2009.07.10

0勝ジョッキー・大江原圭 ついに1番人気で初勝利か?

武豊の新人最多勝記録を更新した三浦皇成、ことし12勝をあげて人気騎手の一角に食い込みつつある伊藤工真。少数精鋭、華の24期のなかで、唯一、勝ち星に手が届いていないのが大江原圭だ。父と叔父が障害の名手だった大江原は、競馬学校時代は注目される生徒だった。模擬レースで競えばいつも先頭でゴール。日本ハムの新人選手との交流会では中田翔にムチを贈り、「同じ18歳には負けたくない」と啖呵を切る大物振りを発揮。将来性あふれる輝きは眩かった。そんなストイックな大江原が「親族に甘えたくない」と選んだのは栗東・作田厩舎。ところが、デビュー初日に騎乗停止の大失態を犯してから、大江原の歯車は狂い始めていった。結局、1年目は86戦して連対すらなし。2年目、ついに作田厩舎をクビとなり、親族のいる美浦へと帰ってきてしまったのだ。

そうしたなか、大江原が中田翔にムチをプレゼントしたエピソードが、美談を書きたがる新聞の格好の餌食となるのも時間の問題だった。未勝利ジョッキーに用はないと言わんばかりに、中田がもらったムチは天才・三浦がプレゼントしたものだと繰り返し喧伝され、中田自身「あいつ、ホンマすごいッスね。ムチ? マジ、宝物やわ(報知)と洗脳される始末。競馬学校が「実際には大江原圭が、自分のムチを手渡したものです」とブログで訂正しても世間に声は届かない。それどころか先月、三浦の報道が紙面を賑わした際、再びムチのエピソードが蒸し返され、「ほんまか? うそやろきっと。だいぶ年齢離れてるやん」と中田の反応が関連記事として掲載されたほど。既成事実という奴である。

実は中田と三浦皇成は同学年。お互い連絡先を交換している仲で、私は偶然にも2人の初対面に居合わせた。… その日の帰り際、三浦はレース用のムチを中田にプレゼントした。続けて「今度バットをください」と控えめにお願いすると、「おう、ええよ。10本でもやったるわ」。“アニキ”はそう言って胸をたたいていた。とても同学年とは思えない、2人の不思議な光景だった(日刊「中田もいつかは熱愛…いや大活躍で1面に」)

記事を素直に読めば、中田どころか、初体面に居合わせたはずの記者の脳内でも、すでに大江原の存在は消えてしまっているようだ。きっと記者は初々しい三浦が中田にムチを差し出す光景を何度も心に描きながら、筆を進めたに違いない。この時、私は「事実など存在しない。真理とは、その時代、もっとも説得性を持つか、力を持った者による解釈にすぎない」という哲学者の言葉を改めてかみ締めるのである。週末に調整ルームへ呼ばれることもなく、厩舎のせんべい布団に包まって悔し涙を流す大江原の姿を思い浮かべながら。

しかし、明けぬ夜はない。美浦に移籍して、父と同じ障害の道を切り開こうと歩み始めた大江原。ある1頭のサラブレッドと運命的な出会いを果たす。ニューイングランド産駒のモルフェサイレンスだ。3歳時は平地で8戦0勝。それでもあきらめなかった。古馬になり障害へ転向すると、大江原を背にして2戦目で3着に好走して初めて馬券圏内に。3戦目となった前走は2着に入り、大江原に初連対の偉業をプレゼントしたのである。着実に力をつけてきたモルフェサイレンスは12日(日)、福島4レースに出走する。前走で連対しているライバルは皆無で、モルフェサイレンスは1番人気に推される可能性が高い。挫折、転向、そして初勝利をめざす人馬は、どこか惹かれあうアイデンティティを持っているのかもしれない。1年遅れでデビューした5人の後輩たちは、もう4人が勝利をあげた。通算117戦0勝の大江原、今週の福島で男となれるだろうか?

>>伊藤工真と大江原圭 忘れちゃ困る少数精鋭の24期(09/02/12)

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2009.07.06

英二冠馬・シーザスターズ 古馬初対決も快勝

4日、シーザスターズが古馬との初対戦となったエクリプスSを快勝した。同馬は英2000ギニー、英ダービーを圧倒的な強さで制してナシュワン以来、20年ぶりの二冠を達成。その後、先週のアイルランドダービーを回避して、エクリプスSに臨んでいた。シーザスターズの母は93年の凱旋門賞馬・アーバンシー、半兄は英愛ダービーを勝ったガリレオ。超のつく良血馬だ。順調に行けば秋の凱旋門賞では、日本のブエナビスタの前に立ちはだかる最大の敵になる。そのブエナビスタは札幌記念を前哨戦に据えて、古馬に挑むスケジュールが発表された。今年の札幌記念は大いに盛り上がることが予想される。

唐突にこんなエントリーをしてみたのは、シーザスターズが勝った同じ頃、私も出張でイギリスの空の下にいたから。もちろん、仕事関係しか赴くことは許されず、街中の馬券売り場も指を咥えて通り過ぎるのみである。ホテルの部屋にあった観光ガイドの表紙は競馬場。どんな特集記事かと思ったら、先月のロイヤルアスコットの案内だった。ファッションショーの開かれるレストランの午後茶つきチケットは517ポンドからと書いてある。値段もロイヤルだ。去年、来たときはポンドは240円もして泡を吹いたが、今は170円ほど。それでも物価は高い。イギリスもいつか競馬観戦に訪れたいもの。今夜、こちらを発って帰国。

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2009.06.30

タキオン急死 ”種付け頭数制限”は妥当性を持つか?

今月22日、社台スタリオンステーションに繋養されていたアグネスタキオンが、急性心不全のために死亡した。享年11歳。種付けシーズン終盤、放牧中の出来事だった。アグネスタキオンは無敗で皐月賞を制覇、種牡馬入り後はダイワスカーレット、ディープスカイなどを輩出し、去年は父サンデーサイレンスに代わって初のリーディングサイヤーに輝いた。今年の種付け料はディープインパクトと並ぶ1000万円。トップサイヤーの急逝は競馬界に大きな衝撃をもたらした。そして、急性心不全と聞いて、少なからぬ人々が種付け頭数との死亡の因果関係を想起したようだ。アグネスタキオンの種付け頭数は、一昨年、昨年と200頭を超える人気ぶり。今年もすでに200頭前後の種付けを終えていたとされる。アグネスの渡辺孝男オーナーも例外ではない。「急性心不全だと聞き、無理をさせすぎたのかなと、大変がっかりしました」(週刊Gallop 7/5)と述べている。直接的な言葉ではないが「無理をさせすぎた」とは種牡馬として働かせすぎたの意だと解するのが適当だろう。

同様、ネットでもファンや評論家らが同馬の死を悼むとともに、種付け頭数の多さを指摘している。「完全に正しいかは言い切れないがその原因に種付け過多は少なからず関係しているとは思う」(縦目安箱)、「常軌を逸した(個人的感想だが)種付け頭数は種牡馬にとってプラスになるものではない」(水上学のこれだけは言わせて!!)。だが、こうした意見のほとんどに個人の感慨を超える論拠は見当たらない。おそらく、多ければ一日に5回も種付けを行う種牡馬に人間を投影させて消耗の激しさを想像しているか、 90年代前半まで年間100頭が種付けの限界だとされてきたことが強い印象を与えているのではないか。ここ10年余、急激に種付け頭数が増えた背景には獣医学の進歩によって、繁殖牝馬が受胎しやすい時期を把握できるようになり、効率の良い交配が営めるようになったことがある。つまり、1頭の牝馬への発射回数を減らすことが可能になったのだ。とはいえ、従前の100頭と、現在の200頭との間に、どれほどの回数の差があるのかは私には分からない。交配時期も早めにスタートするようになったこともあり、単純な比較はできない。

一方、種付けの行為そのものが、身体的負担を生むことは否定しようがない。 1960年代、1日4回のお勤めを果たし、ワンシーズン238頭の世界最高記録を樹立したセイユウ。”性雄”の仇名で知られたこのタフネスも、23歳のとき、心臓麻痺で倒れている。本質的に競馬は動物愛護の精神とはかけ離れている。人間のエゴやビジネスで近親交配を繰り返し、大部分の馬を淘汰し、選りすぐった馬にも自然ではありえない種付け頭数を強いるのだから。極端な話、種牡馬の健康だけを考えるのならば、人工授精を解禁すれば良い。そうすれば、一度の射精で何十頭分が賄える。DNA技術が発達した現在では親子関係の取り違えを防ぐことは容易で、"自然主義"に拘ることは競馬界全体の共同幻想であり、種牡馬ビジネスもその内にある。仮にアグネスタキオンの死因が種付けによる負担にあったとしても、「社台の『異常な独占的儲け主義』がまねいた事故」(大橋さんの競馬予想)と同じ共同幻想内にあるファンだけが責任を逃れ、倫理的な非難を加えることは矛盾なのである。現実として、昨年、社台SSでは10頭の種牡馬が200頭以上に種付けし、そのうち9頭は今年も無事にシーズンを終えた。体調管理に瑕疵ありと指差す根拠を誰か持っていようか。

社台の責任を指弾するブログのなかには、「種付け頭数制限を早急に導入せよ」(馬の写真with余計な一言)と主張するものもある。これまでの考察からほとんどの部分には同意できないが、特定の種牡馬への一極集中を是正する施策としてのみ、種付け頭数制限が妥当性を持つか検討に値する。「ある種牡馬の飽和状態になると、近親交配を避けるため、その系統の種牡馬は繁殖機会を失い消滅する」、いわゆるセントサイモンの悲劇はどうか。日本では今、まさにサンデーサイレンスがセントサイモンの道を辿りつつある。だが、主流父系が栄枯盛衰を繰り返すのは歴史の必然。その度に異系の血が新たな活力をもたらし、旧主流の血は母系に内包されて力を発揮することになる。一つの血が父系として絶える現象は恐れおののくものではない。むしろ問題は、主流血統に対する異系の血を後世へ遺すチャンスが、これまでにない速度で奪われるところにあるのかもしれない。生産頭数が減り続ける現状、1頭あたりの種付け可能数が倍になることは、中流以下の種牡馬の交配頭数が急減していることを意味する。格差社会は到来済みだ。しかし、漠然とした不安はあっても、その先に現実的な危機があると立証するのは難しい。

仮に私的なビジネスにくびきをつける種付け頭数制限が実施されるとすれば、理性や科学的知見に基づいた討議と、すべての当事者が受け入れ可能な規範について合意がなされねばならない。その妥当性を見出す敷居は低くなく、種付け頭数制限が強制力をもって実施される可能性は少ない。であればこそ、もっと公に開かれた場で種付け頭数の適性値や、一極集中化の影響について、具体的なデータとともに問い続けることは必要ではないだろうか。最後に、1997年、吉田照哉総帥が社台寡占化が進む種牡馬ビジネスに対して披露した識見を紹介したい。「みんなのレベルが上がらなければ、いつまでたっても日本は競馬後進国です。…いくら獣医学が発達したと言っても、 180頭も交配したらさすがに心配なんですが、頑張ってもらうしかありません。…交配する生産者は社台スタリオンにとって大切なお客さんですから」(競馬種牡馬読本2)。過去、あまたの失敗を繰り返し、繁殖牝馬の質をあげ、ようやく世界の一流種牡馬を売ってもらえるまでに漕ぎ着けた社台の執念。例え、ファンや評論家が現在の社台の方針に批判的な立場を取り、それが正当なものだとしても、種付け頭数の急増が日本競馬のレベルを飛躍的に高めた事実を踏まえた言説でなければなるまい。

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2009.06.28

2009 宝塚記念予想

グラスワンダー、ダンツフレーム、スイープトウショウ。ディープスカイと同じく、安田記念2着から宝塚記念をめざした馬の成績は悪くない。データ的にも4歳牡馬は飛びぬけた連対率を誇っている。だが、そんな数字よりも、これまでダイワスカーレットやウオッカという希代の最強馬を相手にして、互角に渡り合ってきたディープスカイの実力を信じてみるべきだろう。亡き父、アグネスタキオンの血を継承するには、ダービー以来のG1タイトルはきっちり取っておきたい。強敵はアルナスライン。前走の天皇賞春は内容的には勝ち馬を上回るものだった。先行有利、上がりも多少かかる展開なら、逆転の目もありうるか。3連単はこの2頭を軸にして、勝負してみたい。

◎ディープスカイ ○アルナスライン
△サクラメガワンダー、ドリームジャーニー、アドマイヤフジ、

 カンパニー、マイネルキッツ

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2009.06.23

ウオッカは宝塚記念回避 秋への充電もファンサービス

13万9507票を獲得し、断然のファン投票1位に選出されたウオッカは、宝塚記念を回避することとなった。今年はドバイで2走し、帰国後はヴィクトリアマイル、安田記念を連勝。常識的に考えれば牝馬に上がり目はなく、疲労も心配される状況で出走させることに懐疑的だった私は、正直ほっとさせられた。もちろん、ウオッカが参戦すれば宝塚記念も盛り上がるだろうし、ディープスカイと2200メートルで再戦するところも見てみたかった。馬券も売れたかもしれない。だが、ウオッカの適性はG1で5勝をあげた府中なのは明白で、宝塚記念は取りこぼす可能性は少なくない。G1最多勝のタイ記録の7勝を狙う舞台には相応しくあるまい。サラブレッドはデジタルデータではなく、現実世界の消耗品なのだから。

3歳時、ウオッカは「ファンのためグランプリを盛り上げたい」と谷水オーナーの強い意向で宝塚記念に出走したものの、不運なアクシデントも重なって惨敗。結果的に秋まで影響を引きずることになってしまった。ことし、谷水オーナーは「13万票も入れてくれたファンの方の気持ちも考えましたが、ウオッカの身になれば、この間隔で使うのはどうなのか。今回は、僕のわがままを通してもらいました」(報知)とコメント。誠実すぎるほどのファン重視の姿勢は頭が下がる。しかし、ある程度、能力や適性がはっきりした5歳、すべてのG1にトライする必要はどこにもない。改めて戦績を振り返れば、ここまで22戦も無事に走らせてきた陣営の手腕に驚かされるばかり。夏はゆっくり休んで、秋に雄姿を見せてほしい。楽しみを未来に取っておくのもファンサービスだ。

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2009.06.21

新馬戦スタート 注目ダノンパッションの初戦は?

いよいよ新馬戦がスタート。かつて、夏競馬デビューなどといったら早熟馬の代名詞のようなものだったが、育成技術や幅広い距離でレースが行われるようになったことで、状況は大きく変わった。ここ3年、開幕週にデビューした2歳馬のうち、何と8頭が重賞勝ちを収めているそうだ。去年は朝日杯を制したセイウンワンダー、一昨年はファンタジーS勝ちのオディールが開幕デビュー組だ。ことしの目玉は池江郎厩舎が自信を持って送り出すダノンパッション。父アグネスタキオン、母スターズインハーアイズで、半兄にアインクラス、プレザントブリーズ、叔父にディープインパクトがいる良血馬。何かとペーパーファンには不人気のダノンの冠だが、そろそろ当たりを引いても良い頃合ではとの声も聞く。追い切りはあのヴェラブランカを2馬身半突き放す大物ぶり。池江郎師も最後のダービー世代だけに、例年より気合の入り方が違うはずだ。

ところで、土曜日に行われた新馬戦で勝ちあがり1号になったのは阪神のエーシンダックマン。POG指南書でも注目されていた評判馬の順当勝ちだった。一方、福島では10番人気リネンパズルが単勝60倍の大穴。このレースでは2番人気のグリーンウィズダムが躓いて転倒し、予後不良となるアクシデントがあった。鞍上の後藤は全身打撲というから心配だ。そして、巻き込まれて落馬したのが吉田豊で、その馬名がブラックジョークというのは本当に笑えない。阪神でも歩様異常で競走中止した馬がいたが、やはり経験のない若駒の初戦は想定外のことが起きやすいのだろう。もう1鞍、札幌の新馬戦は単勝55倍のコスモソルスティスが波乱を呼んだ。果たして単勝1倍台前半も予想されるダノンパッションは第一関門を突破できるだろうか。意外に2、3番人気の単あたりは悪くない賭けかもしれない。

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2009.06.19

”疑惑の裁決”が産んだ大改革 満たされぬ正しさ求めよ

ここ2週続けて、調教師から裁決に関する不満がファンに漏れ聴こえてきた。1人目は橋口師。7日(日)の中京11レース、管理するルミナスハーバーは直線で2位入線馬の進路を妨害したとして降着処分となった。ルミナスハーバーは被害馬と馬体を併せに行った際、2度ほど接触するシーンがあった。これを降着とするのは素人目にも厳しい処分のように感じさせられたが、橋口師も納得せず、裁決不服申し立てに関する審理を行う不服審理委員会へ訴えでようとした。だが、トレセン業務の仕事始めである水曜日(月火は休日)に公正室に赴いたところ、「不服申し立て期限はレース後2日まで」だとして申し立てを認められなかったという(スポニチ)。2人目は矢作師。13日(土)の東京8レース、1番人気に推された管理馬のブレーブビスティーが大外から伸びてきた際、前の馬が外に膨れて減速させられる場面があった。審議のランプは点かなかった。矢作師はパトロールフィルムで被害場面を確かめるため、確定を遅らせるよう頼んだが、裁決は聞き入れなかったとする(公式ブログ)

橋口師の件は冗談としか思えない内容だが、事実ならお粗末すぎる欠陥であるし、こうして報道された以上は早急に改善されるだろう。不服審理委員会は20日付けで岡部幸雄元騎手が外部委員として登用されて話題になったばかり。従来はJRA役職員だけで構成されていたが、客観性や透明性を高めようと改革がなされた。騎手経験者を裁決にという声は昔からあったが、不服審理委員会という一段上の審議機関とはいえ、元ジョッキーの存在がどんな影響をもたらすのか、興味深いところではある。矢作師の件は性質が異なる。「円滑に開催を進行させたい裁決は急かそうと」して、2分半ほどのパトロールフィルムが再生し終わる以前に、レースを確定させてしまった。被害を訴える機会を失ったのである。JRAは今年1月、「審議から確定に至る手続き」を見直しを図り、ファンサービスのため、審議レースを減らすこと、速やかな確定に努めることを目標に定めている。矢作師のケースでは、着順変更を要する可能性のある妨害はないと考えて、ならば速やかな確定を優先させたということかもしれない。正確性か迅速性か。妥当性の是非は部外者には分からない。

ところで、この1年ほど、審議や走行妨害に関するJRAの改革路線には目を見張るものがある。巨大組織を動かすきっかけとなったのは、去年の「オークス疑惑の裁決」事件だろう。1位入線のトールポピーが大きく斜行して複数馬の進路を妨害し、鞍上は騎乗停止となったものの、着順変更は行われなかったレース。”分かりづらい裁決”が波紋を広げた。判定基準の曖昧さ、決定の不透明性、公平性の不担保といった批判のほか、特定の馬主に処分は甘いのではないか、被害側も加害側との力関係で真実が述べられないのではないかなど、従前の問題点を指摘する声が噴出した。間もなくJRAはサイトで「走行妨害の判断ポイント」など判定基準を簡明にして公開。1月には裁決業務の見直しを実施し、馬の癖など偶発的要素による走行妨害は「騎乗停止1日」とする、重大な過失は走行妨害に至らずとも「騎乗停止2日以上」にできるなど、ファンが理解しやすい制裁の改定も行った。あまり注目されていないが、確定前の事情聴取対象を被害馬の騎手に限定したのは、加害側の立場によって裁決が左右されることのないよう張った思い切った防衛線か。審議とは一義的にファンのためになされるべきと私は考えているから、当事者感情に流されないことは核心のひとつである。

新ルール施行後、きさらぎ賞で藤田騎手がバカついた馬を必死に立て直したものの、進路妨害があったとして騎乗停止1日とされた件があった。藤田騎手は「競馬役職員の無能な現実を沢山の方々に知って頂きたい」(公式ブログ)と感情を爆発させたが、「偶発的要素による走行妨害」と認めたからこその騎乗停止1日であり、規定趣旨に沿った判断と言える(すぐに藤田騎手の怒りも収まったよう)。無論、法やルールは一般的形式的なものであり、特定のケースにおいて正しさを実現する保証はない。また、偶発的要素による走行妨害の責めを騎手に帰する(調教師でも馬そのものにでもなく)という規定が、未来永劫、不変というものでもない。一度、規定は確立されると、その源となった価値判断の信憑性を隠そうとする力が働く。それ故、常に多方面からの問いかけを反芻しながら、より良い方向へと運用、改定していくことが必要となる。その点、騎手、調教師、ファンの活発な言動と、それに対するJRAの柔軟なレスポンスは好ましい循環にあるように思える。オークス疑惑の裁決も一連の契機としては肯定的に捉えられるほど、この1年の動きは画期的である。大切なのは、満たされることのない正しさを求める運動を継続させていくことだ。

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2009.06.18

POG指名馬レビュー レーヴドスカーに1位の敬意

今月7日、安田記念の観戦後、府中グリーンプラザで恒例のPOGドラフト会議が行われた。参加メンバーは8人で1人12頭持ち。兄弟馬、母馬を過去に指名していた参加者は、同順位で指名が重なった場合は獲得の優先権を得る。戦々恐々としていた1順目であったが、指名が重複することなく淡々と終了。ちなみに他の7人の1位指名馬を列記しておくと、カザンリク(母ビリーヴ)、セイクリッドセブン(母グレースランド)、ヴェラブランカ(母アドマイヤサンデー)、レッドステラーノ(母ロンドンブリッジ)、アドマイヤゲーム(母アドマイヤグルーヴ)、アーデルハイト(母ビワハイジ)、シャガール(母スカーレットブーケ)であった。兄に堅実ドリームパスポートがいるとはいえ、セイクリッドセブンが1位で消えたのは意外だった。では、拙獲得馬を期待を込めて軽くレビュー。

1位・レーヴドリアン(スペシャルウィーク×レーヴドスカー)
母レーヴドスカーは3年連続でPOG期間内にオープン馬を輩出してきた名牝。持ち込み馬だったナイアガラから指名をしてきたのだが、とうとう今年は上位人気になりそうな気配だったので敬意を払って1位で行くことにした。ナイアガラがファンタスティックライト、レーヴダムールがファルブラヴ、アプレザンレーヴがシンボリクリスエスと、決してペーパー向きでない種牡馬が続いた後でのスペシャルウィーク。出来すぎた話ではあるが、そろそろクラシックホースを出してもおかしくない。じっくり、長めの距離で使い出していただきたい。池江パパでなくマツパク厩舎。

2位・アドマイヤプリンス(アグネスタキオン×プロモーション)
なんだかんだ言っても、今年はアグネスタキオンのぶり返しがやってきそう。半兄アドマイヤメインは毎日杯、青葉賞を連勝してダービー2着している。遅生まれはネックだが、スピードもスタミナも恵まれていそうな配合。良血が揃ったアドマイヤ軍団のなかでも優良株ではなかろうか。レーヴドリアンと同じくマツパク厩舎。やはり、デビューは遅めか。

3位・リアライズトロイカ(キングマンボ×バリストロイカ)
父は言わずもがなの世界的大種牡馬で、母の父はニジンスキーという大物配合。しかも、全姉に英1000ギニーなどG1で4勝をあげたラシアンリズムがおり、近親にもディクタットやケイプクロスなどが名を連ねる名門一族だ。本格派ならクラシックの王道路線でと思うが、森厩舎のキングマンボと聞くと、交流競走のホープか、とも連想させられる。ぜひ前者で。

4位・ラプリマステラ(アグネスタキオン×ラプーマ)
ここで牝馬指名。友道のキャロット馬。早めに進んでいることもあってか、過剰人気の嫌いもないわけではない。公式の情報を見ると「まだ自分から走る気を見せていない」 などという心配なコメントもあるが、ひとまず27日の阪神1400でデビューさせる方向ではあるらしい。

5位・アドマイヤジャガー(ネオユニヴァース×レジェンドトレイ ル)
2頭続けて友道厩舎だ。某指南書で友道師が「ネオユニヴァースの最高傑作かもしれない、アンライバルド以上かもしれない」と吹きまくっているのに乗せられてしまった。母はケガで未出走、繁殖入りしたが、シンコウラブリイの妹にあたるハッピートレイルズの系統。札幌デビュー予定。

6位・スクーデリアピサ(クロフネ×フサイチエアデール)
フサイチリシャール、サイオンの全弟となるクロフネ産駒、白井最強。ギャロップのカラーグラビアで堂々のトップを飾った。白井師談「スピードがありそう。距離は1800メートルくらいは持つんじゃないかな」。めざせ朝日杯! ぜんぜんダメだったらダート路線で。

7位・ウィンターコスモス(キングカメハメハ×ミスパスカリ)
母はブルーアヴァニューの娘。マーメイドSで3着などした実績がある。つまりはクロフネの姪っ子にあたるわけだが、父母ともに金子馬で、本馬も金子HDの所有。生粋の金子ブランドである。去年がファーストクロップだったキングカメハメハの評価は難しいが、代表産駒がフィフスペトルとゴールデンチケットというのは物足りない。2年目は牝馬で一発。松田国。

8位・母スーア(アグネスタキオン×スーア)
半姉ソーマジック、半兄サトノエンペラーはともにシンボリクリスエス産駒だった。アグネスタキオンに代わって、完成するのが多少は早くなるのではとの期待を込めて指名した。兄と同じ藤沢。

9位・ラッキーダイス(ネオユニヴァース×ミスベガス)
これも藤沢。新馬、芙蓉Sを連勝したダイワプリベールの半妹。すでに入厩しており、札幌デビューと報じられている。この厩舎の牝馬にしては早めの使い出し。母は米・伊で9戦7勝の戦績をあげ、スプリンターとして活躍した。本馬もスピードが勝ったタイプだろう。

10位・エイシンゼウス(Giant's Causeway×Baraka)
毎年、コンスタントに活躍場を出している栄進牧場。そのイチバン馬との評判になっている。母はファインモーションの全妹となるデインヒル産駒。スケール感の大きさに引かれた。国枝厩舎との噂も。デビューは秋か。

11位・サトノサンダー(Smarty Jones×Line of Thunder)
兄、米2冠・サンダーガルチを産まれたのは17年も前のこと。バトルラインなど、その後も毎年のように仔馬を誕生させている母は偉大だ。いかにもなダート馬だが、どうでるだろう。早めの仕上がり。藤沢3頭目。

12位・チタニウムヘッド(スウェプトオーヴァーボード×カツラドライバー)
最後は遊んでみた。安田隆厩舎。夏のデビューめざす。エフティマイアの半弟ということで、この馬も意外なところで爆走してほしい。

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