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2013.06.18

預託頭数削減 “負け組救済策”へ角居師が身を切る抗議
厩舎制度改革にヴィジョン示せ

栗東の常勝ステイブル、角居勝彦厩舎の身を切る猛抗議が競馬サークルに衝撃を与えている。12日、角居師は公式ブログで来年の2歳馬(2012年生まれ)を1頭も預からないことを明らかにした。一口クラブの募集カタログに同厩舎に入厩を予定している馬がいないことからファンの間では様々な憶測を呼んでいたが、クラブ馬だけが対象というわけではなかった。角居師が決断の理由として挙げたのが「預託頭数の削減」だ。JRAの規定によれば、以前は馬房数の3倍まで預かることができた(20馬房を超える分の係数は2倍)。それが去年10月に2.7倍に、今年3月には2.5倍へと引き下げられた。現在、角居厩舎は28馬房を割り当てられている。以前は76頭(20*3+8*2)まで預かれていたのが、新たな規定のもとでは70頭(28*2.5)までしか預かれない。角居師は馬房の都合を理由にして一旦、預託された馬をベストを尽くさないまま見切りをつけることは、信条に反すると考えた。そして、ルール変更を知らされた去年暮れ、2012年産馬を受け入れない方針をすべてのオーナーに説明したのだという。
一世代あたり25頭強を預からせていただき、残念ながらデビューまでたどり着けない馬や、我々の力が及ばず未勝利で引退してしまう馬もいるのですが、6~7割の馬が勝ち上がってくれ、そのなかにはオープン馬として厩舎の看板を背負って長期間がんばってくれる馬もいます。そうやってひとつでも多くの勝利をあげようと取り組んできた積み重ねを否定されるような預託頭数削減に対して何らかの対応を取らざるをえなくなりました。勝つことを目標にやっているのに、勝てば勝つほど馬の入れ替えがうまくいかなくなるというジレンマに陥ってしまうからです。 (Team Sumii オフィシャルブログ)
なぜJRAは預託頭数削減を打ち出したのか、なぜ角居師はこれほど怒りを顕わにしたのか。今一度、厩舎制度がどのような状況にあるのか振り返ってみよう。もともと中央競馬では1厩舎20馬房を基本にして設計されていた。各厩舎横並びの護送船団方式である。競馬ブームの華やかなりし頃、馬を預かってほしいと頭を下げてくる馬主は山ほどいて、調教師ほど楽な商売はないと言われたものだった。もっとも、そうした既得権益にベテランが胡座をかいていては競争意識も低下するし、若手も育たない。そこで提案されたのが厩舎の年間成績に応じて馬房数を増減させる「メリット制」だった。具体的には成績の下位1割に甘んじた厩舎の馬房をふたつ、上位の厩舎に回すことになった。預けたい馬主が大勢いて、馬房数が多ければ多いほど利益は得られることを前提にしたシステムだ。だが2004年、メリット制が導入されたときには競馬バブルは終焉していた。とりわけ、美浦トレセンの地盤沈下は激しく、経営難から定年前に「勇退」を余儀なくされる調教師が続出。馬房を埋められないと自ら返上を申し出る者も相次ぎ、制度は事実上、崩壊した。

一方、厳しい競馬不況のもとでも躍進を遂げたのが、社台グループなど有力オーナーと強固な関係を築いた西の調教師たちだった。角居師はその代表的な存在だ。社台グループなどが求めたのは、馬を効率よく「回転」させること。厩舎に長く滞在させて一から調教するスタイルは時代遅れ。調教のほとんどはオーナーブリーダーが直営する育成施設で済ませ、厩舎ではなるべく短期間でレースに向けた仕上げを行う。そのため、調教師は放牧と入厩をマメに繰り返しながら、できるだけ馬房を遊ばせず、多くの回数、レースに使うことが最も重要な仕事になった。優秀な成績を収めて馬房数を最大まで増やした角居師も、預託契約を結んだ76頭のマネジメントに心血を注いできたはずだ。未勝利で競馬場を去る馬が多ければ、馬の入れ替えとて苦労は少ない。しかし、懸命に馬を勝ち上がらせれば、古馬になっても在厩するわけだから、どうしたって馬房は足りなくなる。「勝てば勝つほど馬の入れ替えがうまくいかなくなるというジレンマ」に角居師は陥っていった。そこに降ってわいた預託頭数削減である。

JRAが持ち込んだ競争原理に従って努力してきたのに、まるで相反するルールを適用されれば憤るのは自然なこと。角居師の心中、察するに余りある。一方、JRAにしてみれば、時計の針を戻さねばならない事情があった。馬を集められる調教師と、そうではない調教師。両者の格差はメリット制導入も一因となって、加速度的に広がっていた。ただでさえ馬不足なのに、一部の勝ち組ステイブルばかりに預託が集中する。廃業する厩舎が続き、厩務員などの雇用は不安定化。新規開業する若手調教師も経営を軌道に乗せることが困難になってしまった。厩舎間で「適正な競争」が行われるのは理想の形だ。その結果として敗れる者が出るのは仕方がないが、若く優秀な人材が不平等な立場に追い込まれ、芽を摘まれるとしたら競馬界にとって大きな損失である。去年、平場条件戦について関西馬の関東遠征に歯止めをかけるルール変更が実施されたように、JRAは競争を弱める保護主義的方針へと舵を切り始めている。今回の預託頭数削減も中堅や下位厩舎、言葉は悪いが“負け組”を救済する一環だと考えるべきだろう。

ひとつ、面白いことに角居厩舎のあるスタッフは、経営者である師とは異なった見解をツイッターで開陳している。

親分はJRAへの抵抗としてこういう決断をしましたがJRAはこれを受けて何を思うのか?おそらく何も思わないし何も変わらないでしょう。従業員としては理解し難い決断でしかありません。この選択がいいのか悪いのかは今は分かりません。どうなってしまうか…/ 私には下位厩舎の救済措置とも取れるこの制度、妥当だと思います。JRAは上位厩舎の味方ではありません。組織全体を守って当然です。(@TeamS_T)
調教師の重い決断に異議を唱えたスタッフには少し驚かされたものの、素直に言えば、こうした風通しの良さが角居厩舎の躍進を支えてきたのだろうと感じる。そして、調教師の激しい怒りとは逆に、多少のルール改定くらいでは角居厩舎の優位は動かないだろうとも。なぜなら、「厩舎村」に巣食う旧態依然とした意識や仕組みこそが、トレセン内の格差を生む大きな要因になってきたからだ。いち早く、そこを脱したがゆえに角居厩舎の今の繁栄があるわけで、アドバンテージは当面変わらない。調教師も厩舎の屋台骨を揺るがせない自信があったから、こうした捨て身とも映る大胆な行動が取れたはずだ。

美浦トレセンの長期低迷は労働組合の力が強すぎて改革を進められなかったことにあった。今でも少ないスタッフ数による効率的な運営などにおいて、東は西に遅れをとったままだ。そもそも、厩舎は独立採算制の会社組織であるはずが、従業員の給与さえ調教師は決められず、若手調教師は解散した厩舎から年収の高いベテラン厩務員を引き継ぐことを強いられる。預託料を下げられなければ、上位厩舎から馬を奪う術もない。今回のルール改定は一時的にせよ、過度な預託の集中を和らげ、下位厩舎を潤す効果はあるのかもしれない。しかし、行き詰まった厩舎制度の基盤を抜本から改革することなしには、適正な競争には程遠い現状が続くだろう。逐次、下位厩舎への中途半端な救済策を講じては、角居師のように上位厩舎の反発を招くばかりだ。疲弊し、耐用年数は限界を超えた厩舎制度。5年後、10年後、その姿はいかにあるべきか、すべての関係者にヴィジョンを提示してコンセンサスを得ながら改革を進めることが必要なのだと思う。

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コメント

預託頭数制限をしたところで、成績下位の厩舎が一気に息を吹き返せるだろうか?そもそもどうして成績下位になったのか、その点を度外視している限り、このような付け焼刃的施策が効を奏するとは到底思えない。おそらくは現状とそれほど変わらないままに終わると思う。

(具体的には現在の上位厩舎であぶれた馬は下位ではなく中堅に流れるだろうし、また東西格差も栗東の上位厩舎で預けられないなら中堅または新進の厩舎に預ける方向になると思われ、格差の解消には繋がらない。)

投稿: HAKUMASA | 2013.06.19 04:48

2014/3/8
特別戦4鞍が9頭以下で演じられることに憤りを感じて、この時期の出走頭数の減少事由について調べていてここに辿り着きました。

しっかり文章も読ませて頂きましたが
美浦の過怠を、栗東が補填しているようで、関東人として情けないです。

美浦の労働組合と、育成施設をそもそも改善しないと、特別レースの質すら低下して、気付けば少頭数化して、競馬人気は更に低下してしまう危険性を孕んでいる案件だと思われます。

アホすぎるJRAが救済をするなら根底(トレセン)からという姿勢を持たない限り、美浦のレベルは改善しないと感じました。

競走の質の低下だけでなく、出走頭数の低下に、ファンが離れていくことまで想定内にできない胴元。情けないです。

投稿: WAKA | 2014.03.11 09:19

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