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2012年1月の13件の記事

2012.01.30

”クラブ馬は応援する気になれない” に想う
ぼくたちはオルフェーヴルの一口馬主になり得たか?

「関内関外日記」という、はてな界隈では著名なブログがある。独特の文体と深い洞察力に裏打ちされた記事の数々は多くの読者を引きつけてやまない。先日、そこに「おれが競馬をやめる3つの理由」と題されたエントリーが掲載され、競馬ファンの間でちょっとした話題を呼んだ。著者は長年続けてきた競馬から離れることを決意。その理由として、個人的な家計状況、社台グループの寡占が進んで 「競馬がやり込み過ぎた競馬ゲームに見える」こと、「クラブ馬を応援する気になれない」ことをあげている。どれも興味深いもので、それぞれが重なる領域もあるが、ここでは「クラブ馬」にこだわって考えてみたい。

これはもう、まったくまっ黒い嫉妬の感情なのですが、一口馬主さんたちのクラブ馬というものに、まったく思い入れが抱けないのです。むしろ、面白くない、というところ まで来てしまっています。説明するまでもなく、今の競馬といえば社台グループなんかのクラブ馬全盛といっていいわけで、これが毎度毎度おおきなところを勝つのを見せつけられるわけです。そして、たとえ良いレースだと思っても、馬券を獲ったとしても、拍手を送りたくない自分がいる。 (関内関外日記より)

クラブ馬主の隆盛はファンの裾野を広げ、競馬人気を取り戻すことになると、当たり前のように言われてきた。一方、「一口馬主」にまったく興味のない層、とりわけ寺山的に1頭の馬に感情移入して自己を重ねる、といった楽しみ方をするファンにとっては面白いことばかりではなかったかもしれない。一口クラブの伸長は相対的に馬主の地位を下げることにつながる。彼らにはメジロ、シンボリ、ニシノ、サクラなど、個性溢れるオーナーが鎬を削っていた時代こそ、豊かなあるべき競馬界に見えているのではないか。だが、誤解してはならないのはクラブ馬主が盛んになったから個人馬主が勝てなくなったわけではないということ。順序は逆だ。日本経済の停滞は馬主の体力を奪い、馬産地を厳しい状況に追いやった。そうしたなか、真っ当な改革を進めて生き残ったのが社台グループであり、個人馬主の購買力が落ちたがゆえに、その巨人はクラブ馬主に力を入れざるを得なくなった。黙っていても馬主が牧場に来て金を置いていってくれるなら、面倒なクラブ運営に大々的に手を出す必然性はなかったのだ。

関内関外日記では「象徴的だったのはオルフェーヴル」だったとし、「しょせん、誰かの馬じゃん」 「オーナーブリーダーであるとか、そういった誰かの馬であることと、一口馬主の馬であるということは大いに違う」と感じたそうだ。オルフェーヴルを所有するのはノーザンファーム系列のサンデーサラブレッドクラブ。創立は古く1988年。当時は日本ダイナースクラブと結び、代表馬はレッツゴーターキンやウィッシュドリームぐらいだった。だが、2000年にサンデーレーシングを設立して自前の組織で運営するようになると、その4年後には本家社台レースホースを勝ち鞍で上回り、以後は急速なレベルアップを遂げて次々とGⅠ馬を出すようになった。勝負服も「黒・赤十字襷・袖黄縦縞」に刷新されたから、ファンにとっては突然、強大なクラブ馬主が出現したように見えたのではないか。ブエナビスタ、アンライバルド、ヴァーミリアン、デルタブルース、 ローズキングダム、ドリームジャーニー、スリープレスナイトなど活躍馬はあげればきりがない。「今の競馬といえば社台グループなんかのクラブ馬全盛」と感じさせるのは、ひとえにサンデーレーシングの躍進によると断じても過言ではない。

不思議なのは早くから先行して展開してきた社台レースホースに対しては、そうした批判は起きなかったこと。ダイナガリバー、ギャロップダイナ、サッカーボーイなどの所属馬を 「しょせん、誰かの馬じゃん」と口にする者はなく、むしろ、雑誌や単行本ではファンに愛されるアイドルホースとして繰り返し取り上げられた存在だった。ここ10年でも、ジェニュイン、ザッツザプレンティ、ネオユニヴァース、テレグノシス、キャプテントゥーレ、ダンスインザムード、マルセリーナといったGⅠホースがいるが、「一口馬」のイメージはさほど強烈でない。それもそのはず。一口といえども、1頭の口数はわずか40。社台ではリーズナブルな3000万円の馬に出資するのにも75万円が入り用になる。それに維持費が年間30万円。平均的なサラリーマンには手が出せない。実はシンボリルドルフもシンボリ牧場が経営するクラブの所属馬だった。こうした高額なクラブの馬たちは「一口馬」と身近に引き寄せられるものではなかった。ファンもそれは重々承知していた。

サンデーレーシングも社台RHとシステムは変わらない。年明けのAJCCを制したルーラーシップなど募集価格1億8000万円。一口の価格は450万円だ。ちなみに兄のサムライハートは一口550万円で募集されたが、1000万特別を勝つのが精一杯で引退している。では、虎の子の貯金を叩けば誰でもルーラーシップを買えるのかというと、そうは問屋がおろさない。良血馬はあっという間に満口になってしまうため、それまでの実績ある会員に枠は優先的に割り振られる。つまり、希望する馬に出資するためには、何年もかけて人気のあまりない馬に投資して「功徳」を積まねばならないのである。そうして、ようやく出資できたのがサムライハートだったりするわけだ。ステイゴールド産駒のオルフェーヴルはリーズナブルな一口150万円だったが、こうした当たりを引くにまでには数を打ち続ける十分な「弾」が欠かせない。にも関わらず「サンデーレーシング=手軽に参加できる一口馬主」 なる誤解が流布しているのは2000年代、ちょうど同じ時期に人口に膾炙してきた社台系の大衆向けクラブ(口数が10倍で低価格のキャロットクラブなど)と混同されてしまったからではないか。サンデーレーシングの吉田俊介代表は下記のように述べている。

「クラブの会員の中には個人で競走馬を所有されている方もいますし、その一方でクラブの会員だった方が、馬主としての流れをここで掴み、自分の勝負服で競馬をさせたいとの理由で、セレクトセールで競走馬を購入されたこともあります」 (優駿 2011.7)

現在、サンデーレーシングの会員数は1万人を超えるというから、裕福な人々ではあるにせよ経済状況は様々に違いない。ただ、クラブがもっとも大事にしたい顧客とは馬を1頭買って本物の馬主になってくれるような潜在層だろう。三冠馬を手に入れられたのは、そうした1万人のなかの40人である。俺もちょっと小金があったらオルフェーヴルで大儲けできたのに、などというのは誇大妄想にすぎる。社台RHやサンデーレーシングの提供馬と、キャロットやレッドの募集馬を同じく「一口馬」と括るべきではない。厳密に分けて捉えたほうがいい。

どこか遠く離れた存在である個人馬主ではなく、ひょっとしたらそこのスタンドでサンデーレーシングの勝負服のレプリカシャツ着たやつが、オルフェーヴルならオルフェーヴルを一口持っているかもしれない/ たとえば自分が大学を辞めないで卒業して、それなりの就職でもしていたら成りえたかもしれないレベルの人間が、一口持っているかも知れない、ということです。そこにはなにか目を背けたくなるものがあるわけです。(関内関外日記)

果たしてそうだろか? 我が身を鑑みれば、運良く今より倍の給料がもらえる会社にいたとしてもオルフェーヴルの出資者にはなれていないと思う。嫉妬心は自分が同レベルだと見做す対象にしか沸かないもの。そういう意味ではアラブの石油王に対するのと同様、サンデーレーシングの上層会員を妬む気持ちにはならないのだ。身も蓋もない結論と言われそうだが、オルフェーヴルは庶民に手の届かない馬。目を背ける対象ではない。また逆説的になるが、大衆向けクラブがクラシックを席巻するようになったとしても嘆くに当たらない。私もキャロット会員だが、クラブ馬の真のオーナーは吉田勝己だ。 「レプリカシャツ着たやつ」は400分の1の金を差し出し、馬主気分を味わっているに過ぎない。馬主の権利は何ひとつないのだから、他人も存分にクラブ馬を応援すればよいのだ。やはり個人馬主の減少に悩むアメリカでは大衆向けクラブを真似た法人を設立する動きがある。広く薄く競馬産業を支える仕組みとしてクラブ馬主は優れているし、すべて個人馬主が負担できる時代でもなくなった。だから、あなたがオルフェーヴルを見て競馬から離れようとしているなら、どうか考え直してほしい。競馬を捨つるほどの嫉妬心はありやと。

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2012.01.29

根岸S&京都牝馬S予想 2012

根岸Sの過去のレース結果をみると、最初に気づくことがある。単純なことだが、前走1着だった馬が強いということ。最近3年は連対馬6頭はすべて前走で勝って根岸Sに臨んでおり、過去10年まで対象を広げても20頭中13頭が前走勝ち馬だった。寒い冬場は一度、叩いたぐらいで調子を変えることが難しく、好調さを維持するほうが容易だということかもしれない。 とりわけ、ダート馬のほうが傾向は顕著のようだ。本命は前走、ギャラクシーSを快勝したヒラボクワイルド。6番手から突き抜けて後続を2馬身半、突き放す見事な内容だった。折り合いが課題とされてきただけに、距離短縮で流れに乗れたのが勝因と言えよう。 今回も同じ1400メートル戦、東京での勝ち鞍もあってコース替りに不安はない。もちろんデキはキープしているようだ。相手は実績上位のダノンカモンだが、調教の動きが今一歩だったのが懸念材料。単穴には東京大賞典で3着に粘ったテスタマッタ。速い流れに対応できれば、フェブラリーS2着のあるコースで一発ある。なお、このレースは4、5枠に入った馬が好成績なのも覚えておきたい。

◎ヒラボクワイルド ○ダノンカモン ▲テスタマッタ
△シルクフォーチュン、セイクリムズン、トウショウカズン、サクラシャイニー

競馬最強の法則に日夏ユタカ氏が連載している「大穴必中大作戦」によれば、京都牝馬Sは「社台牝馬S」と呼べるほど社台グループの生産馬が強いレースだそうだ。確かに過去5年、3勝2着1回とノーザンファームは圧倒的な良績を残しており、社台ファーム産馬も4連対している。今年、期待が持てそうなのが2番人気に支持されているドナウブルーだ。 データ的には過去10年、連対のない1000万条件からのステップだが、昨春は牡馬相手に重賞で差のない競馬をしていた素質馬。裸同然の52キロなら、格負けはあるまい。前走の条件戦は積極的に前へ行く競馬で、ゴールでは後続に3馬身つける楽勝だった。勢いある4歳、瞬発力勝負にも不安なく、京都牝馬Sを飛躍の端緒とする 一戦にしたいところ。対抗はレディアルバローザ。中山牝馬Sを勝ち、ヴィクトリアマイル3着、朝日CC3着がある。 前走のエリザベス女王杯は荒れた馬場にバランスを崩したのが敗因で参考外だ。単穴も4歳馬から。ビッグスマイルを推す。ローズSではドナウブルーに先着している。マイル戦も合うはず。

◎ドナウブルー ○レディアルバローザ ▲ビッグスマイル
△コスモネモシン、アスカトップレディ、エーシンリターンズ

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2012.01.28

川崎記念快勝 交流重賞19勝目のスマートファルコン
究極の”外弁慶”は遂にドバイへ挑む

25日、単勝1.1倍に支持された川崎記念を快勝したスマートファルコン。楽にハナを奪うと3コーナーから一気に加速し、後続に影を踏ませることなく、2着のランフォルセに4馬身差をつけて逃げきった。まったく危なげない勝利であった。しかも、時計の出る不良馬場だったとはいえ、2年前にヴァーミリアンがつくったレコードを2秒更新する驚異的なタイム。レース後、「この馬の実力はすでに世界クラス」(netkeiba)と鞍上の武豊が語ったのも、あながちリップサービスばかりとは言えまい。暮れの東京大賞典ではワンダーアキュートにハナ差まで迫られ、どちらが勝っても不思議ではない辛勝だった。この一戦から年齢による能力の衰えがあるのではないかと囁かれていたが川崎記念はきっちりと調教を積んで臨み、不安を呈する外野の声を黙らせてしまった。これで一昨年のJBCクラシック以来、9連勝を達成。何と交流重賞は通算19勝目というから凄い。内弁慶という言葉はあるが、この馬は差し詰め「外弁慶」と呼ぶべきか。

スマートファルコンは中央馬でありながら、徹底して地方のレースにこだわったローテーションを組んできた。最後に中央のレースに出走したのは2008年8月、小倉競馬場のKBC杯である。それ以降、金沢の白山大賞典を皮切りにして、園田、佐賀、浦和、名古屋、盛岡、門別、大井、船橋、川崎と、24戦すべて地方競馬場を回っている。去年の帝王賞からはGⅠを中心に使われているが、それまではGⅡ、GⅢと交流重賞でも格下のレースを選んでいた。つまり、勝てるレースで賞金を稼ぎ、競走生活を短くするような消耗の激しいレースは避けようという、名より実を取る戦略を忠実に守ってきたのだ。ダート馬の評価が低いなかにあっては種牡馬としての価値は期待できず、現役生活で稼げるだけ稼ぐのは馬主経済にとっては理にかなっている。獲得賞金は中央では6048万円しかないが、地方では8億円にもなる。 トータルでは有馬記念や宝塚記念を勝ったドリームジャーニーを上回る額だ。

一方で陣営への批判がなかったわけではない。砂が深い地方競馬場ばかりに引きこもり、 フェブラリーSやジャパンカップダートをはじめ、中央のレースから逃げているのは”卑怯者”だというのだ。勝負付けの済んだ相手に圧勝しても、ファンにしてみればレースの面白味がない。もっと強いライバルとぶつかって、名勝負を見せてほしいと思うのは当然だろう。去年、人々はダート王者に登りつめたトランセンドとの世紀の一戦を待ち焦がれた。3月、トランセンドは果敢にドバイワールドカップに挑んで2着。大きな賞賛を浴びた。かたやスマートファルコンも一昨年の東京大賞典をレコード勝ちしてピークを迎え、6月の帝王賞ではエスポワールシチーを9馬身ちぎり捨てていた。私は両馬の対戦は10月の南部杯で実現するのではないかと思っていた。復興支援のため府中で開催されることになった南部杯を盛り上げることは、地方競馬に恩返しすることにもなるからだ。しかし、それは願望で終わった。 あくまで陣営はドライに秋初戦を船橋の日本テレビ盃に定めた。

本格化なって初めての顔合わせは11月、大井のJBCクラシックで叶った。南部杯を勝ったトランセンドはジャパンカップダートに直行せず、わざわざ地方に乗り込んできた。 敵が来ないのならばこちらから出向く、トランセンド陣営の気概だった。 レースはトランセンドが2番手につけて、ハナを切ったスマートファルコンに競りかけはしなかった。せっかく控える競馬を覚えたトランセンドに無理な競馬をさせたくなかったのかもしれないし、休養明けの南部杯で激しいレースをして疲労が残っていたのかもしれない。ともあれ、一騎打ちは自分の競馬をしたスマートファルコンが中央ダート王を退けてチャンピオンに輝いた。 だが、万人が勝負あったと納得したわけではなかったようだ。JRA賞の最優秀ダートホース部門、トランセンドは271票が投じられたのに、スマートファルコンはわずか13票しか得られなかった。トランセンドにはドバイでの活躍があったり、中央のレースしか対象にすべきでないと考える記者が多かったのは確かだろうが、それにしても票差はあまりに開いていた。

スマートファルコンはNARグランプリでダートグレード競走特別賞を受賞した。地方所属ではない同馬に年度代表馬の資格はなく、選出されたのはフリオーソだった。中央所属馬として最多勝記録の21勝(次位はヤマブキオーの20勝)、最多重賞勝利記録の19勝(次位はホクトベガ、ヴァーミリアンの13勝)という歴史的な偉業を達成しながら、JRA賞は授与されないのが現段階の評価である。とはいえ、主戦の武豊、管理する小崎憲調教師も、このまま地方専用馬に留めておくつもりはないようだ。去年は体調が整わないとして回避したドバイワールドカップだが、今年は「馬はいつものレース後の感じと変わらないですよ。 あとは選ばれるのを待つだけ」(スポニチ)と小崎師から威勢のいい言葉が聞こえ、来週には現地視察に赴くことにもなっている。ドバイは去年から芝とダートの中間とされるオールウェザーが導入され、深い砂ばかり走ってきたスマートファルコンには不利な条件に違いない。逆にだからこそ結果を出せば評価は一変し、種牡馬への手形は約束されよう。 中央には姿を現さないスマートファルコン、究極の外弁慶ぶりをドバイで発揮してほしい。

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2012.01.24

【訃報】ミホノブルボンで二冠 小島貞博調教師が自殺
「馬づくりは人づくり」戸山イズムを受け継ぎ

小島は寡黙な男で多くは語らないが、不遇な少年時代をすごし、中学を卒業して私のもとにきた。それ以来ずっと戸山厩舎の専属騎手として、というよりも家族の一員のようにして苦楽をともにしてきた。走る馬にも乗ったが、どちらかといえば走らない馬のほうが多かったろう。その小島に、ダービーの栄冠をとらせてやりたかった。 (戸山為夫 『鍛えて最強馬をつくる』 より)

ジョッキーとして日本ダービー2勝、中山大障害2勝。その他、皐月賞、オークスなどの大レースを制した小島貞博調教師が23日、搬送された栗東市内の病院で死亡した。 報道によれば、厩舎の2階で自殺を図ったものとみられている。享年60。定年まで10年を余し、まだ志半ばであったろう。 ”小島貞”と聞いて、多くの人々が思い出すのはミホノブルボンとのクラシックロードではないか。 750万円の安馬で血統も芳しくないミホノブルボンだったが、入厩した頃から心肺機能は抜きん出ていた。小島が所属していた戸山為夫厩舎は坂路を用いたスパルタ式のインターバルトレーニングを課すことで知られていた。戸山はミホノブルボンを自ら信じる手法で徹底的に鍛えあげた。そして迎えたデビュー戦、舞台は中京の1000メートル。鞍上は小島だった。スタートでミホノブルボンは出遅れてしまう。スプリント戦では挽回不能な不利である。ところが、 直線を向くや上がり33秒1の脚を繰り出して豪快な差し切り勝ち。しかも、タイムはコースレコードだったから人々は驚いた。ここから戸山、小島の師弟とミホノブルボンの戦いが始まった。

平場の500万を快勝し、駒を進めた朝日杯は圧倒的な1番人気に支持された。結果はヤマニンミラクルにハナ差先着する辛勝。小島は競馬を覚えさせようと2番手に控えたが、道中はミホノブルボンと喧嘩する形になってスタミナをロスしたのが原因だった。父母ともに短距離血統ということもあり、マスコミからは早々に早熟のスプリンター、クラシックでは用なしと烙印を押されてしまった。だが、この朝日杯は戸山と小島に覚悟を決めさせることになった。前に馬を置けば引っ掛かる。ならば、最大の武器であるスピードを活かすにはハナを切るしかない。そのためにバテないだけのスタミナは調教でつけようと。春初戦、重馬場で行われたスプリングS。ミホノブルボンは 一度も先頭を譲ることなく7馬身差の圧勝。皐月賞はナリタタイセイを2馬身半、ダービーはライスシャワーを4馬身突き放し、クラシック二冠を逃げきりで制した。ミホノブルボンは「サラブレッドは血で走らない。鍛えてこそ強くなる」(別冊宝島騎手名鑑) という戸山イズムを体現したのだった。

シンボリルドルフ以来の三冠馬となることをかけて菊に挑んだ秋。 距離不安を煽る外野の声はいっそう喧しく、小島へのプレッシャーも日増しに高まっていた。さらに菊花賞に参戦するキョウエイボーガンが何が何でも逃げると宣言したため、どんな競馬をするのかジョッキーの手綱さばきが最大の焦点になった。逡巡する小島に戸山は指示を出す。ミホノブルボンのペースを守れと。秋初戦、2200メートルの京都新聞杯をレコードで逃げ切っていたミホノブルボン。タイムは2分12秒フラットと、1ハロンあたり12秒のラップを刻んでいた。同じように3000メートルの菊花賞も本来のスピードを殺すことなく、ハロン12秒を維持すれば後続はついてこれない。それでゴール前は歩くようにバテても、リードを守り切れるだろうというのが戸山の考えだった。本番、猛然と先手をとったキョウエイボーガンを見て、小島は2番手につける。中盤、ペースが落ち着つく。しかし、小島はハナを奪い返すことはせず一緒にラップを緩めた。13秒台が連続する普通の菊花賞だ。最後の直線は一杯になり、生粋のステイヤー、ライスシャワーに差されて2着。それでも脚があがりながらマチカネタンホイザを抜かせまいとする様子は感動的でさえあった。

競馬にタラレバはナンセンスだし、戸山の指示通りに乗っていたとしても惨敗を喫していたかもしれない。小島は言い訳めいたことは一切しなかったが、敬愛する師匠の指示に背いたのは、実直を絵に描いたような小島ならではの責任感がさせたように私には思えてならなかった。GⅠの1番人気馬でリスクの大きな賭けに出ることは、馬券を買ったファンを裏切ることになる。最低、連対は確保しなければならないと。これがミホノブルボンの最後のレースになった。そして、栄光のダービーからちょうど1年、戸山が以前から患っていた食道癌のため急逝し、厩舎は解散する。戸山は「馬づくりは人づくり」という信念を持っており、管理馬には小島、小谷内ら所属騎手しか乗せない姿勢を貫いていた。かたや戸山厩舎の調教助手から調教師になり、管理馬を引き継いだ森秀行は師と正反対にビジネスライクに徹するのがポリシーだった。騎手は有名どころを重宝した。小島は乗り鞍を失って成績は急下降していく。そうしたなか、かつて先輩騎手だった鶴留明雄師が手を差し伸べ、小島はチョウカイキャロルでオークスを、タヤスツヨシでダービーを勝つ。ムチを置いたのはその6年後。30年間の騎手生活で495勝は決して多いものではないが、真摯な人柄が共鳴する人々を援引し、競馬史に燦然と輝く記録を残したと言えるのではなかろうか。

2003年、技術調教師を経て栗東で開業した小島。3年目にはテイエムチュラサンがアイビスサマーダッシュを勝ち初重賞制覇、その暮れにはテイエムドラゴンが中山大障害を勝利した。主戦騎手には娘婿の田嶋翔を据えて、人を育てる戸山イズムを実践してもいた。小島こそ戸山の考えを継ぐ者であった。そうした姿が信頼を勝ち得たのだろう。テイエムのほか、メイショウ、シゲル、ヤマカツといった大馬主から預託を受けた。去年の勝ち鞍は14勝と、全国リーディングでは真ん中あたりの成績だ。騎手時代と同じく、地味ではあるが堅実に歩を進めているように見えていた。それがなぜ自ら命を絶つまで追い込まれたのか。「調教師免許更新の面接を前にして、厩舎経営について悩んでいた」(スポニチ)とも報じられるが、現時点では詳しいことは明らかになってはいない。ただ今はミホノブルボンとのコンビに胸を高鳴らせた一ファンとして、静かに手を合わせるのみである。小島と戸山、ミホノブルボンが紡いだ物語はほとんどの騎手がフリーとなり、一部のジョッキーに有力馬が集中する時代には再来しないだろう。 ゆえに私たちは馬上で桃色の勝負服に身を包み、真っ直ぐに右手を掲げた小島の姿を思い浮かべながら、あの挑戦をいつまでも懐かしむのである。

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2012.01.22

地方競馬 払戻率引き下げは経営安定をもたらすか?

今月招集される通常国会で競輪、オートレース、地方競馬の3つの公営競技について、払い戻し率を現行の75%から70%まで引き下げることを可能にする法案が提出されることになった。売り上げ低迷に苦しむ公営競技の経営を改善するのが狙いだ。大雑把に言うと、今は売り上げの75%が的中者への払い戻しに当てられ、残りの25%が賞金や経費など主催者の取り分になっている。これを払い戻しを70%に抑え、主催者が30%まで得られるようにしようというのだ。例えば笠松競馬の場合、「1%の引き下げで約1億円の増収が見込まれる」(岐阜新聞)との試算もある。仮に下限の70%に設定して年間5億円多い利益が出ることになれば、経営は非常に安定しよう。その分、切り下げの続いてきたレース賞金を上積みして、そうなれば質の高い馬が戻ってきてエキサイティングな番組を組めるかもしれない。笠松競馬ならオグリキャップ記念を再び交流重賞へと格上げするチャンスも生まれてこよう。岐阜県の古田肇知事は「笠松競馬存続に向けた命綱となりうる」(同)と強く制度改正を主張している。監督官庁の農林水産省も後押しする姿勢を示したという。

一方、こうした動きを不安視する声もある。払い戻し率の引き下げでオッズは下がり、ファンが得られる額は少なくなる。たかだか5%、当たれば誰も気に留めない。確かに750円でも700円でも的中の喜びに大きな差はない。しかし、地方競馬はオッズが低い、当たっても儲からないと人々の心理に広く浸透してしまうことで、中長期的にファン離れを引き起こす可能性は否定できまい。あるビギナーに、地方と中央、どちらで馬券を買ってみたいか問うたら後者を選ぶのではないか。また高額購入者によっては、より中央の馬券を買う比率を高める選択をするかもしれない。 さらに地方競馬同士がシェアを争う場面も想定される。法案では払い戻し率を一律70%に固定するのではなく、75%までの間で主催者が自由に設定できることになるようだ。とすれば、笠松や高知が70%にしても、比較的余裕ある南関東は75%に据え置く ことも考えられる。結果、払い戻し率を下げた競馬場は固定客を持っていかれ、売り上げを大きく減らすリスクがあるのだ。馬券販売にどれだけ影響があるのか、メリットはデメリットを上回るのか、半年や一年で見極められるものではない。今後、法案が可決されたとしても、 それぞれの地方競馬は難しい判断を迫られることになりそうだ。

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2012.01.21

AJCC(アメリカジョッキークラブカップ)予想 2012

先週の日経新春杯は力通り、有馬記念3着のトゥザグローリーが人気に応えた。今週のAJCCも有馬記念4着から参戦するルーラーシップに死角はなさそうだ。その前走は後方で溜めていた脚を爆発させて上がり33秒2。勝ち馬オルフェーヴルを上回った。一昨年の有馬記念もヴィクトワールピサとコンマ4秒差に好走しているように、勝ち鞍のない中山コースだからと評価を下げる理由にはならない。不良馬場の金鯱賞では出遅れながらマクって楽勝したこともあったが、今回も持続力を活かすロングスパートに打って出るのではなかろうか。土曜の東雲賞を快勝したサトノシュレンが良いお手本になる。対抗はゲシュタルト。しばらく長い距離ばかり使われて負け続けてきたが、昨秋から中距離に戻して成績が安定した。オールカマーぐらいの競馬ができれば連対圏内。単穴にリッツィースター。前走は準オープンだが、ジャパンカップ4着のトレイルブレイザーを撃破している。軌道に乗った騙馬は買いだ。

◎ルーラーシップ ○ゲシュタルト ▲リッツィースター
△トーセンレーヴ、ナカヤマナイト、ネヴァブション

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2012.01.17

書評「消えた天才騎手」 馬事文化賞に相応しい力作

2011年度、JRAは馬事文化賞に 「消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡」 を記した島田明宏氏を選んだ。前田長吉は太平洋戦争中の1942年にデビューし、翌年、牝馬クリフジを操って日本ダービーを制した伝説の騎手だ。当時、戦火が激しさを増すなか競馬は開催中止となり、前田も1944年秋に召集されて満州へと出征。二度と故郷の地を踏むことなく、23歳の若さで生涯を終えた。ジョッキーとして活躍した期間は正味2年しかない。残された資料は少なく、何処でどう最期を迎えたのかさえ正確には分からずにいた。前田に関心を持って消息を訪ね歩いた大川慶次郎も、遺族にすら行き着かなかったという。ところが2006年、厚生労働省による戦没者遺骨の収集事業で、前田がシベリアに抑留されて亡くなっていたことが判明する。遺骨は八戸の生家に暮らす親族のもとへ返還されることになった。本書は前田の遺族やわずかに現存する足跡を丹念に辿り、謎に包まれていた最年少ダービージョッキーの全身像を明らかにしたノンフィクションである。

競馬は戦争と切っても切れない関係にある。軍需資源であった「馬匹」の改良は兵器の性能向上と同じく、富国強兵をめざす国家に不可欠なものであった。優れた種馬と牝馬を選定し、さらに優秀な仔を誕生させる。そのためには競馬を振興することが最善の道であり、財源を確保するには馬券を発売するのが効率的であるとされたのだった。青森の農家に生まれた前田がどう人生を選択して上京し、見習い騎手の身でクリフジの手綱を取るに至ったか、本書は時を追って紐解いていく。前田が所属したのは名門・尾形藤吉厩舎。「大尾形」と称され、通算1670勝をあげた日本競馬の礎を築いた調教師だ。本来ならクリフジの主戦騎手だったかもしれない厩舎の兄弟子たちは次々と戦地へ赴いていった。そのなかには戦後、復員してトップジョキーとなった保田隆芳もいた。大卒の初任給が60円だった時節に4万円の高値で落札されたクリフジが回ってきたのは、前田の新人離れした技術もさることながら、戦争による騎手不足も背景にあったのだ。

本書を読み進めると前田の数奇な運命に引き込まれていくが、決して個人的なヒストリーをなぞっているだけではないことに気づく。国民が悲惨な戦いの渦に巻き込まれ日本競馬が消滅することさえ危ぶまれた時代に、読者を向き合わせてくれるのだ。一度、国家の非常事態が起きれば、競馬は真っ先に立ち行かなくなる産業の一つに違いない。多くの時間と労力を投じなければ、何千頭ものサラブレッドを生産、育成し、競馬場で競わせることはできない。去年の東日本大震災で私たちはその一端を垣間見たはずだ。だからこそ、膨大なリソースを費やして生み出された1頭の最強馬は芸術品であり、競馬は文化なのだと断言できる。そして、戦中、戦後と競馬を守り続けた先人の努力がなければ、今の繁栄はなかったことは言うまでもない。言うまでもないが、ともすれば忘れがちな事実を、改めて想起させるのが本書が高く評価された所以でないか。いかに現在の中央競馬が恵まれた環境にあるのか、若い騎手を始めとする関係者にも読んでもらいたい。折しも今年は近代競馬150周年にあたり、大掛かりなプロモーションが展開されている。歴史が個人史の重なりであるならば、さしずめ競馬史はホースマンの生き様が輻輳した産物である。前田長吉という欠けていた大きなピースを埋め、あわせて苦難の競馬史を描ききった本書は馬事文化賞の名に相応しい。

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2012.01.15

日経新春杯予想 2011

過去10年、トップハンデは苦戦、2番人気馬が4勝という データを鑑みれば、スマートロビンから素直に買うべきかもしれない。ただ、2年連続で有馬記念を3着と好走し、得意の冬場に勢いをかって出てくるトゥザグローリーをどうしてもアタマにしてみたくなる。ハンデは58.5キロ。決して軽くはないが530キロの馬格ある同馬ならば影響は少なくて済む。去年の日経賞は58キロを背負って、ペルーサやローズキングダムを負かしてもいる。人気馬から入る分、相手は捻ろう。菊花賞3着の実績あるビートブラック。3前走の京都大賞典では33秒2の上がりを繰り出しており、スローが予想される今回は一発気配漂う。穴にはスマートギアを推す。長期休養から復帰3戦目で、鞍上は土曜3勝と片目が開いた武豊。過去には同条件の京都大賞典2着もある。

◎トゥザグローリー ○ビートブラック ▲スマートギア
△ダノンバラード、ナムラクレセント、スマートロビン、マカニビスティー

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2012.01.14

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2012.01.09

”岩手の怪物”は色褪せず きょうトウケイニセイ記念

きょう(9日)は今年度の岩手競馬を締めくくる トウケイニセイ記念が行われる。3月の地震で施設に大きな被害を受け、一時は再開は難しいと見られていた水沢競馬場。 だが、関係者の懸命な復旧作業とNARなどからの財政支援もあって、先月10日に開幕することができた。そして数々の試練を乗り越えて、例年通り、最後の大一番であるトウケイニセイ記念を迎えることになった。トウケイニセイは43戦39勝という驚異的な成績を残し、岩手の怪物と名声を轟かせた馬。父のトウケイホープも岩手で大活躍した東北に縁深い血統である。脚元に屈腱炎という爆弾を抱えていたため他場に遠征する機会はほとんどなかったが、地元の交流レースに挑んできた中央の準オープン馬を大差でちぎるなど、その強さは底知れないものだった。トウケイニセイが初めて中央のトップレベルと相まみえることになったのは南部杯。交流元年と言われた1995年、南部杯も全国交流競走に指定され、フェブラリーSを制したライブリマウントが参戦することが決まったのだった。

ネット中継などなかった時代だ。ファンの関心を呼び起こした世紀の一戦も、レースが観たければ現地に赴くしかなかった。すでにトウケイニセイは旧年齢にして9歳。だが、直前まで単勝1番人気の支持を集め、最後はライブリマウントに逆転されたものの、差のない2番人気に推された。水沢のマイル戦は4コーナーの引き込み線からスタートする。かつての高崎ナンバーワン・ヨシノキングがハナを奪い、2番手につけたライブリマウントをトウケイニセイが外からマークした。道中は堂々と馬体を併せ、まるで他馬など眼中にないように一騎打ちを演じているかにみえた。3コーナーを過ぎた勝負どころ、鞍上の菅原勲が手綱をしごいてスピードをあげる。しかし、余力はライブリマウントにあった。直線、ライブリマウントがヨシノキングを悠々と捕えた後方で、トウケイニセイはもがき苦しんでいた。生涯で初めて連対を外す3着でゴールしたとき、 超満員のスタンドからは大きな溜め息が漏れた。それでも岩手のチャンピオンホースとして敢然と立ち向かっていった姿に観衆は拍手を贈り、このレースは後世まで語り継がれることになった。

引退したトウケイニセイは岩手県内の乗馬施設で静かに余生を送っていた。ところが今年3月、馬主の小野寺喜久男氏が営む病院が大津波によって被災。トウケイニセイを飼育することが難しくなってしまった。名馬の窮地は人々を奮い立たせた。菅原勲らが発起人となり「トウケイニセイ基金」を設立。現役時代の戦いぶりは色褪せず、多くのファンの胸に焼きついていたのだろう。全国から支援金が寄せられた。岩手の古き良き黄金期を駆け抜けたトウケイニセイは、震災の困難に立ち向かう結束の象徴として再び姿を現したのだった。さて、今年のトウケイニセイ記念。南部杯と同じマイルが舞台だ。この日で引退する皆川麻由美に乗り馬がないのは残念だが、どの馬からも狙える妙味ありそうなメンバー。最内枠、菅原勲が手綱を取るシャイニーハリアーに期待する。5連勝の後、前々走は2着に敗れたが、勝ち馬は桐花賞でも連対した実力の持ち主。水沢ではまだ1度も連対を外したことがなく、 ロスなく立ち回れれば勝機が見える。岩手の復興を願って馬券を投じよう。

◎シャイニーハリアー ○ブライティアピア ▲ゴールドマイン
△リリーレインボー、ベルモントダイヤ、ワイルドキャット

>>1995年・南部杯レース映像

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2012.01.07

骨折アドマイヤコスモス 上村洋行が完走の理由を説明

中山金杯で単勝2倍の圧倒的人気に支持されたアドマイヤコスモス。結果は大きく離されたシンガリ負けだった。スタートして5番手の好位を追走していたものの、3コーナーを過ぎてからズルズルと後退をはじめ、大きくスピードダウンして4コーナーを回った。直線は歩くようにしてゴール。勝ち馬からは9秒近く離されていた。レース後、馬運車で診療所に移送されたアドマイヤコスモスは右第3中手骨複骨折を発症していることが判明し、ウェブでは故障した馬を完走させたことについて批判が巻き起こった。もっと早く下馬するべきではなかったかというのだ。鞍上の上村洋行が異変を感じたのは2コーナーあたり。突っ張るような仕草をしたという。中山は例年より馬場が固く、それが原因ではないかと様子を見ることにした。しかし、3コーナー。上村は故障を発症したと確信する。

向正面で手前を変えだして「やはり何かが違う」と思いながら3コーナーに入った。 そして、右手前になった瞬間、完全に異常を感じてスピードを落とすことにした。 /おかしいと思った時点ですぐに止めることにしたものの、急に力一杯に手綱を引っ張れば後続に迷惑をかけて事故につながる恐れもあったし、一気にスピードが落ちたら追突される可能性もあったので、レース全体を壊さないようにするために、一気には引かずゆっくりとスピードを落とすことにした。 (「うえちんのひとりごと 上村洋行公式ブログ」より)

上村は決してゴールまで走らせようとしたわけではなかった。3コーナーは各馬が仕掛け始めてペースアップするところ。そこで急ブレーキをかければ、後続馬の転倒を招くかもしれない。それにアドマイヤコスモスの 「故障した脚にさらに負担がかかってさらに重傷になってしまう」(同ブログ) とも考えた。上村自身、少しずつスピードを落としてから止めたことが正しかったかどうかは分からないと、正直に述べている。素人目に見れば、直線は馬群から遙か後方に置かれ、馬を止めるのにも十分に減速しているように思えた。だが、そこはプロの判断を尊重するしかないだろう。今回の件は06年、ゲートで脳震とうを起こして大量に出血しながら1分遅れで完走した*「ウインレジェンド事件」とは異なる。このときは騎乗した長谷川浩大が気が動転し、明らかに止めるべきケースで下馬しなかったわけだが、上村の場合は止めるタイミングを探りながら走らせ、結果的にゴール板を過ぎてしまったのだった。

レース当日、上村は公式ブログで 簡単に事故の経緯を説明した。そこに多くのコメントが寄せられ、ファンたちが疑問を持っていることを知ると、より詳しい事情を次回の更新で明らかにした。ウェブを通じて当事者が直接、ファンへ説明する機会が設けられたのは歓迎すべきこと。なぜアドマイヤコスモスを完走させたのか疑念を持っていたファンも、上村の言葉に氷解させられたのではないか。辛辣なコメントも少なくなかっただろうが、冷静に対応した上村に敬意を表したい。最近、ツイッターで多くのフォロワーを集めていた後藤浩輝や福永祐一などのジョッキーたちが相次いでアカウントを停止している。福永はファンからの誹謗中傷を目にして 「なんでここまで言われなあかんわけ?」と反論。その10日後、ツイッターをやめることをアナウンスした。

今まで2ちゃんねるとかで色々書かれてるとか聞いても、名前も顔も分からん奴に何言 われても気にしなかったし、実際確認することもなかったんですが、Twitterだと直接送 られてくるんでついつい見てしまうし、見ると気になってもっと見てしまう。 /気にしなければいいんだけど、死ねとか辞めろとか言われるのはやっぱり気分の良い もんじゃない。お金がかかってるから仕方のないことかもしれないけど・・。 (@yuichi_fukunaga)

当然のことだが、ジョッキーも人間。心ない言葉を投げられては、わざわざ情報発信しようとは思わなくなる。素直な疑問や根拠を示した批判をぶつけることに臆するべきではないが、ファンの側も関係者の感情を汲み取って発言することが求められよう。ただ、そんな当たり前のことは大部分のファンは心に留めているのも事実だから、こうした問題の解決策も見出しにくいのだが。

*記事内でリンク先を貼り間違えていました。手直ししました。

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2012.01.05

京都金杯&中山金杯予想 2012

一年の計は金杯にあり。 昨年は中山金杯で本命にした11番人気キョウエイストームが2着に好走。 いい初夢を見させてもらった。2012年、まずは京都金杯から。 上位人気が安定している一方で、6番人気から9番人気の伏兵が過去10年で7連対している中波乱のハンデ戦。 とりわけ7番人気は【3106】と不思議と結果を残しているが、今年、狙ってみたいのが奇しくも前日売り7番人気のアスカクリチャンだ。デビューして22戦、掲示板を外したのは1度だけという超堅実派。相手なりに力を発揮するタイプで、全5勝はすべて芝のマイル戦でもある。前走の準オープン戦では内で脚をためて最後にグイッと伸びて勝利を収めたが、今回も同じような競馬になるはず。内枠が有利な京都金杯で絶好の5番枠、ハンデは前走から3キロ減だ。相性の良い田中勝春が関東から手綱をとりに駆けつけ好走条件は揃った。対抗は勢いある4歳馬、ダノンシャーク。先行力が魅力で、ハンデ54キロは恵まれた。単穴にマイネルラクリマ。ツメは甘いが、馬場が悪くなるようなら一気に浮上する。

◎アスカクリチャン ○ダノンシャーク ▲マイネルラクリマ
△サダムパテック、ヤマカツハクリュウ、オセアニアボス

中山金杯は目下7連勝中のアドマイヤコスモスが人気を集めているが、それに劣らず高い潜在能力を秘めているのがエクスペディション。昨夏に本格化し、条件戦を3連勝。前々走の準オープンは2着馬を子ども扱いする楽勝だった。重賞初挑戦の前走は久々のためか入れ込みが目立ち、勝負どころでいつもの脚が見られなかった。それでも勝ち馬とコンマ2秒差だから改めて力を示したと言うべきだろう。今回はマークが緩む分、エクスペディションは気楽に競馬ができるはずで、2キロのハンデ差を活かして上がり馬対決を制してほしい。対抗は捻って去年の覇者コスモファントム、単穴に本命馬と同じステイゴールド産駒のトップゾーン。先行して粘る競馬ができれば。

◎エクスペディション ○コスモファントム ▲トップゾーン
△アドマイヤコスモス、ダイワファルコン、エーシンジーライン

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2012.01.03

自炊生活のススメ! ケイバ本電子化作戦を発動せり

溜まり続ける雑誌や週刊誌、一口クラブのカタログ、POG本…。気がつくと本棚はあふれ、見返したい記事があっても探す手間がなくて、泣く泣くまとめて資源ゴミへ。きっと競馬ファンなら経験があるはず。競馬関係の資料は整理して手元に残しておくことができないか、私自身にとっては積年の懸案だった。過去にはファイリングを試みたこともあったが、 いちいち面倒なのと、索引もなくて後からお目当てのものを探せない欠点に1年ほどで挫折してしまった。しかし、今や大量、且つ簡単に書籍を電子化するドキュメントスキャナーが発売され、ソフトで処理すれば検索もかけられる時代がやってきた。そこで年末年始、わが競馬資料の電子化作戦を発動し、一気にこの戦いに決着をつけることにした。「天気晴朗なれど浪高し」、いざ!

何はともあれ必要なのはスキャナー。色々と調べたが、価格の手頃さ、スペック、 トラブルの少なさなどを勘案すると、一つしか選択肢はなかった。富士通から発売されている 「ScanSnap S1500」 。家庭で自炊に勤しむ人々にとって定番中の定番機種である。操作は非常に分かりやすく、原稿をセットしてボタンをワンプッシュすると、次々に紙が吸い込まれ、同時に両面スキャン。パソコンに PDFファイルとなって保存される。同梱されているソフトはOCR機能を備えており、自動的にスキャンしたデータを検索可能な文書にしてくれる。購入すればけっこうな値段がする「Adobe Acrobat 9」も付属しているので、並び替えや結合が自由自在に行えるのも便利だ。 「ScanSnap S1500」 は去年末にソフトが更新された新バージョンが発売されたが、ハードそのものは変わっていないので1万円ほど安い旧バージョンのほうがお得だと思う。私は以前のものを購入したが、在庫がなくなれば終わりとのこと。

もう一つ、自炊に欠かせないのが裁断機である。一枚一枚カッターでバラすのは現実的でない。裁断機というとオフィスや学校にある、上から刃を下ろす垂直式のものを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、ああしたものは大量の書類を切断することはできるが数万円と高価。重量が10キロ以上あり、さらには子どもがいる家庭に置くには危険性もある。私が購入したのはカール事務器のディスクカッター。紙を板に固定し、丸型カッターを動かすことで切断するタイプのもの。一度に40枚までしかセットできない難点はあるものの、機械はコンパクトで収納場所に困らない。値段も1万円から1万4千円前後に留まり、替え刃なども数百円と安い。何よりケガをする可能性も低くなる。同社のディスクカッターは裁断サイズによって、A4までの 「DC-210N」、 B4までの 「DC-220N」、 A3までの 「DC-230N」 とある。人気は一番小さなA4サイズだが用途によって選択すべきだろう。私はB4のものを選んだ。

さて、いよいよ実践。週刊ギャロップを解体してみよう。マイナスドライバーだけ用意してほしい。こうした雑誌は中綴じという方法で製本されており、針で綴じられている。そこで真ん中のページを開いて、マイナスドライバーを差し込んで針を起こす。その後、背表紙からドライバーを使って針を抜く。ホチキスの針を取るのと同じ要領だ。次に裁断。本を見開きにセットして、真ん中の折れ目で切断する。ディスクカッターの場合、黄色い半透明のプラスチックがカットラインを示してくれるので迷うことはない。ガシャガシャと黒いボックスに入った丸型カッターを2、3回、上下させる。とアラ不思議、1ページごとバラバラになってしまった。ギャロップは200ページ前後だから、半分に折ると50枚の紙を切ることになる。ディスクカッターの上限は40枚だが、紙が薄いので分割する必要はないだろう。


続いてスキャンである。もちろん、丸ごとスキャンしてもいいのだが、私は広告や想定馬柱など要らないページは手で省いている。そちらの方が時間も短縮できる。だから、実際にスキャンする枚数は半分ほどだ。FAXを送信するときのように裁断した束を裏面にしてアタマからADF(自動給紙装置)に挿し込む。ボタンを押すと両面スキャンが始まる。処理枚数は1分間に20枚、40ページ。スピードは快適。3分から4分で完了。電子版ギャロップの一丁上がりである。ただ、どうしても避けて通れないのが紙詰まりや重送といったトラブル。別冊宝島や赤本など硬い紙では問題はほとんど起きないが、週刊誌の薄い紙や写真が印刷されたツルリとした紙をスキャナーは苦手とする。 「ScanSnap S1500」が優秀なのは超音波センサーによって、ほぼ100%、トラブルを検知できること。スキャン中、PCにはモニタリングウィンドウが表示される。例えば複数枚、紙を送ってしまった場合はすぐにストップ。最後に読み取ったページを表示して、正確な位置から再開できるようになっている。

「ScanSnap S1500」は基本的にA4サイズまでの対応だ。ギャロップより一回り大きい「競馬ブック」も横幅はA4サイズなのでスキャンするのに支障はない。また、A4より大きい 「競馬最強の法則」も、両端の余白を裁断する手間をかければ本文を傷つけずに電子化可能だ。「優駿」や単行本は中綴じでなく、背が糊で接着されている。ページ数があるのでカッターで切り分けて「分冊」から裁断しよう。ハードカバーの場合も表紙をカッターで切り離せば要領は同じだ。私はこれまで150冊以上スキャンしてみたが、部屋のスペースがあいて実に爽快である。それに二度と開かず捨ててしまっていただろう本に、いつも出会えるようになったのは幸せなこと。先月、自炊代行業者を相手に作家たちが裁判を起こしたニュースが話題になっていた。「作品は血を分けた子供と同然」 「裁断された本は正視に耐えられない」という意見もあった。ならば、せめてもの贖罪にと私も自著を裁断、電子化させてもらった。クリエイターの権利を守るのは大切だが、電子化そのものは広く読者の利益に資するものだ。紙は紙の良さがあり、装丁を含めて取っておきたいものは多くある。一方で電子化して構わないと感じたものは、どんどんスキャンしていこうと思う。



*ちなみにギャロップは昨秋から電子版の販売を開始している。最初からそちらを購入すれば自炊の必要はない。また著作権法の観点から雑誌についてはサービスの対象外とする代行業者も少なくない。

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