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2009.06.19

”疑惑の裁決”が産んだ大改革 満たされぬ正しさ求めよ

ここ2週続けて、調教師から裁決に関する不満がファンに漏れ聴こえてきた。1人目は橋口師。7日(日)の中京11レース、管理するルミナスハーバーは直線で2位入線馬の進路を妨害したとして降着処分となった。ルミナスハーバーは被害馬と馬体を併せに行った際、2度ほど接触するシーンがあった。これを降着とするのは素人目にも厳しい処分のように感じさせられたが、橋口師も納得せず、裁決不服申し立てに関する審理を行う不服審理委員会へ訴えでようとした。だが、トレセン業務の仕事始めである水曜日(月火は休日)に公正室に赴いたところ、「不服申し立て期限はレース後2日まで」だとして申し立てを認められなかったという(スポニチ)。2人目は矢作師。13日(土)の東京8レース、1番人気に推された管理馬のブレーブビスティーが大外から伸びてきた際、前の馬が外に膨れて減速させられる場面があった。審議のランプは点かなかった。矢作師はパトロールフィルムで被害場面を確かめるため、確定を遅らせるよう頼んだが、裁決は聞き入れなかったとする(公式ブログ)

橋口師の件は冗談としか思えない内容だが、事実ならお粗末すぎる欠陥であるし、こうして報道された以上は早急に改善されるだろう。不服審理委員会は20日付けで岡部幸雄元騎手が外部委員として登用されて話題になったばかり。従来はJRA役職員だけで構成されていたが、客観性や透明性を高めようと改革がなされた。騎手経験者を裁決にという声は昔からあったが、不服審理委員会という一段上の審議機関とはいえ、元ジョッキーの存在がどんな影響をもたらすのか、興味深いところではある。矢作師の件は性質が異なる。「円滑に開催を進行させたい裁決は急かそうと」して、2分半ほどのパトロールフィルムが再生し終わる以前に、レースを確定させてしまった。被害を訴える機会を失ったのである。JRAは今年1月、「審議から確定に至る手続き」を見直しを図り、ファンサービスのため、審議レースを減らすこと、速やかな確定に努めることを目標に定めている。矢作師のケースでは、着順変更を要する可能性のある妨害はないと考えて、ならば速やかな確定を優先させたということかもしれない。正確性か迅速性か。妥当性の是非は部外者には分からない。

ところで、この1年ほど、審議や走行妨害に関するJRAの改革路線には目を見張るものがある。巨大組織を動かすきっかけとなったのは、去年の「オークス疑惑の裁決」事件だろう。1位入線のトールポピーが大きく斜行して複数馬の進路を妨害し、鞍上は騎乗停止となったものの、着順変更は行われなかったレース。”分かりづらい裁決”が波紋を広げた。判定基準の曖昧さ、決定の不透明性、公平性の不担保といった批判のほか、特定の馬主に処分は甘いのではないか、被害側も加害側との力関係で真実が述べられないのではないかなど、従前の問題点を指摘する声が噴出した。間もなくJRAはサイトで「走行妨害の判断ポイント」など判定基準を簡明にして公開。1月には裁決業務の見直しを実施し、馬の癖など偶発的要素による走行妨害は「騎乗停止1日」とする、重大な過失は走行妨害に至らずとも「騎乗停止2日以上」にできるなど、ファンが理解しやすい制裁の改定も行った。あまり注目されていないが、確定前の事情聴取対象を被害馬の騎手に限定したのは、加害側の立場によって裁決が左右されることのないよう張った思い切った防衛線か。審議とは一義的にファンのためになされるべきと私は考えているから、当事者感情に流されないことは核心のひとつである。

新ルール施行後、きさらぎ賞で藤田騎手がバカついた馬を必死に立て直したものの、進路妨害があったとして騎乗停止1日とされた件があった。藤田騎手は「競馬役職員の無能な現実を沢山の方々に知って頂きたい」(公式ブログ)と感情を爆発させたが、「偶発的要素による走行妨害」と認めたからこその騎乗停止1日であり、規定趣旨に沿った判断と言える(すぐに藤田騎手の怒りも収まったよう)。無論、法やルールは一般的形式的なものであり、特定のケースにおいて正しさを実現する保証はない。また、偶発的要素による走行妨害の責めを騎手に帰する(調教師でも馬そのものにでもなく)という規定が、未来永劫、不変というものでもない。一度、規定は確立されると、その源となった価値判断の信憑性を隠そうとする力が働く。それ故、常に多方面からの問いかけを反芻しながら、より良い方向へと運用、改定していくことが必要となる。その点、騎手、調教師、ファンの活発な言動と、それに対するJRAの柔軟なレスポンスは好ましい循環にあるように思える。オークス疑惑の裁決も一連の契機としては肯定的に捉えられるほど、この1年の動きは画期的である。大切なのは、満たされることのない正しさを求める運動を継続させていくことだ。

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コメント

ほ~そんなこともありますか

投稿: ロジロジ | 2009.06.21 10:24

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