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2006.08.07

書評『競走馬の科学』 "速い馬" の秘密を徹底分析

JRA競走馬総合研究所は競走馬のスポーツサイエンスを追求する世界でも珍しい研究機関だ。その研究員たちが優駿などに連載していた記事を加筆してまとめたのが、今春に出版された 『競走馬の科学』 。この本のなかで一貫してキーワードとして用いられているのが「速い馬」。速い馬とは? 速い走りとは? 速い馬の体は? 速く走らせる工夫とは? 根元的な問いを科学的に、明快に図解付きで紐解いてくれている。例えば、理想的なペース配分とは何を指標に考えるべきなのか見てみよう。

ペース配分とは、見方を変えると「レースにおけるエネルギーの使い方」である。エネルギーには、大きく分けてエネルギーをつくるときに酸素を用いない「無酸素性エネルギー」と酸素を用いる「有酸素性エネルギー」がある。有酸素性エネルギーは走りの持続力を維持し、無酸素エネルギーは瞬発力を発揮する。…競走馬では、ハロン十三~十四秒あたりで有酸素性エネルギーの生成能力が最大に達し、それよりも速いスピードでは無酸素エネルギーも動員されることになる。上手なペース配分をエネルギーの観点から結論づければ、限りある無酸素性エネルギーをレース終盤までいかに温存し、体内に乳酸をためすぎないように走るか、ということになる。

レースではゴールとともに無酸素性エネルギーを使い切るペースが、理論的には理想だという。無酸素性エネルギーを無駄遣いしてしまうと、直線で脚を伸ばすことができなくなってしまう。だから、道中で急加速や減速をすることは、それだけ勝つチャンスを捨てていることになる。 4コーナーをまわった時には勝負付けは済んでしまっているのだ。あるトップジョッキーが「騎手の役割は馬の上で何もしないこと」と語っていたが、つまり無酸素性エネルギーをなるべく消費させないのが勝利の極意ということなのだろう。

屈腱炎の発症メカニズムも興味深い。屈腱炎の原因は着地時のアクシデントなどより、トレーニングによって蓄積された腱線維の変性にあるとする。コラーゲンの腱線維は高速で走るときの熱によって、細くなって脆くなってしまう。だから、調教後に脚を冷やすことが大切なのだ。また、硬い馬場が事故を誘発する見方については「誤った認識」と結論づけ、コース内で硬かったり軟らかかったり、凹凸があるなど肢が予想と違う動きをするのが危険だと指摘する。競馬の新たな楽しみ方を教えてくれる一冊。ぜひ一読をお奨めしたい。

>>『競走馬の科学 速い馬とはこういう馬だ』(講談社 800円)

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