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2015.03.17

逆ギレ発走委員のムチ連打事件 その真相と学ぶべきこと
ローブティサージュ復活に改めて問う

今月1日に行われた阪急杯はレースの行方とは別に、 ある牝馬のレースぶりに注目が寄せられていた。ローブティサージュである。 ほぼ3ヶ月ぶりの実戦となる同馬にとって、 阪急杯は競走生活を断つことになるやもしれない試金石となっていた。 問題はゲート入りだった。もしローブが嫌がって発走を遅延させるようなことがあれば、 二度とレースに出走させることはできなくなるだろう。 だが、目隠しされたローブは先入れにも動じることなく、すんなりとゲートに収まった。 そのまま好スタートを決めたとき、ローブの一口会員である私は胸をなでおろした。 他の会員や陣営、クラブ関係者も同じ気持ちだったのではないか。 事の発端は去年11月の京阪杯に遡る。ゲート誘導の際、枠入りを嫌がった同馬は発走委員から執拗に長ムチを連打されてパニック状態に陥った。 「体も硬直していたし、ゲートを出てからは冷静さを欠いて走っていた」(鞍上の三浦騎手) と言う。4番人気ながら競馬の形にもならない14着に大敗してしまった。 レース後、ローブにはゲート再審査が課せられたが、トレセンでの練習では恐怖から身体を震わせるなど精神的な傷は深く、試験も不合格となった。競走馬生命は風前の灯だった。

いったい京阪杯では何が起きていたのか。 先月、ローブが所属するシルクホースクラブは会報で、発走までの経緯を見開き2ページに渡って報じた。その情報に沿って振り返ってみたい。 もともと気性のうるさいローブの尾には「尻っぱね注意」を意味する 赤いリボンがつけられていた。この日もゲート入りを前にして尻っぱねをしたのだが、 発走委員の右手に脚があたって転倒させてしまった。 周囲の注意不足が原因だったのか、あるいは避けられない事態だったのかは分からない。不幸だったのは発走委員の腕時計を破損させてしまったことだ。 ローブはその後も尻っぱねしたため、三浦は 「目隠しをすればスッと入る」と進言したが、「順序がある」と断られてしまう。 そして発走委員はゲートから離れようとする同馬にムチを数回、連打。 一度、待避所まで戻り目隠しをすることになり、三浦は馬を下りた。 ところが、ここでも下馬直後、発走委員が何かを叫びながら腹めがけてムチを振るった。 結局、目隠しされたローブは大人しくゲートに入ったのだが、 一連の様子はテレビ中継に映しだされていた。

カメラが捉えていたのは、昂った感情を抑えられず、 怒りに任せてムチを振るう発走委員の姿だ。JRAは三浦の進言を却下した理由には 「定時発走のため発走委員も最善を尽くしている」とし、「腕時計が壊れたのは事実。でも感情的な鞭は打っていない」と抗弁している。 しかし、少なくとも騎手が下馬した後、待避所で脇腹にムチを打つ合理性は一分もなく、 エリート職員である発走委員を守りたい組織の姿勢ばかりが透けて見える。 馬を落ち着かせてゲートに導き、能力を最大限に発揮させるのが 発走委員の役割のはず。多額の馬券もレース前に紙切れにしてしまったわけで、 今回の発走委員の行為は「公正競馬」の信頼を損ねたことに他ならない。 JRAが発走委員を擁護するのには心底、失望させられた。当初、この一件は拙ブログを含むウェブサイトのほか 、ツイッターなどでファンが騒いだに過ぎず、競馬メディアでは JRAの顔色を伺わない「競馬最強の法則」が記事を掲載したぐらいだった。 沈黙を決め込んだ競馬マスコミの態度は残念だったが、 先月に一般紙である朝日新聞が取り上げたことで、一転してスポットライトが当たることになった。

京阪杯後のゲート練習では震え通しだったというローブ。 「前走のことが相当堪えている」(畑端騎手)様子だったため、 予定していた1月のシルクロードSは回避せざるを得なかった。 須貝師らスタッフは京阪杯で負ったトラウマに注意を払いつつ、 目隠しをしても落ち着いてゲート入りできるよう練習を重ねた。 そして先月初めに試験に合格。一度、ノーザンファームしがらきで体調を立て直し、 阪急杯での復帰を目指すことを決めたのだった。 競馬メディアはローブの復活は難しいと見ていたのか、馬柱の印は薄く9番人気に留まっていた。冒頭で記したように、最初から目隠しされたローブは問題なくゲート入り。レースも最後まで内ラチ沿いから脚を伸ばして、勝ち馬と同タイムの3着に好走した。 追い切りからバトンを引き継いだ池添騎手は、引き上げてくる際に 馬上で嬉しそうな表情を浮かべていたが、 泥だらけの不良馬場を懸命に走りぬいたローブに私も感情を揺さぶられていた。 馬自身も頑張ったし、困難を克服させたスタッフの努力にも感謝するばかりだった。

発走委員の個人的責任を問うことは望まない。 だが、今回の事件を契機にして、再発防止に向けた取り組みをJRAには進めてもらいたい。 最初に目隠しを拒んだことについてJRAは 「馬に合わせた対応については今後考慮していく」とクラブ側に回答している。 サラブレッドは繊細な生き物である。 杓子定規でなく、公正競馬を確保する視点から臨機応変な対応を願いたい。 また、そもそもゲート入りに長ムチを使うのは日本独特の習慣であって、 その効果には疑問を呈する見方もある。アメリカではポニーを誘導馬として使ったり、 ゲートボーイと呼ばれる専門職員を置いている。 テレビ中継に影響の出ないよう定刻を守らせよと、発走委員にプレッシャーをかけるのならば、ゲート入りを補助する改善策も欠かせない。 オーストラリアの元日本人騎手はゲートに「嘘みたいにすんなり入ってくれる」 馬着の導入を提案している。できるところから、試みを始めてほしい。

最後に、この問題に対してJRAに毅然とした姿勢で質疑を求め、 詳細を公表したシルクホースクラブと須貝師に敬意を表したい。 事なかれ主義に問題を伏せたほうが面倒はなかったかもしれないが、公にすることでJRAの態度は変わるだろうし、今後の競馬界全体のためになる。 会員がクラブに寄せる信頼も大いに高まったはずだ。 また、一つ確かめておきたいのは、今回の事件はゲート入りの手法や発走委員の手順が問われているのであって、ローブがゲートを嫌がったことへの陣営の責任を混ぜ込んで議論するのは間違いだということだ。 馴致が十分でないというならば、それは別途、批判するべきだ。実はローブはデビュー前に試験を4度連続で落ちるほどゲート難があったが、陣営は根気強く向き合って同馬を育ててきた。少なくない競走馬は気性難やストレスを抱えているものだし、そうした状況でも騙し騙しレースに使うのが陣営の技術である。素直にゲートに入る馬ばかりではないからこそ、 発走委員を含む人馬の安全、ファンの利益を守るための知恵を出していくことが 必要ではなかろうか。

*カギ括弧の引用は別途注釈がないものはシルクホースクラブ会報及びオフィシャル情報による

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コメント

写真Aと写真Bの発走委員は別の人物で、写真Aが蹴られて転倒した委員ですよね。
全部を同一人物が行ったと思っている方も多いようです。

投稿: | 2015.03.21 20:13

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