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2007.07.28

大衆競馬とは何か? ダーレー来襲で揺れる日本

アドマイヤムーンのトレード交渉がまとまった。現オーナーの近藤利一氏からシェイク・ムハンマド殿下率いるゴドルフィンが40億円で購入。殿下の傘下にあるダーレー・ジャパン・ファームに譲渡されるのだという(netkeiba)。 18日付けでダーレー・ジャパン・ファームは中央競馬の馬主登録を認可されており、アドマイヤムーンは松田博厩舎のまま、服色だけ変えて秋の天皇賞をめざすことになりそうだ。 JRAは海外に居住する外国人の馬主資格を認めておらず、ダーレー・ジャパン・ファームも日本人が代表者を務める、日本の生産法人という扱いがされている。しかし、本国の機関の意向で買い上げ、日本法人が所有するという形が許されれば、外国人馬主の受け入れと、その方便としての名義貸しを半ば公に認めることになるだろう。すぐさま海外で走らせるのではなく天皇賞参戦にこだわったことが、歴史的なターニングポイントを生み出したことになったやもしれない。

24日、JRA六本木事務所で開かれた記者会見には、近藤氏と生産者のノーザンファーム・吉田勝己代表が出席した。ノーザンファームはデビュー後にアドマイヤムーンの一部の権利を買い戻したとも噂されており、実際、市場取引馬されたことを表すマル市マークは馬柱から消えている。馬産関係者とみられるブログでは新馬戦直後に9000万円で半分の権利を得たと報じるところもあるが、真偽のほどは明らかでない。近藤氏は会見で「応援してくれたファンや日本競馬の売り上げに貢献するため」秋の天皇賞に出走することを譲渡の条件にあげていた。近藤氏とノーザンファーム側としては、「金でスターホースを外国に売り払った」という最悪のイメージを払拭することに心を砕いたように思える。阪神馬主協会会長を務める近藤氏はダーレーが対象になった馬主登録審査会を欠席し、馬主団体代表として唯一反対票を投じなかった(サラブnet)。瓜田李下の教えによれば決して褒められた行動ではなく、近藤氏の胸にも引っかかるところはあったのかもしれない。

外国資本参入に警鐘を鳴らすライターの河村清明氏は「『大衆の競馬』から『お金持ちの競馬』へ大きく舵を切っているような気がする」「はたしてお金持ちの競馬を志向して、『長く親身に応援してくれるファン』を多数獲得できるのだろうか」(“競馬場通り”の住人)と疑問を投げかけている。さらにムーンの40億円での購入は「日本の大物馬主の懐柔策」だと言う。この点、近藤氏を懐柔するためと断じるだけの具体的な証拠は何もなく、軽率な批判は控えるべきだろう。むしろ、多少はそうした意味合いがあったとしても、今年も現役のイギリスダービー馬などを買い求めているゴドルフィンの行動からは、ドバイで高いパフォーマンスを見せたムーンに触手を伸ばすことは自然なことではないか。もちろん、結果的に去年までダーレー参入に反対してきた近藤氏と社台グループのスタンスを百八十度転換させるのに何らかの影響があったなら、ゴドルフィンはしてやったりだろうが。

ところで、河村氏の言う「大衆競馬」とは何を意味するものだろうか。札幌大学の岩崎徹教授は著書のなかで、日本競馬の特徴は大衆競馬にあるとした上、「競馬を支える馬主、生産者、ファン」が特権階級でない庶民的、大衆的な性格を持っていると指摘している。馬主に関して言えば、平均所有頭数は2頭強しかなく、中小企業の社長や医者、タレントなど零細馬主が中心であるという。また、生産者も家族経営が多く、一般ファンもクラブ法人を通じて安価に馬主気分を味わっているとする。だが、こうした大衆競馬の基盤は崩れつつある。馬主数はピーク時の4分の3まで落ち込んでしまう一方、社台グループやキンコンカンに代表される大馬主の寡占化が進んでいる。馬産地では社台ひとり勝ちと日高・家族牧場の衰退は顕著であるし、ファンの馬券購買額の減少には歯止めがかからない。小さな問題かもしれないが、一口馬主の課税強化問題にJRAが手を打たなかった(打てなかった)のも、傾向に拍車をかける一助になったかもしれない。

では、ダーレーの本格参入は大衆競馬を突き崩すことになるのであろうか。賞金のπは限られているから、ダーレーが日高の牧場を次々と買収し規模を拡大していけば家族牧場は隅へと追いやられ、社台、ダーレー、他の有力生産者の争いになることは間違いない。ダーレーはオーナーブリーダーだから、その構図は馬主の世界にも持ち込まれる。同一馬主の馬が同じレースに何頭も出走するという事態を招き、公正競馬を疑われるケースも出てくるかもしれない。ライバルの馬を陣営の仲間で取り囲む作戦も容易にできてしまう。しかし、ファンに社台グループの寡占化を強く印象づけてしまっている現状では、大衆競馬を旗印に外資反対を叫ぶのは支持を得ることが難しかろう。私自身、たくさんの人々が馬主になることができる仕組みは残していくべきだと考えているが、その施策は馬主の収入要件や共有馬主制度の規制緩和などによって行うべきで、それは地方競馬を含めた日本競馬のグランドデザインから見直さなければ解決しないことだと感じている。

サンデーサイレンスの登場で一気に加速した社台グループの寡占化は、従来の大衆競馬を変容させつつあった。ファンに内在するダーレー待望論があるとすれば、社台一極集中のカウンターパートを求めるが故であろう。そうだとすれば、大衆競馬が壊れつつあることが、さらに大衆競馬を変えてしまうだろう外資参入を期待させる皮肉な結果を招いていると言える。私は従来から主張しているように、外資参入をどう役立てていけるか考えるべきだというスタンスに変わりはないが、対極的な位置にいる河村氏の「日本の競馬の目指すべき方向があいまいなままの方向転換は危険が伴う」という意見には賛成だ。攘夷論、開国論という単純な二分法的思考に陥るのではなく、変えるべきは何なのか、守るべきは何なのか、議論していく必要があると思う。やはり、この島国を揺り動かすのはいつの時代も黒船のようだ。

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