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2010.06.23

レンタル移籍の東京ダービー馬 ダート路線の空白を晒す

東京ダービーを勝ちながら、中央へ復帰したためにジャパンダートダービー(JDD)の出走権を失ったマカニビスティーを巡る騒動。強い中央馬がレンタル移籍をして、地方のクラシックレースを席巻するという前代未聞の出来事は、改めて中央と地方の格差と、3歳春の中央ダート路線の空白を浮き彫りにすることになった。去年暮れ、栗東・矢作厩舎からデビューしたゼンノロブロイ産駒のマカニビスティーは、未勝利、500万下とダートの短距離戦を連勝。しかし、勢いをかって臨んだオープンのヒヤシンスSでは5着に敗れてしまう。次走のアーリントンCでは10着に大敗して、芝適性がないこともはっきりした。3歳のダート重賞が中央で行われるのは6月のユニコーンS。それまで組まれるオープン競走の数も限られている。3月、マカニビスティー陣営は地方へ活路を求めて、一時的に大井へ転厩させるという決断を下した。

厩舎としては大きな損失となるが馬やオーナーの幸せを考えるとこのままここにいるよりは南関に移籍して羽田杯や東京ダービーなどで活躍したほうがいいと僕が決断しました。馬自体はとても元気だし羽田杯、東京ダービーを勝って2勝して戻ってきてくれること願っています。今年の南関の3歳は比較的手薄だしマカニビスティーの能力なら通用すると思います。一時、矢作厩舎から離れますが引き続き応援よろしくお願いします。(矢作厩舎オフィシャルブログ)

中央と比べるとずっと低い地方の賞金だが、南関東のクラシックともなれば話は別。羽田盃の優勝賞金は4000万円、東京ダービーは4500万円。ユニコーンSの3700万円を上回る。ビスティー軍団の馬主、備前島敏子氏はもともと大井で馬を持ったのが最初であり、懇意にしている松浦備厩舎にマカニビスティーを預けることにした。馬主としての経済的な利益を考えただけでなく、定年を前にした松浦師に悲願の東京ダービーをとらせてあげたいという情もあったと聞く。無論、矢作厩舎にしてみれば大切な管理馬を一時的にせよ手放すのは損失だが、父親が大井の調教師でもあり、レベルの高い中央馬が移籍すれば南関クラシックも賑わうだろうという思いがあったようだ。血統評論家の栗山求氏は中央の希薄なダート路線を捨てて地方へ移籍する決断を「逆転の発想」と手放しで賞賛していた。いずれにしても、大井競馬や南関ファンから反感を買う結果になろうとは陣営は想像もしていなかったはずである。

大井に移籍したマカニビスティーは、転厩初戦を圧勝。三冠の第一関門、羽田盃はハナ差で競り負けたものの、東京ダービーでは圧倒的1番人気の支持に応えて戴冠。南関東3歳の頂点に立った。かつては一度、地方へ籍を移すと中央へ戻ることは叶わなかったが、今では地方で2勝をあげれば、中央へ復帰できる規定が設けられている。東京ダービーの勝利で条件を満たしたマカニビスティーは、予定通り矢作厩舎へ帰り、次走の交流重賞・JDDには中央馬として参戦することが発表された。ところが、ここで思わぬ壁が立ちはだかる。「地方から中央へ復帰した馬が交流競走に出走するには中央で1走以上することが必要」という、他の南関東3場にはない大井独自の内規が存在していたのだ。慌てた陣営は主催者と協議したものの規定が覆ることはなく、「大井を盛り上げようという気持ちもあって持っていったのに、非常に残念。納得がいきません」(矢作師)とすっきりしない気分が残ることになってしまった。

内規とはいえ、出走ルールを確認していなかった方に落ち度はあるが、それでも陣営が納得しなかったのは、大井が特定の馬を救済するため出走資格を変更した前例があったからだ。今月初め、長期休養明けのカネヒキリを帝王賞のメンバーに名を連ねさせようと、大井は「休養期間1年以上の馬はダート重賞に出走できない」としていた規則を変更した。帝王賞を盛り上げるための、あからさまな特例措置である。人気馬のための朝令暮改が可能な規則なら、マカニビスティーにも特例が適用されても良いではないかと考えるのは自然なこと。しかし、大井は頑として首を縦に振らなかった。そこにはクラシックレースを腰掛けに使われて、賞金を稼ぐだけ稼いで去っていくことは許しがたいという、地方の側から見た論理と矜持があった。マカニビスティーは大井のルールに則って東京ダービーを制した。だが、追い銭まで投げる必要はないと。もし大井が心から移籍を歓迎していたのなら、当然、復帰前に内規の存在を告げていただろう、ブログ「地方競馬に行こう!」のlandslider氏は南関ファンの気持ちを素直に綴っている。

最近、「ブレ」が目立つ大井競馬、今回はキッチリと筋を通して欲しいと期待します。他の地方競馬ではな い、大井だからこそ。 心情的にも、マカニビスティーみたいな路線の馬ばっかになったら、南関限定二戦 から交流G1っていう今の路線の意味も希薄化しちゃうし、ちっともそんなの面白くない、って思ってしま います。 JDDに東京ダービー馬が出ないのは寂しいですが、南関三冠の魅力が将来にわたり無くなって しまうのに比べたら、全然ましです。(地方競馬に行こう!)

理想を語れば、中央と地方の垣根なく強い馬が大きなレースを勝つのが本来の在り方で、勝てるレースを求めてレンタル移籍に踏み切ったマカニビスティー陣営は優勝劣敗の競馬原理に忠実だったと言える。一方、中央と地方は大昔のようにセリーグとパリーグのような対等関係にはほど遠く、メジャーと3Aか、ツアーとシニアリーグといった主従ある関係になっているのが現実だ。それは地方の価値が低下しているというわけではなく、むしろ「地方競馬の存在は日本の競走馬資源の健全な受け皿として、欠かすことのできない」(吉田照哉氏)という、生産力の維持のため抜き差しならない補完関係が構築されていることを意味する。より良いレースを探して、中央と地方を行き来すること自体は競馬界を活性化することになるかもしれない。マカニビスティー陣営が不幸だったのは、狙ったレースがただの重賞ではなく、かけがえのない”ダービー”だったことだ。

クラシック戦線とは競走体系の根幹を成すものであり、ファンを引き付けるキラーコンテンツであることは、どの競馬場でも変わることはない。だが、中央でオープン特別すら勝てない馬が直前に押し寄せてクラシックの大本命となってしまう状況が相次げば、ただ中央との決定的な格差が白日のもとに晒されるばかりで、移籍先のファンを落胆させることになろう。地方の調教師にとって最大の仕事はレンタル契約を結んでくれる中央馬を探すことになりかねない。クラシックとは若駒の夢を買ってもらう商売と捉えるならば、現況、3歳馬の転入時期や中央復帰の条件をより厳しくすることもやむを得ないのではなかろうか。かたや、それには中央のダート路線の見直し、つまり皐月賞や日本ダービーにダートで賞金を加算した馬が出走するのを防ぐために番組を希薄化させている現状、をどうするのかも併せて考える必要があるだろう。無理に休養を余儀なくされる陣営を道徳的に批難するのは筋違い甚だしいことである。マカニビスティーを巡る一連の問題は中央と地方がどう共存してくかという、競馬界全体を見据えたシステムが問われていることを忘れてはならない。JDDに出走できなくなったマカニビスティーはプロキオンSに向かう予定だ。願わくば東京ダービー馬の威厳を守るレースをしてほしい。

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コメント

JDD出たいなら,単に,中央再転入せずに大井にとどまれば良かったんじゃないの。

> JDDに出走できなくなったマカニビスティーはプロキオンSに向かう予定だ。

という表記はちょっと違う。
陣営自ら,JDDには出走しないことに決めたのでしょう。

投稿: ゴリラ | 2010.06.24 00:45

>ゴリラさま 東京ダービー後は中央復帰が既定路線で、交渉しながら帰厩したということなのでしょうか。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2010.06.28 23:54

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