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2008.02.20

縮小する競馬メディア 「馬」休刊が意味するものは?

2月16日(土)午後5時、本社から翌日17日(日)に急遽、社員総会が行われると言われた。当日、何の前触れもなく、『ホースニュース馬』が休刊するという話を聞いた。2月17日を最後に、新聞は発行しないと言う。… いつかは…と覚悟はしていたが、猶予期間もなく、いきなり休刊になるとは思いもしなかった。後から聞いた話では役員以外は誰も知らされていなかったと言う。だから、現場のトラックマンはもちろん、井崎脩五郎先生、丹下日出夫さんも知らなかった。(辻三蔵の辻説法)

これまでも中央競馬ではサイエンスやケイシュウといった専門紙の廃刊は目にしてきたが、井崎脩五郎、阿部幸太郎ら著名評論家を輩出してきた名門「ホースニュース馬」の休刊は、ファンにも驚きをもって迎えられているようだ。専門紙を取り巻く環境は年々きびしくなっており、その要因の一つには在宅のままネットで馬券を買うファンが増えていることがあげられよう。PCの前に座れば、出馬表、オッズ、過去の戦績も無料で得ることができるのだから、前日から専門紙を買い込んで睨めっこする必要もないし、特別レースだけ予想するなら130円のスポーツ紙と組み合わせればよい。従来よりファンに400円を支払わせるハードルは格段に高くなっている。専門紙、受難の時代だ。

一方で、今回の休刊はライフスタイルの変化だけに因るものではなかろう。競馬ブームの際には雨後のタケノコのように生まれた競馬雑誌も、その多くが姿を消してしまい、一般スポーツ誌「Number」で競馬が特集される機会もめっきり減った。つまり、社会では競馬メディアのニーズそのものがなくなってきているのだ。昨年度、JRA売り上げ額は約2兆7600億円で、97年の4兆円をピークに10年連続で減少。売り上げ減少に歯止めがかからない。私が学生の頃はこぞって競馬場へ行ったものだが、昨今ではそんな話は聞かなくなった。新規ファンがいなければ、競馬産業のπも小さくなる。そして、競馬もマイナースポーツに転落する。否、もうしているのかもしれない。

そうしたJRAの危機感は今年度のCMにも現れている。ご存知「CLUB KEIBA」は、ある会社の競馬ファン(大泉洋)が昔は競馬場へ通っていた上司(佐藤浩市)や全く興味のない若手(小池徹平)、派遣社員の女性(蒼井優)らを巻き込んで、「みんなで競馬!する楽しさ」を体験していくストーリーが描かれている。キャッチコピーには「あたらしい競馬の楽しみ方。2008年JRAからの提案」とあるが、本当は新しくも何ともない。17年前、猫も杓子も馬券を買い、競馬場へ押し寄せたあの時代の楽しみ方を丁寧に教えてくれようとしているのだ。新規顧客の開拓一本に絞ったキャンペーンに他ならない。

もちろん、これまでもJRAはビギナー獲得に努力を払ってきたが、今年度は腰の入れようが違う。21年続いた「スーパー競馬」を打ち切って、初心者向け番組の色彩を濃くした「みんなのケイバ」をスタートさせたのは象徴的だ。この番組はまさに「CLUB KEIBA」のコンセプトを反映したもので、川合俊一、ほしのあき、井崎脩五郎、細江純子が見本になってワイワイと競馬を楽む姿を視聴者に披露している。そこには素人受けしない専門家が出てくる余地はなく、実況席で井崎脩五郎が解説を兼ねるのも理にかなっている。競馬に詳しい役回りは1人で充分で、吉田均らの話など「CLUB KEIBA」には無用の長物というわけだ。

「みんなのケイバ」には「もう、バラエティー路線は勘弁してくれ!」(ゲンダイ)という批判も強いと報道されているが、 JRAは既存のファンはグリーンチャンネルへどうぞという方針なのだろう。戦略としては筋は通っている。今回、競馬産業の円が小さくなったことで、最も外周にいた専門紙が休刊に追い込まれたとすれば、その意味は無視できるものではない。「CLUB KEIBA」キャンペーンが成功を収めるかどうかは別にして、競馬産業に活力を再注入するという目的では、コアなファンが多少の不自由を強いられるのも我慢すべきかもしれない。地方競馬だけを斜陽と呼ぶ時代は過ぎたのだろうか。

暗い話になってしまったが、競馬メディアはなくなる一方ではない。ネット系の充実ぶりもさることながら、厳しい環境の中で新たな志を持って立ち上げられた紙媒体もある。先月、拙ブログでも紹介したが、月刊のタブロイド誌「レーシングポスト」は第3号も読み応えのある内容が詰まっている。JRA賞の担当記者による投票理由を特集した「わたしの理由」と題された記事など、従来から投票理由を付記させろと主張してきた私は手を叩きたくなるものだった。競馬産業の縮小スパイラルを止めるのは簡単ではないと思われるが、専門紙などの再編は質の高いメディアを立ち上げるチャンスになるかもしれない。悲観的になるばかりでなく、良い方向に転がることを期待しよう。

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