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2010.03.16

旅打ちトルコ競馬! 東西文明が交わる熱情ナイター

夕暮れのボスポラス海峡 イスタンブールの象徴、ブルーモスク

1600年間、首都として栄えてきたイスタンブール。ボスポラス海峡を挟んで、ヨーロッパとアジアが交差する東西文明の架け橋だ。2月の終わり、休暇を利用して初めてトルコへと渡った私は、カッパドキア、パムッカレ、エフェスと国土の西半分を1週間かけて夜行バスで周り、駆け足でイスタンブールへと戻ってきた。もちろん、競馬のためである。日本でトルコ競馬について調べたものの、分かったのは土曜と水曜に開催しているらしいことと、最寄りの駅名ぐらい。土曜の昼、安宿が集まるスルタンアフメット地区のネットカフェに立ち寄り、トルコジョッキークラブの公式サイトを覗くと、当日の出馬表から1レースが17時半にスタートするナイター競馬であることが判明。果たして競馬場まで辿りつけるのか、トルコ語など皆目見当がつかないのに馬券が買えるのか、不安に駆られながらも夕刻、宿を出発することにした。

トラム、メトロ、バスと交通機関が発達しているイスタンブール市内だが、競馬場近くのイェニマハッレ(Yenimahalle)は旅行者がほとんと利用することのない国鉄線の駅である。競馬場をめざし、ヨーロッパ側の終着点、スィルケジ駅から普通列車に乗る。料金は一律1.5リラ(約100円)。トラムやメトロが最新鋭の車両を導入しているのに対し、国鉄の列車はまるで昭和30年代の雰囲気。ドアは故障して開いたまま走行しているし、観光客は皆無。トラムとは客層が異なり、暗く殺伐とした感じである。 30分ほど揺られてイェニマハッレに到着。列車を降り、粗末な駅舎を抜けて歩き出す。世界各地、どこでも開催中の競馬場の周辺は賑わいがあるものだが、ここでは自分以外、誰も競馬場へ向かう人はいない。雨が降っていたこともあろうが、本当に寂しい。競馬なんかやってる気配がない。不安は募る。

何度か踵を返そうかとも思ったが、ここで帰ったら競馬ブロガーの名折れ。T字路を左折し、高架をくぐると、入り口らしきゲートが見えてきた。ここにも客の姿はない。どうやら競馬場は大きな公園の中にあり、入園料2リラを払うようだ。ところが、カウンター越しに係員の兄ちゃんに声をかけると、思わぬ一言。「ツーリストフリー!」、旅行者はタダだと言うのだ。タダより高いものはないと幼少より教えられてきた自分は警戒しないわけでもないが、トルコ政府が無料だと言うのだからありがたく享受することにしよう。回転式のゲートを押して入場。しばらく歩くと、トルコ語の案内表示板に「←PADOK」の文字が。ほかの言葉は理解不能だけれど、これはパドックってことだよね。さらに進むと「INTERNATIONAL STABLES」と表記された厩舎も発見。よしよし、間違いなく競馬場へ近づいているぞと自らを奮い立たせる。そして木立に囲まれた小道を抜けると視界が開け、見慣れた競馬場の光景が一気に広がった。

ここがトルコの誇るイスタンブール・ヴェリフェンディ競馬場。1周は2020メートル、直線は450メートルの右回り。芝コースを外側に、ダートコースを内側に持つ近代的な施設である。わたしは直線の半ばぐらいからコース前に入ったようで、手前のスタンドを越えて、もう一つの奥のスタンドまで行くと、それまでの寂しげな雰囲気は一変。それぞれ新聞を手に、あれやこれやと仲間とおしゃべりに興じるトルコの競馬オヤジたちの集団が現れた。「オヤジみて、ほっと安心、イスタンブール」字余り。スタンドの1階には馬券売り場のブースが4つ開いており、数台の自動券売機も設置されている。売店には10紙以上の競馬新聞が並び、私は適当に「YARIS 81」とブルーの文字で書かれたものを手に取った。新聞代は0.75リラ(約40円)。安いが、無論トルコ語だ。着いたのは1レースの発走前。パドックへ向かうと、色とりどりの勝負服を着た騎手が周回していた。

手前のスタンド。閑散 ナイターは寒いけれど綺麗です
締切のベルまで列が並ぶ窓口 売店には新聞がズラリ

馬券を買うにはトルコ語のマークシートを塗らねばならない。しげしげと見つめると、おおよそ推測がついてきた。一番上は場名、「KOSU」はレース番号だろう。「BAHIS」は馬券の種類、一番下は1点あたりの購入額か。この日は大きなレースもないのだろう。1レースから7レースまで30分刻みで、すべてダート。距離は1400メートルか1500メートルで、最終だけは2200メートルだ。ケンした1レースは逃げ馬が追撃を振りきって1着。直線は長いが、やはり先行勢が有利なのか。2レースのパドックに向かう。新聞は読めないので、頼りになるのは馬体診断だけ。素人眼によく見えた14番「ONURSOY」号の単勝勝負。馬券の種類が「G」は単を意味するガニャンだろうとしか分からないからだ。14番は果敢にハナを奪って期待を持たせたものの、ゴール前で失速。馬群に沈んでしまった。トルコ競馬、なかなか手強いぞ。

続く3レースは15頭立て。オヤジがトルコ語で熱心に話しかけてくる。どうやら「5番でゼッテー鉄板なんだよ!」と言っているらしい。市街には怪しげな日本語で話しかけてくるトルコ人の数が尋常でないくせに、競馬場では英語すら通じない人ばかりだ。とはいえ、せっかく得た情報。確かにパドックでは一際、大きな馬体で目をひく。トップハンデ58キロは実力の証か。よし、この「EASTERN SOCIETY」という英語名を持つ5番の単勝に5リラの勝負である。だが、ゲートが開くと5番はやる気があるんだかないんだか、中団のポジションでモタモタと追走。これは厳しいか。4コーナー、ようやく5番はエンジンを吹かして追撃体制に入る。直線、逃げ馬を交わそうと、ジリジリ差し脚を伸ばす。「ヤレ!ヤレ!」とトルコオヤジが絶叫し、こちらも「差せ!差せ!」と負けずに叫ぶ。ゴール前、声援に応えて5番がクビ差だけ先に出て1着。トルコ競馬、会心の初的中である。

窓口に行き、馬券を渡すと9.75リラが還ってきた。およそ300円の儲けなり…。この勢いで、せめて馬連だけでも買いたい。腹ごなしにフライドポテトを注文した店の兄ちゃんが暇そうだったので、教えを乞うことにする。トルコ語では意思疎通できず、兄ちゃんは次々にそこらの人を連れてきては、私の説明を理解させようとする。でも、みんな英語ができないんだが。新聞に「1-4、3-4、4-6、4-10」と書き、こういう組み合わせを買いたいのだとアピールすると、3人目のオヤジがOK、OKと、マークシートを塗りつぶし始めた。馬券の種類は「I」の欄をマーク。数字の1つ目の欄は軸にする「4」、2つ目の欄にヒモにする番号をマークする。これで馬連が買える。場名などは塗らなくても差し支えないようだ。「テシェッキュル」と礼を述べ、いざ勝負である。

すっかり陽は落ちて、完全なナイター競馬。イスタンブールの2月は冷える。パドックで引かれるサラブレッドの息も白い。場外発売が主なのか、広いスタンドに観客は数百人程度しか入っていないが、レースが始まるとファンたちは丸めた新聞を叩き、興奮して大声援を送る。こうして競馬場が熱気に包まれるのはイスラムもヨーロッパもアメリカもアジアも万国共通だ。レース中、大型ヴィジョンには位置取りを示す馬番のアイコンが表示され、勝負服を知らなくとも全馬のポジションが把握できるようになっている。これがレース後のリプレイではリアルな人馬のCGに置き換わって、まるで競馬ゲームのように実際のレースが再現される。世界的にはレベルは高くない競馬という思い込みもあったが、いやはや、秀逸なエンターテイメントが凝らされているではないか。

いつの間にか寒さを忘れて、トルコ競馬を満喫。馬券は3レースの単勝しか当たらない散々な結果ではあったが、ドキドキしながらも競馬場にやってきたのは大正解だった。 20時半発走の7レース終了とともに、人の波はすぐに引いていき、スタンドのドアも閉められた。裏手には競馬場の正門があり、多くの来場者は目の前の駐車場に停めていた車に乗り込み、帰路についたようだ。私はまた独りぼっちで正門から駅へと歩くことになったが、往路の不安は消え去り、エキサイティングなレースの余韻に浸るばかり。ホテルの部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んで寝てしまった。世俗分離のイスラム国家で、国産ビールを片手に馬券が楽しめるトルコ競馬。熱情、自由、人情味、豊かな民俗文化と都会的な洗練さ…。東西文明の出会いが産み出した魅力的な競馬がイスタンブールにはあった。

>>競馬場への詳しいアクセスや馬券の買い方

ゴール前、差し切った5番 的中馬券
馬の息も白い 騎手はレース前に関係者と相談

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コメント

トルコってイスラム圏なのに馬券を売ってるんですね。

イスラム教はギャンブルを禁止している筈なのに。

投稿: すまーとぼーい | 2010.03.16 05:59

楽しんでますねー。またのブログ更新たのしみにしてますhappy01

投稿: Easygore | 2010.03.16 18:29

こんにちは。
いつも拝読させていただいていますが、特にこのトルコ競馬の記事は大変楽しく読ませていただきました。私も過去1年間にトルコに仕事で何回か行っていたのですが、競馬場には結局行けずじまいで、この臨場感あふれるレポートをみて「無理してでも行けば良かった…」と後悔した次第です(^^;。
言葉が通じなくても意思疎通ができるというのは、素晴らしいです。以前のフランスに行かれた際のエントリでも思いましたが、競馬という切り口を持っていると旅行も一段と味のあるものになりますね。興味深い記事をありがとうございました。

投稿: participant | 2010.03.21 16:45

>すまーとぼーいさま
トルコは酒もギャンブルも婚前交渉も一般的なようです。もちろん、厳しく戒律を守っている人たちも多いのでしょうが。

>Easygoreさま
どもども。お久しぶりです。

>participantさま
トルコ、なんどもいってらしゃるんですね。食べ物には苦労しないし、物価が比較的安い割りには先進国の便利さもあって、旅のしやすい国ですね。どこの国でも競馬の仕組みやファンの気持ちは共通ですから、旅の楽しみが一つ増えるのかもしれません。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2010.03.21 22:37

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