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2010.06.01

日本ダービー回顧 二強対決の幻影を一閃に裂く

入場者12万5746人。東京競馬場は西門のほうまで立錐の余地がないほど人、人、人で埋め尽くされた。史上最高の好メンバーと下馬評から大いに盛り上がった今年のダービー。ダノンシャンティの取り消しというアクシデントはあったものの、前売りから単勝人気で競り合っていたヴィクトワールピサペルーサの二強対決を目に焼き付けようと、多くのファンが押し寄せたようだ。開門ダッシュの常連者も今年の席取りは異常に激しかったと述べていたが、それだけ”世紀の一戦”に寄せる期待が大きかったということだろう。私は一口馬、シルクルーパスのデビューを応援するため4レースから現地観戦。ところが、愛馬はゲートで馬っけを出してしまったとかで1秒差以上の大出遅れで大敗。この日は最終レースの目黒記念まで、買う馬、買う馬、ことごとく出遅れる奇跡的な現象に馬券は大惨敗したが、それはダービーも例外ではなかった。

先週までより少し時計がかかり、差しも届く芝。ダービーと同条件で行われる青嵐賞は1000メートル通過が1分5秒1と超スローの展開に。内から穴馬を2着に持ってきた内田博幸は、馬場状態をしっかりとつかんでいるように思えた。ダービー発走のファンファーレが響くと、競馬場のテンションは最高潮に達した。 12万人の歓声と手拍子、打ち振られる新聞。もともとゲートでうるさいところを見せていたペルーサにとって、騒がしいスタンド前、後入れというスタートは懸念材料のひとつではあったが、いつも以上にエキサイトした場内の雰囲気はペルーサの弱点を露呈させることになった。ゲートが開き、3頭が出遅れた。その中にペルーサもいた。ウィリアムズのアリゼがハナを切ると、シャインコスモファントムらが控えてすんなりと隊列が収まる。後方待機を余儀なくされたペルーサの敗戦は1コーナーで決まったと断じても過言ではない。

12万の観客で埋まった東京競馬場 スローペースで決まった青嵐賞
本命にしたペルーサだったが… 超スローを演出した先行三騎

1000メートルは1分1秒6。ところが、ここからペースが上がらなかった。中盤「13.5-13.1-12.9」と歩くようにラップが落ち、もはや上がりの勝負になるのは全ての騎手にとって明白だった。内の中団につけていたヴィクトワールピサは折り合いを欠き、岩田が必死になだめる。かたや、出遅れたペルーサの横山典はまくっていくが、これは玉砕覚悟のあがきだ。道中で1頭だけ脚を使っては、直線ではほぼ勝負にならない。得てして瞬発力勝負の時ほど、着差はわずかになり、騎手の技量が勝敗を左右することになる。ジョッキーは自分の馬の繰り出せる脚を計算しつつ、どの馬を目標とするのか定め、仕掛けのタイミングを計らねばならない。直線、ローズキングダムの後藤は、ヴィクトワールピサが内で進路取りにもたつき、外ではペルーサの手綱が激しく動いているのを確かめると、一呼吸置いて抜群のタイミングで先頭に飛び出した。だが、内田はその動きを後ろで冷静に見つめていた。後藤があけた内側に馬を向け、さらに一呼吸遅らせてエイシンフラッシュを追い出す。一瞬にしてローズキングダムを交わし去ると、もうライバルに差し返すだけの脚はなかった。

エイシンフラッシュは社台ファーム生産の持ち込み馬。父はキングマンボの直仔・キングズベストで、母はプラティニ産駒のドイツ血脈。京成杯を接戦で制した後、トライアルを使えずに直行した皐月賞で3着と好走していた。ただ、日本のファンにはあまり馴染みない血統と「冠号+”フラッシュ”」という凡庸な名前が、派手な勝ち方をしてきた人気馬たちと比べて、実力以上に評価を貶めていたような気がする。私自身、瞬発力に秀でた中山向きの馬ではないかと思って、ダービーでは印を回さずにいた。だが、今回のような上がり勝負では、一閃の末脚が最大の武器になる。その名の通り閃光の脚を持っていたのがエイシンフラッシュだったということだ。上述したように内田や後藤の手綱さばきは見事なものであり、一流騎手が技を尽くしたレースは日本ダービーに相応しいものだった。一方でスタンドは、地方から一歩一歩、登りつめてきた内田のダービー制覇を温かい拍手で迎えつつ、どこか戸惑うような雰囲気に包まれていたのも事実だ。

エイシンフラッシュの上がりは32秒7。届かず3着に敗れたヴィクトワールピサも33秒1と、伸びなかったわけではない。5着ルーラーシップ、6着ペルーサは33秒3。上がりの勝負だから凡レースだというのは大きな間違いだが、スピードとスタミナを消尽しつくす総合能力を問う競馬にならなかったのは確かで、多くのファンに不完全燃焼感が漂ったのは自然なことだろう。しかし、個人的な反省を踏まえて言えば、二強対決の幻影にファン、マスコミは囚われすぎていた。他馬との実力差はオッズほど離れていなかったし、ウオッカとダイワスカーレット、ブエナビスタとレッドディザイア、あるいは前週のアパパネとサンテミリオンといった、一騎打ちのレースを見たいという集合意識が、レース前に物語を暴走させてしまったのかもしれない。頂点を制したエイシンフラッシュが、次に同世代の挑戦を受けて立つのは秋。勢力図は混沌としているだろう。ペルーサやヒルノダムール、ルーラーシップらが、どれだけ成長して戻ってきてくれるか楽しみに待とう。

内田はゴールで外との着差を確かめる

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コメント

>レース前に物語を暴走させてしまったのかもしれない。
この表現にとても納得です。

投稿: M | 2010.06.03 07:03

>Mさま ありがとうございます。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2010.06.06 09:28

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