朝の来ない夜はない カッチー15年ぶりの美酒
田中勝春、15年ぶりの中央GⅠ制覇となった皐月賞。「Jpn1だろ」などという無粋な突っ込みはやめにしよう。馬券の払い戻しの有無は別にして、ファンの多くはカッチーの勝利に惜しみない拍手を送ったのではなかろうか。平成4年、ヤマニンゼファーで安田記念を制してから、なんと139回もGⅠに騎乗しながら連敗が続いていた。あの時、まだ少年のような初々しさに満ちあふれていたカッチーも、気づけば三十半ばを過ぎた。周囲からGⅠ連敗の話題を毎回のように言われながら、決して腐ることなく黙々と目の前の仕事を片づけてきた。そんな姿が知られているから、騎乗依頼が止むことはなかったし、長い苦労の末に報われた優勝はファンを勇気づけたと思う。これで4年前にデムーロに頭を叩かれた悔しさは笑い話にできる。朝の来ない夜はない、そんな言葉をしみじみと感じさせてくれるレースだった。
レースは逃げ宣言をしていた松岡サンツェッペリンが主導権を握ろうとしたものの、カッチーは行きたがるヴィクトリーを抑えず、ハナを切らせた。この判断がレースの勝敗を決めた。1000メートルは59秒3。向こう上面では12秒台とラップが落ち着き、速すぎず、遅すぎず、先行勢には気持ちよく走れるペースになった。直線では一度はサンツェッペリンが先へ出たものの、ヴィクトリーが差しかえして勝利。最後はブライアンズタイム×トニービン、兄にリンカーンという血統の底力とカッチーの執念がハナ差だけヴィクトリーを先着させた。皐月賞の逃げ切りと言えば、古くはカブラヤオーやカツトップエース、近年ではミホノブルボン、サニーブライアン、セイウンスカイらが浮ぶが、彼らはいずれもクラシック二冠馬。ダイワメジャーも古馬GⅠを制している。ヴィクトリーの未来も明るい。
無敗馬、フサイチホウオーは33秒9の上がりを使いながら、同タイムの3着。文句なしに最も強い競馬をしたと言えよう。ホウオーは父ジャングルポケットと同じく共同通信杯から参戦し、2番人気、1番枠、そして3着。レース前から既視感はあったが、空恐ろしくなるぐらい酷似した結果になった。その既視感は続くようだ。ダービーでは父と同じく、1番人気に推されるだろう。競馬が血統のドラマなら、着順も一になるはずだ。今年はアグネスタキオンもクロフネもいないのだから。 1番人気アドマイヤオーラはスタートが悪く、後方からの競馬に。直線は伸びてきたものの、4着までが精一杯だった。こちらは去年のアドマイヤムーンとイメージが重なっていたが、やはり着順も同じだった。ちなみにムーンはダービーでは3番人気7着だ。
再びカッチーの話に返るが、これほどGⅠを勝てなかったのは何故かと糸をたぐり寄せてみると、 93年3月14日へと行き着く。この日、前年にコンビを組んで安田記念を制していたヤマニンゼファーは、距離の目処を立てようと1800メートルの中山記念に出走していた。しかし、カッチーは自厩舎のセキテイリュウオーに騎乗するよう迫られ、手綱を放さざるを得なかった。これはリュウオーにGⅠ級の能力があり、乗せ続けてやりたいという師匠の親心であったと言うが、ゼファーの安田記念連覇を新潟のターフヴィジョンで観ることになったカッチーの心境は察して余りある。この年の天皇賞秋では、リュウオーに騎乗、道中でムチを落とし、ゼファーにハナ差敗れもした。あれから、長い長い時間をかけて歯車は元に戻った。
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