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2008.10.08

凱旋門賞リポート 最強牝馬が誕生したロンシャンの一日

10月5日、ロンシャン競馬場のあるブローニュの森は強い風と断続的な雨に見舞われていた。前日の青空と打って変わった悪天候。派手な帽子で着飾ったご婦人たちが少し可愛そうなほどで、どこか波乱を予感させる雰囲気もあった。1レースが始まるのは13時45分だが、 12時すぎから場内は人で溢れていた。すでにパブリックスタンドは立錐の余地もないほど。日本人の姿も多い。正面入り口の右脇に設けられた日本語ブースには、競馬ファンのみならず、普段は馬券を買ったことがない日本人も集まり、スタッフの女性が対応に追われていた。場内に数軒あるグッズを扱うギフトショップも盛況だ。Tシャツ、ジャンバー、双眼鏡、ペンに ストラップなど、様々な凱旋門賞グッズがファンを引き付けていた。場内の大型ヴィジョンには、次々と高級車で到着する要人たちの様子が映し出される。社台の吉田照哉、和子夫妻も登場。凱旋門賞のひとつ前のレースには 、武豊騎乗で持ち馬が出走する予定になっている。

第2レースは向こう正面の直線を走る1000メートル戦、アベイユド・ロンシャン賞。スタートで、1頭、ゲートが開かない。他の馬はあっ という間にゴールまで駆け抜けたというのに。このレース、日本で言うところのカンパイになった。最終レース後にやり直しになるという。もし、凱旋門賞で同じトラブルが起きていたら大変なことだっただろう。とはいえ、このレースも格式あるG1である。そうしたトラブルに目をつぶれば、凱旋門賞当日の雰囲気は非の打ち所がない。歴史の重みを思い起こさせる過去の優勝馬の紹介映像。さらにライブでは、20台以上はあるだろうカメラを使い、検量室、パドック、コースまで騎手、関係者、サラブレッドを追って、巧みに映像を組み合わせる。ドリー、アップ、煽り、ワンカットごとが映画のシーンのようで飽きない。レースを演出するクラシック調の荘厳な音楽も効いている。日本のマンネリ化したファンファーレが子どもじみているようにさえ思えた。この辺りは参考にすべきところではないか。

よくヨーロッパの競馬場は賭博場ではなく、紳士淑女の社交場だと言われる。確かに鈴木淑子のような帽子をかぶった婦人や、スーツにネクタイをした男性も多い。だが、一般スタンドを埋め尽くす、ほとんどのファンはジーパンにジャンパーといった普段着である。目の前のカップルは競馬そっちのけでキスに熱中。そうしたなかでフォーマルな格好をしているほうが、珍しかった。日本人はきちっとしたジャケットを着ている人もいたし、ラフな格好をした人もいたが、どちらも浮いているようなことはなかった。着物の女性がいたのは驚いたが。ディープインパクトの年と違い、日本人の数は知れたものだし、ミーハーなファンも少なかったのだろう。レーシングプログラムの争奪戦など皆無で(結局、余っていた)、パドックに武豊が出てきても、「がんばって」と遠慮気味に声がかかるぐらいだった。

パドックで大声をあげている初老の男性を見つけた。どうやら誰かへ声援を送っている様子だ。注意されるかなと見ていると、逆に関係者からシャンパンを受け取り、歌いながら乾杯。馬が出てくると男性は声を潜めた。阿吽の呼吸である。パドックや通路は、手を伸ばせば馬に届くほどファンとの距離が近い。騎手は気軽にサインに応じているし、声がかかれば答えることもある。考えてみれば、騎手もファンも同じ人間。互いに敬意を払う間柄なら自然なことだ。競馬場の外、ちょっとした買い物だって、店員と客は挨拶を交わして、別れるときはメルシーと言い合う。客だから神様ではない。店も売ってやるのではない。競馬場だって同じ。人間性を疑うような野次もなければ、ファンにうるさいと怒鳴るジッキーもいない。社交場とは、服装の話ばかりではない。ファンも関係者も、大人の振る舞いで競馬を楽しむということではないか。

凱旋門賞当日のロンシャン 優勝馬はパドックで祝福を受ける

勝者として称えられるのは1頭のみ 盛況だったグッズショップのパリジェンヌ

パドックと馬場をつなぐ通路 日本人優先窓口。英国人用もあり

第6レース、いよいよ凱旋門賞だ。少し傘が開いたパドックに、颯爽とザルカヴァが姿を見せる。ファンの関心は、この類まれな勝ち方をしてきた女傑が、26年ぶりに3歳牝馬として欧州一の称号を手にするかどうかに集まっていた。メイショウサムソンも落ち着いた様子だ。鞍上の武豊も淡々と周回を重ねる。大一番を前にして心を集中させているようだ。各馬、ターフへ向かうと、ファンも一斉にコース前に移動。本馬場入場で1頭ずつ紹介を受ける。去年、万全の体勢を整えながら、馬インフルエンザという災禍に襲われて遠征を断念したサムソン。だが、いくつものハードルを越えて、この舞台に立ったことを思うと、グッとこみあげてくるものがあった。フランスでのサムソンの評価は低いし、チャンスが少ないのも事実だろう。しかし、競馬は何が起きるか分からない。

予定と違って、ザルカヴァの次、最後にゲートへ誘導されたサムソン。準備する間もなく扉が開く。アウェイの厳しさか。タイミングを教えるように係員がザルカヴァの尻をポンと叩いた。両脇から挟まれたサムソンは先行する機会を逸し、思わぬ後方、内側からの競馬を強いられる。ザルカヴァは1馬身ほど斜め前方だ。向こう正面の長い上り、下り。フォルスストレートでも位置どりは変わらない。そして直線。武豊が進路を取ったのは内。激しく馬体をぶつけられる。必死に伸びようとするサムソン。「ユタカ、伸びろ!」声はあげないつもりだったのに、思わず叫んだ。しかし、サムソンの頑張りも半ばまで。中ほどから一気に差し脚を伸ばしてきたのはザルカヴァ。ゴール前では後続を突き放して、歴史的な勝利を飾った。サムソンは10着。これが競馬だ。これが凱旋門賞だ。

ザルカヴァの鞍上でスミヨンが何度もこぶしを突き上げた。全身で喜びを表現するジョッキーと勝ち馬に、観衆から惜しみない拍手が鳴り響いた。後ろを振り返ると、スタンドの全員が立ち上がり、尊敬のまなざしをザルカヴァに向けていた。どの顔も、まるで国を守った英雄を迎えるかのような表情だった。涙を浮かべている人々もいた。表彰式で掲揚されるトリコロールと、演奏されるラ・マルセイエーズ。この時、私は初めて凱旋門賞という価値の高さと、優勝馬の関係者が受ける栄誉の重さを痛感した。この栄光を手にすることは容易ではない。だからこそ、挑んでみたい。過去数十年、何度も壁に跳ね返されながら、異国からチャレンジを続けてきたホースマンの気持ちにも触れた気がした。いつか、あの場所に日の丸が掲げられる時、もう一度、ここに来よう。そう心に誓ってブローニュの森を後にした。

子どもたちも大勢来ていた 一番人気はハンバーガー?

帽子はファッションの華 VIPほど上の席

歴史的名牝となったザルカヴァ 日本代表・メイショウサムソン

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コメント

もうそろそろ日本馬の遠征と騎手の遠征は分けて考えた方が良いのではないかと思いました。武騎手の努力は認めても、40歳間近で体力のピークは過ぎていますし、このときだけロンシャンに来るのでは有力馬・騎手の情報が頭に入っている欧州ベースの騎手達に叶わないと思います。ゲートや位置取りの問題は言い訳としか聞こえません。日本の騎手が凱旋門賞やBCに騎乗したいなら欧米を拠点に自分を磨くようなアピールの方法もあっても良いと思います。「世界との差」を日本のマスコミが正しく報道できると良いですね。
 そういう意味では勝つために米国の騎手を乗せるカジノドライブの挑戦は非常に興味があります。
 日本産馬の実力は上がりました。でもまだまだですね。いつかロンシャンで君が代を聞くことが出来たら素晴らしいと毎年思います。

投稿: | 2008.10.10 05:52

浪花節的には日本人騎手で勝ってほしい気もしますが、最短距離をめざすなら現地の慣れたジョキーのほうがいいですよね。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2008.10.22 22:43

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