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2011.08.30

オフサイドトラップを悼んで あの天皇賞秋の”悲運”

98年の天皇賞・秋を制したオフサイドトラップが29日、 腸障害のため繋養先の明和牧場で亡くなった。20歳だった。 オフサイドトラップはトニービン2年目の産駒で、同世代にはナリタブライアンらがいる。3歳1月に初勝利を収めると、セントポーリア賞、若葉Sと連勝し、皐月賞では5番人気の支持を集めたが7着に敗れた。しかし、右前脚に屈腱炎を発症し、以後は復帰、再発、休養を繰り返し、期待に見合った成績をあげることができないでいた。ようやく素質を開花させたのは7歳 (旧年齢8歳)の夏だった。七夕賞で初めて重賞勝ち、続く新潟記念もトップハンデを物ともせずに快勝。そして、日本ダービー以来、実に4年半ぶりのGⅠとなる天皇賞・秋に駒を進めたのだ。この盾は日本競馬史における最大の悲劇の一つとして語り継がれている。 前哨戦の毎日王冠でエルコンドルパサー、グラスワンダーらを赤子の手をひねるように降したサイレンススズカは、天皇賞でも持て余すほどのスピードを存分に活かし、後続を10馬身以上引き離す大逃げでファンを魅了していた。1000メートル通過は57秒4。秋の黄昏、神の域に達したサラブレッドを観ているようだった。 しかし、4コーナー手前で起きたアクシデントは私たちを荒涼たる現実へ突き落としたのだ。

サイレンススズカと関係者にとって悪夢のレースである。 一方、勝ち馬のオフサイドトラップにとっても悲運な出来事ではなかったか。 直線、オフサイドトラップは早めに先頭に立つと、鞍上・柴田善臣の叱咤に答えて内から迫るステイゴールドを抑えこんだ。 屈腱炎を克服、老齢にしてのGⅠ優勝は素晴らしいストーリーだ。 勝負事にイフは無意味だとしても、ハイラップを刻んだ逃げ馬をオフサイドトラップが捕らえた可能性とて否定はできない。 だが、サイレンススズカの非業の死を目にしたファン、マスコミ、主催者さえも勝ち馬を言祝ぐ雰囲気に成らなかった。致し方がないことだった。それでもオフサイドトラップを育てた関係者の功が讃えられないことに、手綱を任されたジョッキーとして柴田は悔しい思いを持っていたはずだ。その焦燥感は裏返しとなって、あの悪名高い勝利騎手インタビューへとつながっていく。 マイクを向けられた柴田は「笑いがとまらない」と、まるでサイレンススズカの事故を喜ぶかに答えたとされる。このインタビューが後々までオフサイドトラップの偉業を曇らせてきたのも事実である。柴田はライバルの不幸を「笑いがとまらない」と言ったのか。今一度、当時のインタビューを書き起こしてみよう。

アナ:検量室に戻ってきたとき思わずヨッシャという雄叫びがありましたね?  柴田:気分よく競馬できたので、成績がこういう成績ですので、笑いがとまらないって感じです  アナ:スタートから道中どうですか?  柴田:本当にあの、気分よく馬が走ってくれたんで僕としてはタダ乗っているだけという感じでした。  アナ:サイレンススズカにアクシデントがありましたけれど、その辺りは気がつかれました?  柴田:だいぶ手前で気がついて、サイレンススズカどっちの方に動くのか心配になりましたけど、 内側にうまく入ってくれたので、それをサイレンスと一緒に入るようなことになったんですけど、 うまく捌けて。まあまあ。はい。サイレンススズカにはちょっと気の毒でしたけど。はい。  アナ:直線も力強かったですね  柴田:そうですよね。何で後ろ来ないのって感じでしたけど。ええ。  アナ:初騎乗ですね。オフサイドトラップ  柴田:はい。  アナ:8歳馬にしてのG1。すごい馬ですね  柴田:大した馬です。エライ馬です。  アナ:オフサイドトラップに一言  柴田:本当にあの、頑張ってくれたので。僕は何もしてないので、ありがとうと言ってやりたいです。  アナ:柴田善臣騎手でした。おめでとうございました。(フジテレビ・スーパー競馬)

インタビューで柴田はレース中に事故に気づいて進路を変えたこと、 またサイレンススズカに対して「気の毒だ」と気持ちを述べている。 冒頭、「成績がこういう成績」は1着という意味だ。 しかし、「笑いがとまらない」はその流れで出てきたものであるとはいえ、 「天皇賞」の重みにはそぐわない軽薄さ、ぞんざいさがある。 日常生活でも公式な場で 「笑いがとまらない」などとあまり使わない。それはジョッキーとて同じ。 どこか必死に笑顔をつくろうとしている柴田からは、主役はオフサイドトラップなのだと訴え、 ライバルの死とともに栄誉を葬り去られてかなわない、そんな心のうちが透けて見える。大レース後の昂揚感、名馬が事故死した異様な空気、関係者と騎乗馬に対する責任。複雑な心的要因が絡みあって、結果的に不用意な言葉が生まれてしまったのではないかと思う。しばしば指摘されるような柴田がサイレンススズカの死を無視したり、軽んじたとの批判は当たるまい。強くサイレンススズカを意識すればこそ、つい発してしまった言だった。

89年の日本シリーズで、近鉄の加藤哲郎は「巨人はロッテより弱い」と発言し、巨人ナインの怒りを買って逆転優勝を許したとされる。実際、加藤はそう直接は述べていないものの、未だにプロ野球史の一コマとして語られている。柴田にしても、サイレンススズカをないがしろにしたわけではない。だから、あのインタビューがオフサイドトラップとセットで伝えられていくのならば、 誰かが柴田の心情を解釈して綴るべきだろう。柴田も加藤と同様、釈明はしないのだから。 天皇賞後、有馬記念を最後に引退したオフサイドトラップは門別ブリーダーズSSに繋養されたものの、 繁殖に恵まれずに2頭の条件馬を出すのみに終わった。 母の父としても登録された産駒はいない。 もしサイレンススズカが最後までゴールを駆け抜けていたら?  それは絶えず勝者の側にも湧き続けたイフであったはずだ。 オフサイドトラップ。今はただ安らかに。

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コメント

ホーリックスではなくこちらですか

>「笑いがとまらない」
このあたりからですかね
2ちゃんねるの意見=競馬ファンの意見
といったことになってきたのは

投稿: フンテラール | 2011.08.31 08:11

>2ちゃんねるの意見=競馬ファンの意見
といったことになってきたのは

ワリーけど、2ちゃんねるの原型が発生したのは、1999年ですわ。「2ちゃんねる系」とでも訂正したらいかがでしょうか?

投稿: _ | 2011.09.01 23:05

>フンテラールさま
ホーリックスも思い出深いですが、敢えてオフサイドトラップについて書いてみました。

>ななしさん
あの頃は今よりもいろんな掲示板が賑わっていましたね。コミュニティの中心ツールでした。


投稿: ガトー@馬耳東風 | 2011.09.02 22:47

ひとつ疑問なんですが、
善臣さんはこのインタビュー時点でスズカの予後不良まで理解していたんですかね?
レースしていて瞬間交わしていった人と、テレビ・場内観戦していた人とでは情報量に差があるような気がします。

知ってると知らないとでは、コメントの意味合いがだいぶ変わってくると思うんですが・・・

投稿: | 2011.09.03 07:42

>ななしさん
プロですから、当然、蓋然性については認識されていたでしょうね。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2011.09.03 13:11

なるほど。
あくまで蓋然性であるとかばうにしても、不謹慎には違いないですねぇ。

よっぽど興奮してしまったのか・・・

投稿: | 2011.09.04 15:17

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