« きさらぎ賞予想 | トップページ | 鼻出血発症 ブラックエンブレムは最下位に敗れる »

2009.02.19

ダイワスカーレット引退 もっとも強く、速く、美しく

ダイワスカーレットの繁殖入りが決まった。ドバイ、ヨーロッパへの遠征を目前に控えての故障発生。ただただ残念と言うしかない。ダイワスカーレットの残した偉大な戦績を前にしては、惜別のエントリーも軽々しく書くことが憚られるが、市井ファンとして同馬の足跡を振り返るぐらいなら許してもらえるのではないか。母スカーレットブーケ、兄ダイワメジャーという血統的な背景を持つダイワスカーレットは、デビュー前から注目を集める2歳馬だったことは言うまでもない。新馬戦は秋の京都、すでに中距離馬としての適性を見出されて2000メートル戦が選ばれた。2戦目は裏街道、中京2歳S。ここで後の弥生賞馬、アドマイヤオーラと一騎打ちを演じ、半馬身差、退ける。その次戦、シンザン記念では先着を許して初黒星を喫するのだが、デビューから1ハロンずつ距離を縮めてきた戸惑いがあったのかとも思う。そして、桜花賞トライアルのチューリップ賞、宿敵ウオッカと初めての対決を迎える。

ダイワスカーレットはマイペースの逃げ。直線、鞍上の安藤勝はライバルが来るのを待っていた。そして、3着馬を6馬身置き去りにして繰り広げられたデッドヒート。だが、ウオッカの四位は慌てる素振りを見せず、ムチを入れることもないままクビ差、ダイワスカーレットに先着した。着差以上の完敗。だが、陣営は本番での逆転をあきらめていなかった。仕上げはあくまで桜花賞を見据えたものであったからだ。連日、坂路で猛稽古を課し、馬を前に置いて気を抜いて走ることを覚えさせた。その努力は功を奏す。大外18番を引いたダイワスカーレットだが、スローにも関わらず好位でぴったりと折り合う。瞬発力勝負では分が悪いと早めに仕掛けた安藤勝。とはいえ、ゴール前2ハロン目のラップは10秒6の史上最速ラップを刻んだのだから、ウオッカも届く術はない。自分でレースをつくれる強みを終生のライバルに見せ付ける結果となった。

オークスは感冒により回避。復帰戦となったローズSは余裕の逃げ切りV。秋華賞で3度目のウオッカとの対戦へと進む。それまでハイペースの競馬を経験したことのないダイワスカーレットにとって、初めて厳しい競馬になるのではないかとみられていた。しかし、中盤13秒6という超鈍足ラップが先行有利の展開をつくりだす。またしても33秒台の上がりでダイワスカーレットは楽勝した。ウオッカが取り消したエリザベス女王杯も、ハナを切り、後半からペースをあげる十八番で快勝。同型のアサヒライジングが出遅れたのも幸運とされた。そのため、一線級牡馬とキツイ競馬をすれば、過去の名牝がそうだったように後塵を拝することになるのではとの声も強かった。有馬記念の5番人気という評価がそれを物語っている。だが、マツリダゴッホの大駆けに遅れはとったものの、ダイワスカーレットは連対を確保。並みの名牝ではないことを証明した。

古馬になってから、ダイワスカーレットは順調さを欠いた。ドバイへのステップとして選んだフェブラリーSの調教中、跳ね上がったウッドチップで目を傷つけて予定はご破算に。大阪杯もメイショウサムソンやエイシンディピュティに完勝したものの、右前脚に骨瘤を発症して春全休が発表された。長い休養。秋、栗東へ帰厩したときにはベストより40キロも重い馬体だったという。松田国師は慎重に慎重を重ねて、時間と本数をかけながらウェイトを落としていった。その結果、天皇賞秋には大阪杯と同じ498キロで姿を見せる。伝説へと昇華したレースはもう言葉を尽くす必要もあるまい。逃げ馬には過酷すぎる前半のラップを凌いだ後半のハイラップ。2センチの差で盾はウオッカに譲ったが、これほど見る者に強烈な印象を残し、心を揺さぶった敗戦が競馬史上、あっただろうか。

ラストラン、有馬記念は人々が期待した通りの独走劇となった。死闘を演じてきたウオッカやディープスカイはいなかったが、決して楽なレースをさせてもらえたわけではなかった。前半1100メートルは66秒1のハイペース。2番手からメイショウサムソンがプレッシャーをかける。4コーナーではスクリーンヒーローらも襲い掛からんとする。しかし、どの歴戦の雄も、再加速するダイワスカーレットに追いすがることすら叶わず、脚を失って後退するしかなかった。37年ぶりの牝馬による有馬記念制覇。その記録が強調されなかったのは、もはや誰も牝馬という枠囲いでダイワスカーレットを捉えることが意味を成さないものであることを知っていたからだろう。力の限界を見せぬままターフを去るダイワスカーレット。もっとも強く、速く、美しかった名馬。私にはありきたりの言葉しか浮かばないが、歴史は時間をかけて彼女を形容するに相応しい言葉を見つけるのかもしれない。

|

« きさらぎ賞予想 | トップページ | 鼻出血発症 ブラックエンブレムは最下位に敗れる »

コラム・書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/1902/44107830

この記事へのトラックバック一覧です: ダイワスカーレット引退 もっとも強く、速く、美しく:

« きさらぎ賞予想 | トップページ | 鼻出血発症 ブラックエンブレムは最下位に敗れる »