56年の総決算となった宇都宮競馬。
最終日となった14日は天候にも恵まれ、6600人のファンが詰めかけた。
場内は別れを惜しむ人々で中央なみの賑わい。有料席は早々と完売だ。
この日は6レースから特別戦。「地方は騎手で買え」の鉄則を守ったわけではないが、
競馬場所在地名の西川田賞は内田利×平澤則×水野史×丸山候の4頭BOX。
高崎所属の水野、丸山にとっても移籍が叶わなければ、この日が最後の騎乗になるのだ。
ここは丸山が意地の差しきり勝ち。2着に平澤が粘って
馬連1060円的中。3番人気-5番人気の割にはつかず。
宇都宮では地方特有の先行絶対有利という先入観は捨てた方がよい。
宇都宮競馬場はJR宇都宮駅からバスで30分ほど。
12時発が最終の無料バスを逃した私は、
一般路線の江曽島行きで終点下車。そこから10分歩く羽目になった。
入り口のゲートをくぐり、専門紙を売店が両脇に並ぶ小道を抜けるとスタンドだ。
売り子のおばちゃんが行き交う客に新聞を差し出して声をかける。
パドックは近代的な電光掲示板だが、ファンとの距離は近い。
騎手の応援幕が所狭しと張られていた。
中庭で列をなしているのは、名物の100円焼きそば
を買い求める人々。
濃いソース味の昔ながらの焼きそばだ。
「おめでとー、はい、おめでとー」と予想屋の呼び込みがこだまする。
7レースはベラミスキー特別。ベラミスキーは
北関東三冠ベラミロード、北関東ダービー馬のイヴニングスキーらを輩出した宇都宮、至宝の名牝だ。
ここも内田ファストハーブを中心に据えて買うが、2角では最後方にいた
マイネルエフェクトが追い込み勝ち。内田は2着を確保したものの馬券は抜け。
8レースは生涯成績上位騎手によるスーパースターJCC。
5番人気、内田ガデス流し&単。ガデスは果敢な逃げを打つものの直線失速。
平澤デスピーナ1着、三上智ボストンコマンダー2着。
準メイン9レースは電撃800メートル戦、キングオブスパーク賞。
さすがにスタートダッシュを決めた2頭で決着。馬券は1着3着。
そして迎えた10レース、とちぎ大賞典。
このレースが宇都宮に幕を引く。
大晦日に雪で中止されたナンバーワン決定戦が、
オオトリを飾ることになったのは運命のイタズラだろうか。
馬券は素直に北関東三冠に敬意を表して平澤フジエスミリオーネから4点流し。
南関東に移籍するこのエイシンサンディ産駒には、
ここで負けてもらうわけにはいかない。
パドックでは普段より多く周回した後、ジョッキーがそれぞれの馬の背に跨った。
これが最後のレース。関係者もファンも何も言葉にはしないが、
万感の思いで馬を見つめているのが伝わってくる。
競馬場全体が独特の一体感に包まれている。
向こう正面からスタート。
ハナを切ったのは丸山トウショウゼウス。予想外に縦長の展開だ。
ペースは緩くない。一周目の直線、場内から歓声が沸き上がる。
フジエスミリオーネは後方。
そして2周目、3角から2番人気の鈴木正ハイコンプリートが早めスパートをかける。
乾坤一擲、勝ちにいく博打だ。
それを逃さなかったのが内田ヤマニンバリー。
絶妙のタイミングで追い出して先頭へ。
しかし、フジエスミリオーネが外から襲いかかる。
宇都宮最強の座は譲れない。ゴールでは1馬身半、ヤマニンバリーを切って捨てた。
馬連590円的中。
表彰式、そして閉場セレモニー。主催者を代表して挨拶に立ったのは福田県知事。
「やむを得ない、やむを得ない廃止でした」知事の言葉に、
「何もやらなかったせいだろ」「明日から仕事を失う関係者に謝れ」との罵声が繰り返される。
それでも、野次を覚悟で壇上にあがった知事は、政治家として最低限の責任は果たした気がした。
高崎ではトップは姿すら現さなかったのだから。
騎手を代表して小野三夫がファンに謝辞を述べる。
感極まって大粒の涙をいくつも流したのは3000勝ジョッキー、内田利雄。
ベテランのクシャクシャにした顔に、ファンからも涙がこぼれる。
セレモニー後、馬場が開放され、コースのあちこちで騎手を取り囲んでミニ握手会、サイン会が続く。
スタートゲートによじ登って遊ぶ子どもたち。
もう二度と、このコースをサラブレッドが走ることはないのだ。
後ろ髪を引かれる思いで、私は競馬場を後にした。
この日、宇都宮ではもう一つ、G1が行われることになっていた。
その名も「内田大賞典」。歌手としての顔も持つ、内田利雄のライブショーだ。
勝負服からミスターピンクと呼ばれる内田は北関東きってのエンタテイナー。
市内の小さなライブハウスはファンでいっぱいになり、
内田の歌声と爆笑トークで盛り上がった。
合間にはレースのVTRも上映され、
ベラミロードのサイン入りゼッケンなどお宝グッズの抽選会も行われた。
「宇都宮競馬は終わったけれど、ミスターピンクを胸の中にいつまでもしまっていてください」
そう言って内田が最後に歌ったのは宇都宮競馬の
エンディングテーマ「We Never Say Good Bye」。
「いつかまたどこかで会いましょう。まだ新しい活躍の場は見つかっていないけれど、
騎手をあきらめるつもりはありません」。
競馬場はなくなっても、宇都宮の魂まで消えたわけではない。
内田のメッセージはファンの心に深く響いていた。
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