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2006.08.05

岡潤一郎 北の大地を照らす夏の太陽のように

毎年、北海道で競馬が始まると、岡潤一郎がやってのけた離れ業を思い出す。 1989年6月16日、札幌競馬場で達成された5連続騎乗勝利。デビュー2年目の若葉マークのジョッキーが4レースから8レースまで5連勝したのだから、大きな話題とならないはずがない。前年に44勝をあげて新人賞も獲得していた"ジュンペー"の名は、広く競馬ファンに知れ渡ることになった。当時、若手ジョッキーの台頭はめざましかった。武豊を筆頭に松永幹、角田、横山典、田中勝、ジュンペーの同期、岸、千田…。空前の競馬ブームで若手騎手はさながらアイドルグループのように扱われてた。その中でもジュンペーの活躍はひときわ目を引いていた。

2年目も46勝をあげたジュンペーの騎手人生は順風満帆だった。翌年には師匠、安藤正敏の管理馬・ユートジョージで嬉しい重賞初勝利も収める。そして、若手ながらもジョッキーとしての技量を高く評価されたジュンペーにGⅠ制覇のチャンスがやってきた。その年の宝塚記念でオグリキャップの騎乗を依頼されたのだ。単勝1.2倍の楽勝ムード。だが、このレースでジュンペーは仕掛けのタイミングを誤り、先に抜け出したオサイチジョージを捕まえられずに2着に負けてしまった。「ジュンペーにはGⅠは荷が重い」それまでの期待が大きかっただけ、厳しい批判や中傷にも耐えなければならなかった。

名誉挽回の機会が巡ってきたのは翌年の秋。幸運のパートナーはまたもミルジョージ産駒だった。ローズSで騎乗することになったのは夏の上がり馬、リンデンリリー。それまで手綱を握ってきた武豊は良血スカーレットブーケを選択していた。優先出走権獲得が必須のローズSで、リリーは好位から差しきる競馬で圧勝。続くエリザベス女王杯もジュンペーは持ち味の末脚を引き出して、人馬ともに念願の初GⅠを手にすることができた。しかし、爆弾を抱えていたリリーの脚は限界に達していた。命こそ取り留めたものの、屈腱を断裂していたリリーは表彰式に出ることも叶わず、馬運車で競馬場を去っていった。すべての力を使い果たして。

騎手生活6年目の93年1月30日。ラストランは突然、訪れた。新馬戦でジュンペー鞍上のオギジーニアスはハナを切ってターフを軽快に飛ばしていた。直線入り口、同馬は故障を発生して転倒。馬場に投げ出された際、不幸にもジュンペーのヘルメットがずれてしまった。トップスピードに乗っていた後続馬はジュンペーを避けることができなかった。頭蓋骨骨折、脳挫傷。2月16日、懸命の治療も功を奏することなく、意識不明のまま生涯の幕を閉じた。享年24歳。あれから十数年。夏の競馬場で空を見上げると、私は不思議と岡潤一郎のことを思い出す。騎手だった5年間、ジュンペーは太陽のように輝いていた。短くも北の大地に燦々と降り注ぐ、あの夏の陽差しのように。

時代は流れ、岡潤一郎の名を知らないファンも多くなってきたと聞く。今月、故郷の北海道・様似町で追悼展が開かれる。馬産地を旅する計画がある方々は、予定に組み込まれてはいかがだろうか。

岡潤一郎を偲ぶ「追悼展」
 8月12日(土)~23日(水)まで(月曜日休館)
 様似町中央公民館・文化ホール
 様似町教育委員会 0146-36-2521

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コメント

ガトー様

良き師匠(?)であった田原成貴もあんなことになって、岡潤一郎の名を呼ぶ者も少なくなってしまいましたね。

数多くの悔しさを経験した騎手だっただけに、無事であれば、どれだけの騎手になっていたでしょうか。

暑い日が続きますが、ガトー様もお身体をご自愛ください。

投稿: 治郎丸敬之 | 2006.08.05 20:10

>治郎丸敬之さま ありがとうございます。ライバルの岸騎手も引退してしまいましたし、あの世代は惜しいですね。

投稿: ガトー@馬耳東風 | 2006.08.07 00:42

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