シンコウフォレスト安楽死 割り切れぬ感情こそ大切に
1998年の高松宮記念などスプリント重賞3勝をあげたシンコウフォレスト(牡14)が、7月にアイルランドで安楽死処分されていたことが判明した。これはブログ「あさ◎コラム」さんが繋養先のラスバリースタッドに問い合わせて明らかになったもの。シンコウフォレストは今シーズンはじめに8頭に種付けしたものの受胎せず、完全に繁殖能力が喪失したことが確認されたため、シンジケートが解散、殺処分となったという。グリーンデザート産駒であるシンコウフォレストは引退後、種牡馬として故郷のアイルランドに輸出され、シャンペンS(英G2)やグロシェーヌ賞(仏G2)などの重賞勝ち馬を輩出して順風満帆な繁殖生活を送っているとみられていた。繁殖能力がなくなったとはいえ、種牡馬として一定の功績を残し、日常生活に支障のない同馬があっさりと処分されたことに戸惑いを感じるファンがいることは確かだろう。かくいう私もそのひとりだ。
一方で競走馬の多くが屠殺されている日本の現状を考えれば、ヨーロッパでも同じことが起きているだけなのだという冷静な感情も沸いている。ラスバリースタッドは「人道上の理由から苦痛を与えずに殺害」したと回答を寄せている。これは日本のように名前を伏せたまま業者に引き取ってもらい、劣悪な環境下で肥育された上で食肉に加工するといった処分方法は採られていないと明言したものだろう。想像の域を出ないが、シンコウフォレストの遺体の一部は何処かに埋葬されたのではないだろうか。 2003年、日本で種牡馬を廃業したケンタッキーダービー馬、ファーディナンドが屠殺されていたことがアメリカで報じられ、日本が非難される事件が起きた。結局、ファーディナンドがどのような過程を経て処分されたのかは発表されたなかったものの、 JRAが他のチャンピオンホースの行方を調査するなど大きな波紋を広げることになった。
ファーディナンド事件以降、廃用となった輸入種牡馬が故郷・アメリカへ再輸出されるケースが増えている。功労馬を繋養する養老牧場が受け入れ先だ。日本でも一部のファンや生産者が養老牧場を運営しているが、年間数千頭が生産されている規模に比べれば、システムとして機能するようなものにはなっていない。国内では競馬産業のイメージを守るためか、引退馬の処分問題がメディアに取り上げられることは少ない。そのため、苦痛を最小限度にした処分方法が採られているかといった議論まで、とても踏み込めていない。そうした意味においては、ラスバリースタッドのように自らの管理下において適切な方法で処分したと公言できるならば、食肉業者にすべてを委ねてしまう日本式よりは責任ある行動を取っているとも言えよう。もちろん、経済動物の名のもとに、サラブレッドが大量処分される競馬産業の論理を認める人々の間のことではあるが。
以前、ナイスネイチャの生産者、渡辺はるみさんの著書を紹介したことがあった。渡辺さんは引退した生産馬を引き取り、どうしても手放さなくてはならなくなると、なるべく苦しまない方法で自らの目の前で処分するようにしていた。 G1ホースであれ、未勝利馬であれ、ひとつの命を絶つことは決して軽々しいことではない。今回、シンコウフォレストの件も納得すべきものだという思考が支配的になると同時に、どこか割り切れない感情が残ったのも正直なところ。実は大切なものは割り切れない部分に宿っている気がした。処分は競馬を続ける上での運命と、突き放すだけが最善ではないだろう。一例だが、重賞賞金の一部は余生のために支払うようにするとか、種牡馬シンジケートの数パーセントは解散後のためにプールしておくとか、多額の利益を生んだ馬が余生を過ごせる施策が採られても良いのではないか。すべて白日の下に晒す必要はないが、大切なことが議論されないのなら、それは人にとっても馬にとっても不幸なことだ。
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コメント
ご無沙汰しております。
あのシンコウフォレストがそんなことになっていたなんて、全く知りませんでした。
確かにこれこそが競馬が抱える闇の部分なのかもしれませんね。
私も割り切れぬ感情を大切にしていきたいと思います。
今日は素晴らしいエントリーを読めて嬉しく思います。
ありがとうございました。
投稿: 治郎丸敬之 | 2007.09.27 22:56
過分のお言葉、ありがとうございます。しょうがないことなんだけれども、しょうがないと開き直ってしまうには引っかかる話なのだと思います。現実的にはJRAが動かないと、何も変わらないのでしょうが。
投稿: ガトー@馬耳東風 | 2007.09.28 03:24