泥沼化するイラク情勢とハルウララ ~華氏911評~
先週、華氏911を観てきた。 「ブッシュをホワイトハウスから引きずり出せ」と監督が公言して憚らない異色の映画ゆえ、その内容や手法云々以前に、 各々の政治的スタンスから評価を下されがちのようだ。新聞などの映画評もあらかじめ読んでから鑑賞したが、残念ながらどの評論も的を射ていない気がした。華氏911はブッシュの無能とサウジとの癒着ぶりをこれでもかと叩いた後、イラクの惨状と米軍兵士やアメリカ人家族の悲哀を描く。 権力をこき下ろす痛快さ、無垢の子供たちを殺す愚かさ を聴衆に訴えていく。この華氏911をドキュメンタリーやジャーナリズムとして論ずるには無理がある。華氏911は映画という形態を借りたマイケル・ムーア演出の笑いと涙の大娯楽劇と考えるべきだ。だから、 ビンラディン一族とブッシュの石油利権の関係などを 「既に知られている事実ばかり」と批判するのも見当はずれだし、 まして「これは偏見に満ちあふれたプロパガンダだ」 と言う方々は、自身も含めたメディアが摘示する事実は、主観の集合体でしかないという大前提を思い出さねばならない。
未だにアメリカ人の多くはフセインと同時多発テロは関係があり、イラクに大量破壊兵器はあると信じているらしい。アメリカは放送局に政治的公平を求めるルール(フェアネスドクトリン)を撤廃したため、共和党支持の放送局は一切、ブッシュに不利なことは報道しない。だから、フセインとアルカイダが対立関係にあったこと、大量破壊兵器の製造計画は疾うに破棄されていた事実が明らかになっても、その報道に触れる機会を得ることができない のも不思議ないのである。ブッシュ政権の阿呆ぶりと情報操作に踊らされたアメリカ人を笑うことは易しいが、私たちも米軍の快進撃に喝采しながらテレビを見ていたことを否定するわけにはいかない。戦時中、アルジャジーラが躊躇なく放映していたイラク人の死体や、黒こげになって吊されるアメリカ軍属の映像を、 この映画で初めて見た人も少なくないはずだ。
アメリカ人も日本人も、イラク戦争の真実に触れていたのだろうか。権力側の発表も、メディアの報道も、ある部分は事実だろうし、ある部分は情報操作されたものだろう。ブッシュの出鱈目な演説も、危険と攻撃されるマイケル・ムーアの映画も、もちろん例外ではない。問題は垂れ流される大量の情報を思考停止して受け入れるのではなく、刮目を開いて自分で情報の価値を判断できるかどうかにある。娯楽映画(と敢えて言いたい)華氏911も暗にそうしたメッセージを投げかけているように思える。騙す人間がいちばん悪いのは当然だが、騙されない技術を身につけることも必要だ。映画で残念だったのは、イラク戦争に至る経緯が全てブッシュに遡及できるかのようなスタンスだ。この辺りは興行的な理由か、監督自身の限界かは分からないが、 アメリカの本質を問う視野の広さを持ってほしかった。
国内のブログでも華氏911評が花盛りだが、少なくないブログに「映画は観ていないが」と書き添えてある。観てもいない映画を評価できるとは驚きだ。彼らの記事は「華氏911評」ではなく、 「メディアの華氏911評評」にすぎない。情報操作の危険性を論じるなら、まず自分が一次情報に当たる姿勢を見せるのが矛盾しない行為だと思うがいかがだろうか。ともあれ、アメリカのイラク戦争は失敗したのは間違いない事実だろう。自由選挙が行われれば、反米勢力が政権を取ることは明らかで、「イラクに親米政権を打ち立て石油利権を確保する」という目標の達成は非常に困難だからだ。サドル師ら抵抗勢力の反撃は止むことはないだろうし、 イラク情勢は泥沼化の一途をたどるばかりだ。こんな馬鹿な文章を書いている間にも、彼の地ではイラク人と米兵が死んでいく。
ここまで書いてきて、競馬ブログだから競馬の話題に結びつけるのもどうかと思うが、無理を承知で「泥沼化」を共通項に話を続けてみたい。国民的アイドルホース、ハルウララの話である。話題になった当初は地方競馬を盛り上げる清涼剤のような爽やかさがあったのに、いつからか斜めにしかハルウララ騒動を見れなくなったのはなぜだろうか。 9月3日号の週刊ポストに「引退決まったハルウララの映画出演に馬主が待った」 と題する記事が掲載された。馬主は今年3月にハルウララを無償で譲り受けた安西美穂子氏のことである。
「引退した競走馬を引き取って余生を支える活動をしていたので、ウララが話題になり始めた1年ほど前から譲り受ける話を進めていました」「グッズのロイヤリティのうち馬主に入るのは35%で、せいぜい月100万円前後」「ウララを映画に出すのは絶対に嫌です。現役競走馬が出演などおかしい。 3月に武豊さんが騎乗して以後、取材が殺到して神経質になり、知らない人が馬房の前に立つだけで嫌がるほど」(安西氏発言)
安西氏とハルウララブームを続けたい高知競馬、宗石調教師との意思は合致しているようにはみえない。記事は「映画出演をめぐってオーナーと組合・製作会社が対立というあたりが、やはり並みの馬ではない証明か」と終わっているが、コアな競馬ファンには咽に魚の小骨が支えたような結びではないか。もし、マイケル・ムーアがインタビュアーだったら、上記の新馬主の言葉を額面通り受け取るだろうか?この話題を少し触ってみたいが、ここまで長々と書いてしまい読むほうも億劫だと思うので、次回に続くという形にしたい。
※ネタバレしても良い人のためのお奨めサイト
>>町山智浩アメリカ日記
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コメント
> 彼らの記事は「華氏911評」ではなく、 「メディアの華氏911評評」にすぎない。
ていうか、実際映画の内容にはそう興味なくて、
「彼がそういう映画を作ろうとした背景」と
「マイケル・ムーアの政治的スタンス」
みたいなのに関心を持ったりその意図を斜め読みしたいという人が実際結構いて、そういう人が映画も観ずにブログにエントリ立ててるってことじゃないでしょうか。俺もそーなんですけど(笑)。
ムーア自身はオモロイ人だなぁと思ってますが。
投稿: 有芝まはる(ry | 2004.08.27 21:37
>有芝まはるさん コメントありがとうございます。そうでしょうね。一方で「彼がそういう映画を作ろうとした背景」と「マイケル・ムーアの政治的スタンス」って、メディアが報じたものから推測するか、著書を読むかしかないわけで。でも、本丸はやはり映画ですよね。全国公開される前は思いこみだけで書かれたエントリーがけっこう目についたんです。まあ、どんな批評や批判を書くにせよ、「華氏911」についてのものだったら、とりあえず観てみればいいじゃんと思うんですがねぇ。私だったら観ないでは怖くて書けないです。で、観た上で言うと、殿下のエントリーは当を得ていると思いました。ご覧になったら、また違う感想を持たれるかもしれませんよ(^_^)
投稿: うまむ@馬耳東風 | 2004.08.28 00:20
馬耳東風さま
お初でございます。私のブログへのコメントありがとうございます。実は馬耳東風へはもう5年以上前から拝見しておりました。特に「言いたい放題・重賞対談」の大ファンでございます。私のサイトでも「きまぐれG1対談」と名を変えてパクらせて頂いております(笑)(中身はオリジナルですよ)
で、ハルウララですが、私も最近は食傷気味です。
ハルウララに罪は無いですが「負ける馬が人気」というのは、やはり不自然です。競馬の意味が根底から覆されているのです。今ならウララよりコスモバルクに注目を当てて欲しい。
「強い地方馬に人気が集まる」
同じ判官びいきでも、これが自然な流れです。
投稿: 馬三人 | 2004.08.28 09:00
>馬三人 お世話になっています。重賞対談、秋にまた復活しますので、お楽しみになさってください。やはりハイセイコーやオグリのような地方馬が現れてほしいですよね。
投稿: うまむ@馬耳東風 | 2004.08.29 15:57
瑕疵‥じゃなかった華氏911のこともハルウララのこともあんまり詳しくないのですが。
ハルウララの映画見たい人っているのかな??NHKのドキュメント位でおなか一杯な人が多いような気がするのですが‥。
投稿: エアママ | 2004.08.31 17:53
>エアママさん そうですね、公開される頃にはすっかり忘れられてるかも。。。なんとなくストーリーも見えちゃってるし、ヒットという気はしないですねぇ。
投稿: うまむ@管理人 | 2004.09.02 16:35