェアな競馬ならサトノオーが先着していたはず。重賞級なのは間違いないが、クラシック級なのかは共同通信杯の結果次第だ。

不気味なのはホープフルSで1番人気ながら、まったく競馬をせずに殿負けしたディープサウンド。百日草特別ではナカヤマナイトを降している。敗因はリズムが合わずに嫌気を差してしまったとのことだが、本当のところは良く分からない。気性に問題があり、マジメに走らない癖が出たのであれば競走馬としては失格。実際、精神面の幼さゆえに出世できない馬はゴマンといる。力はあるのだから、ここで前走の裏切りを帳消しにする競馬をすれば再び展望が開ける。ディープサウンドにとっても、運命を左右する一戦だ。ほかでは若駒Sでリベルタスにクビ差迫ったユニバーサルバンクが注目を集めるのだろうか。だが、この馬が勝つようであれば、中心馬不在の牡馬クラシック戦線はいっそう混迷を深めることになる。ちなみにデータ的にはラジオNIKKEI杯や東京スポーツ杯の好走馬が良績を収めている。そうなるとダノンバラードが浮上するが、ギリギリまで頭を悩ませることになりそうだ。

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2010.07.02

笠松のラブミーチャン 北海道で再び中央に挑む

初夏の北海道は本当に気持ちが良い。どこまでも広がるパッチワークの畑作地帯には、涼風にそよぐ男爵イモの白い花が揺れている。私が北の大地を離れて8年になるが、しばしば思い出すのは今の時期の光景だ。ドクターコパ氏が所有する笠松のアイドル・ラブミーチャンも、本州の梅雨とは無縁の北海道に5月から滞在して競馬を続けてきた。桜花賞の切符をかけて、無敗の6連勝で臨んだフィリーズレビューは果敢に逃げて12着と大敗。ほろ苦い中央デビューとなった。その後、体調が整わず浦和桜花賞を取り消したラブミーチャンは、門別競馬場に移送され再起をかけることが決められた。初戦のエトワール賞はアタマ差の辛勝。しかし、この勝利を起点にして調子は上向いていった。続く交流重賞・北海道スプリントCでは歴戦の古豪相手にハナを一歩も譲らず飛ばしていく。ゴール前はさすがに脚が上がったものの、競りかけてきたダイワディライトらを抑えて地方馬最先着の3着に好走した。今週、ラブミーチャンはフィリーズレビュー以来、2度目の中央参戦を函館SSで果たす。別定重量は51キロ、時計のかかる洋芝も歓迎。主戦の浜口に手綱が戻り、得意のスプリント戦で何処まで中央勢と戦えるか。今後を占う試金石の一戦に注目したい。

>>桜の切符を賭けて 笠松の期待を背負うラブミーチャン(2010/3/14)

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