7日、関西では初めてのナイター競馬となる「そのだ金曜ナイター」(そのきん)が開幕した。園田競馬場の最寄り駅・園田は阪急線で梅田から10分という好立地。周辺は住宅街とあって住民の同意を得るのに時間を要したが、競馬場の存廃が取り沙汰されるなか、関係者の尽力で積年の夢が実現した。運良く私も前日からの夜勤の仕事が終わったので、3レースが始まる午後4時前に競馬場に到着することができた。入場門で配られたのは「祝」とラベルの貼られた紅白餅。今日は園田にとって特別な日なのだ。だが、まだそこにあるのはいつもの光景。真夏の陽射しを浴び、青空にいきり立った白い雲を背にサラブレッドが砂煙を上げて駆けていく。太陽は高い。この日、ナイター開幕のほか、注目されていたのが木村健の2500勝達成だ。しかし、王手をかけたまま連敗が続いていた。5レースでは単勝1.9倍のボナンザに騎乗したものの、果敢にハナを叩いた逃げ馬に突き放されて5着。簡単に勝利はあげさせない。普段より倍の観衆を前にして、どの騎手からも気迫が溢れていた。
少し陽が傾きはじめた5時半、歴史的な点灯式を見ようとウィナーズサークルを大勢のファンが囲む。ゲストの間寛平が姿を見せると「アヘー!アヘー!」の声が飛び、本人もサービス精神旺盛に「アヘアヘアヘ」と答える。渾身のギャグに人々は爆笑。ボルテージはあがっていく。兵庫県下から集まった”ゆるキャラ”軍団も賑わいに花を添えた。カウントダウンの音頭を取るのは青芝フック。実は兵庫県調教師会アドバイザーである。カウントダウンの練習!?だと言って、数を逆に増やすパフォーマンスも。ツカミよく、いよいよ本番へ。観客と一緒にカウントダウン。
「5、4、3、2、1…」、コースを囲む40本の照明柱にスイッチが入った。少しずつ水銀灯が明るさを増していく。初めてのナイター競馬となったのは6時5分発走の6レース。名手・田中学が操るグリーディボスは3コーナーで早めに先頭に立つと、
7馬身差をつけてゴールに飛び込んだ。ダイナカールの孫にあたるアグネスデジタル産駒。ノーザンファームの生産馬だ。
続く7レースは差しが決まって3連単40万馬券が炸裂した。
徐々に帳が降りると、いっそうナイター競馬らしくなってきた。場内に飾り付けられたイルミネーションが輝く。涼しくなってきた風が気持ちいい。続々と観客が来場し、夜店にも
ビールを求める人だかり。「きょうは祭りだ、祭り」とファンが呟いていたが、まるで夏祭りの会場のよう。会社帰りのグループや学生、家族連れも少なくない。小さな娘を連れた父親と話すと、「関西初でしょ。本当にこの日を待っていたんですよ」と昂揚した面持ち。すかさず、隣にいた常連から「いつも晩にやったらええねん」とツッコミが入った。今年、”そのきん”が行われるのは11月9日までの10日間だけ。治安が悪くなる、ゴミが散らかるなど反対する市議会議員もいるが、駅までの送迎バスも増発されているし、大きな問題は起こらないはず。せっかく9億円も投資したナイター設備。
来年は大井のようにナイター競馬が開催の中心となって、仕事帰り「そのきんに寄り馬してく」習慣が関西圏に広がってほしいものだ。
初日の目玉の一つがスペシャルトークショー。間寛平もさることながら、園田出身の岩田康誠が来場することになっていたからだ。岩田はデビューから15年間、この競馬場で技術を磨きあげた。ゴール前には「日本ダービー優勝おめでとう」の横断幕が張ってあるほど、
移籍後も園田の誇りであり続けている。最初に舞台へ姿を現したのは間寛平。お約束のギャグで盛り上げる。園田競馬歴40年、芸歴より長い。自宅のある宝塚から12キロ走ってきた!というのは嘘か真か。そして、満を持して岩田が登場。この2人、日本話が通じるのだろうか…。話題はメインレース・摂津盃の予想なのだが、ホクセツサンデーの木村が3連覇していることに絡んで
「岩田騎手は六甲盃と兵庫ゴールドトロフィーを3連覇していますが」と司会に話を振られると、岩田は「全然知りませんでした」と大ボケ。キャラクターを分かりすぎている。岩田はホクセツサンデーを推奨し、間寛平は馬名に反応してエーシンアガペー1着予想。3人の「かい~の」ポーズで会場の盛り上がりもマックスに。翌日は阪神開催のある岩田、「調整ルームに9時までに戻らないと騎乗停止になってしまうので」とお開きになった。
8レースの大阪スポーツ賞で木村が2500勝をあげ、9レースの摂津盃。ライトに照らされながら園田を代表するオープン馬たちがパドックを周回する。ジョッキーが騎乗し、芦毛の誘導馬が12頭を引っ張っていく。と、礼服に身を包む騎乗者がファンに向けて手を高くあげた。まごうことなき岩田ではないか。トークショーの締めはサプライズを演出するためのフリだったのか。運営側の演出が心憎い。レースはスタートから園田らしい激しい先行争い。2周目の3コーナーをすぎると後続が先行馬に競りかけていく。先に抜けたのはエーシンアガペー、並ぶようにホクセツサンデー。直線は2頭のマッチレースになったが、最後は5キロのハンデ差に恵まれたエーシンアガペーが2馬身半差をつけて優勝した。見事な田中の手綱さばきに胸動かされた。間寛平に乗った私は3連単38倍をとらせてもらった。口取りにはその間寛平も参加し、期待通り「アガペ~」とアクションをかまして大喝采を受けた。興奮と感動と笑いとビール、とにかく楽しませてくれた「そのきんナイター」。今後も様々なイベントが予定されているとかで、これまで地方競馬に縁のなかった人たちも、ぜひぜひ足を向けてほしい。関西に新名所が誕生した一日だった。
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