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2013.01.15

降着・失格に新基準 ”着順はそのまま、制裁は騎手へ”
ラフプレーの増加には懸念も

1991年、初めて降着制度が導入されてから22年。「降着・失格のルール」が抜本的に見直され、従来とはまったく異なる新基準のもとで年明けから運用が始まった。些か乱暴に要約すると、ほとんどのケースで降着はなくなり、その代わり騎手に厳罰が課されるようになる。早速、2人の騎手が新たなルールの制裁対象となり、騎乗停止処分がくだされた。まず、何が変わったのか、ポイントを押さえておきたい。これまでは「被害馬の競走能力の発揮に重大な影響を与えた」と判断された場合、加害馬は被害馬の後ろに着順を下げられていた。新ルールでは「走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していた」と判断された場合に限って、 降着処分となると定められた。例えば走行妨害があり、それによって被害馬が大きく減速して敗退したようなケースでは「競走能力の発揮に重大な影響」があったわけだから、旧ルールでは降着とするのが当然だった。しかし、新ルールではそうはならない。被害馬が態勢を立て直して猛追、加害馬にわずかな差まで迫る、といった具体的な状況がなければ順位は変わらないのである。「到達順位を尊重する」のが新ルールの大原則と覚えておかねばならない。一方、変わらないのは「第三の馬との着順着差は判断材料とならない」こと、 つまり被害馬と加害馬の二者の関係しか考慮されない点だ。

先週、騎手が制裁を受けた2件を振り返る。まず、土曜京都の準メイン・寿S。ゴール前、マイネルディーンの伊藤工真は右ムチを入れて追い出した。同馬は大きく外に寄れて、斜め後方にいたカワキタフウジンの進路を狭める結果となった。マイネルディーンは2位、カワキタフウジンは5位入線した。裁決の判定は「降着なし」、「騎手は開催6日間の騎乗停止」。伊藤が馬を矯正することなく右ムチを入れ続けたことが鑑みられたのだろうが、いずれにしても非常に重い部類の処分である。カワキタフウジンが「能力発揮に重大な影響」を受けた可能性はある。だが、脚色はマイネルディーンを上回ることはなかったから、カワキタフウジンが先着していたとは認められず、到達順位の通り確定したのだった。進路がなくなったのだから、脚勢で劣るのは当然と言えば当然である。それでも降着にしないのは「裁決委員が判断できる材料がない」からだ。先着できたかどうか確固として分からないときは「到達順位を尊重する」という論理である。違和感を持つファンもいるかもしれないが、疑わしきは(馬を)罰せず、真っ黒でなければ降着とせず、なのだ。

もう1件は日曜京都の4レース。直線でイスカンダルは鞍上の福永祐一がムチを持ち替えた際、驚いたように外に斜行。2頭の進路に影響を与えた。イスカンダルは4位入線。被害馬はそれぞれ7位、10位で入線した。裁決の判定は「降着なし」、「2日間の騎乗停止」。騎手の過失度合いが軽く、この日数に留まったのだろう。そして、加害馬が先着していたものの、被害馬に脚はなく到達順位は変わらなかった。この事案、審議のランプは点灯しなかった。新ルールでは5位入線までの馬に着順変更がある場合に限って、審議ランプがつくことになっている。馬券に関わる部分は時間をかけて行い、そうでない部分なら速やかな確定を優先させるのだという。イスカンダルは4位入線だったが、審議でないのは降着でないのが明らかだったからだろうか? まだ運用が始まったばかりで不明な部分も多いが、現場やファンの声を聞きながら改善を進めてほしい。今回の抜本的改正は一昨年のジャパンカップ、 1位入線したブエナビスタが降着とされて以降、裁決が厳しい批判に立たされたことが出発点になっている。公正競馬への信頼を失えば、ファン離れを加速させかねないとの憂いがきっかけだ。

グリーンチャンネルやマスコミを通じてJRAは積極的な広報活動を行なっているが、先週の競馬ブックでは改正作業を中心になって進めてきた中村嘉浩公正室長のインタビューが掲載されていた。記事では過去に起きた降着事例について、新ルールでも降着となるのか質問に答えている。 1991年の天皇賞秋、メジロマックイーンのケースはシロだと言う。 「事象の発生がスタートして間もない2コーナーだったという事。そして、6馬身の大差で1位入線している結果から、いずれの被害馬も妨害がなければマックイーンに勝てていたとは言い切れない」のが理由だ。被害馬の1頭、プレジデントシチーは7秒もの大差をつけられて入線したが、もし走行妨害がなかったらメジロマックイーンより先着していたかどうか、 裁決委員には判断材料がない。ゴールから遠ざかるほど因果関係は不明瞭になる。実質、直線以外の走行妨害は降着にできないということだ。 一昨年のジャパンカップも降着にはならないという。「ブエナビスタは1馬身4分の3の差をつけており、かつゴール前の脚いろは優勢で、不利が無くてもローズキングダムが先着していたとは判断できないから」とする。被害馬は妨害行為で怯むなどメンタル面から伸び脚を欠くこともあろうが、もし妨害がなければもっと伸びていたのではなどという想像力は発動されない。妨害後、現実に加害馬より優勢な脚を繰り出さなければ降着は検討もされないわけだ。

被害馬が加害馬をハナ差まで追い詰めても降着にならないケースもある。去年のジャパンカップ、ジェンティルドンナの岩田康誠は強引な進路取りでオルフェーヴルに接触。激しい叩き合いの末、3歳牝馬に軍配は上がった。降着にはならなかったが、岩田は2日間の騎乗停止処分を受けた。オルフェーヴルは急減速なく、ジョッキーも大きくバランスを崩すなどしなかったため、旧ルール「能力発揮に重大な影響」はないとされたからだ。では、新ルールではどうか。中村室長は 「オルフェーヴルは勝てたのか?という観点から見ると、受けた影響度を考慮しても 『勝っていた』とは言い切れません」と降着はないとする。 ゴールまでオルフェーヴルはわずかずつジェンティルドンナとの差をつめているように思うが、 明確に先着したといえるほど脚色の違いではないということか。こうした事例を鑑みると「降着」の印籠が懐から取り出されるのは、かなり少なくなることが分かる。年間30件から40件あったうち、降着に該当するのは1割程度になるとJRAは見ている。3000レースで3件なら0.1%。降着を目の前で拝むほうが、WIN5を的中させるより難しいかもしれない。

そうなると必然、心配になるのがラフプレーの増加だ。この点、JRAは「騎手への制裁を今まで以上に厳しくする」ことでラフプレーや不注意騎乗を抑制する意向だ。前述した伊藤の騎乗停止6日間は重すぎるのではないかと感じたが、JRAが新ルールの運用方針を敢えて示したとも受け取れる。だが、見方を変えれば、騎乗停止と引き換えにラフプレーが許されるともとれるわけで、G1などビッグレースになるほど強引な手綱が増えることにならないか。賞金の低いレースでも、勝ち鞍の少ない騎手はリスクをとるだろう。また、騎手は本心では危ない騎乗はしたくなくとも、調教師や馬主のプレッシャーを感じずにいられないはずだ。馬主の寡占化が進み、ジョッキーの立場が弱まっている昨今、騎手への制裁を強めることがラフプレーの絶対的な歯止めになるかは疑問が残る。新ルールでは「失格処分」も極めて悪質な行為に限定し、JRAは過去の失格事例は新ルールでは1件も失格にはならないと明言している。失格制度の事実上撤廃で、ラフプレーと競走成績の相関関係は一層小さくなる。

去年のジャパンカップ、岩田の騎乗について関係者、マスコミ、ファン、いずれも容認、賛美する意見が多かった。ノーザンファームの吉田勝己社長は「これが失格になったら競馬にならないよ」(栗山求ブログ)とコメントし、吉田照哉や岡田繁幸も積極的に肯定する発言をグリーンチャンネル内でしていた。確かにジャパンカップのラフプレーは進路を横切るような事故に直結するものでなく、互いに馬体をぶつけ合うナイスファイトであったかもしれない。しかし、私が懸念するのは新ルールで降着・失格がほとんど皆無になる状況のもと、 ラフプレーが社台グループのような大オーナーから称賛されることで、結果的にジョッキーが危険な騎乗を強いられはしないかということだ。競馬は格闘技ではない。福永洋一、石山繁、常石勝義らは落馬事故で再起不能になり、岡潤一郎、玉ノ井健志、竹本貴志は還らぬ人となった。事故を引き起こすことだけはないよう、JRAや関係者には心を砕いてもらいたい。新ルールはイギリスやアイルランド、ドバイなどの主要国の規則に近く、「着順はそのまま、制裁は騎手へ」という基準はファンも理解しやすいだろう。それだけに以前にも増して審議過程の透明性、競走の安全性確保に努めながら、ルールの浸透を図ってもらいたいと願う次第である。

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コメント

もし社台などの大オーナーがラフプレーを賛美しない全うな性格なら、スミヨンが再び来日する事は無かったでしょうね。
いずれ大きな事故が起こりますよ。

投稿:   | 2013.01.15 17:01

つうか中央競馬が特別フェアプレイにうるさいだけでしょう

欧州の凱旋門賞とかなんか接触しない方がおかしいくらい
ぶつかりあってるじゃないですか

メイショウサムソンの武豊なんかそれでもまれまくって全然競馬できなくて

ナカヤマフェスタの蛯名は押し返して2着

多少野獣のようにならんと世界に通じる騎手なんか日本にゃ生まれんでしょうね

投稿: もん | 2013.01.15 23:37

昨年のJCの件は欧州ならアウトになってることが多いと武豊。欧州は当たりが激しいけど騎手もそれなりの制裁受けてるのかな。それに近くなったということでしょうか。

投稿: ステイビー | 2013.01.16 06:29

1月20日(日)中山競馬場11RアメリカJCCの裁決について
新しい降着制度がスタートとのことですが、1着のダノンバラードのゴール前の斜行妨害はひどかったですね。
ゴール近くで5枠の2頭と競っていたんですから。正面のパトロールフィルムでも行き場を失った2頭、どこが公正競馬なんだ。ファンをばかにするな。1着馬をゲシュタルトの下に
降着するのが当然です。これが新ルール? もう馬券はかえなくなるぜ。
ファイナルフォームのインチキ裁定から全然進歩がないね。
いいかげんにしろJRA//

投稿: ヒデ | 2013.01.20 17:09

>みなさま
コメントありがとうございます。
早速、AJCCの判定では新基準が波紋を呼んでいますね。
このルールが日本のファンに馴染むかどうか、しばらく見守りたいです。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2013.01.20 21:07

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